猫の脱水症状|症状や原因、治療法を獣医師が解説
猫の脱水症状は体が正常に働くために必要な水分が不足したときに起こります。原因は単純に水を飲んでいないことから、環境の変化や病気によるものまでさまざまです。脱水症状の原因や対処法、治療法について獣医師の佐藤が解説します。
猫の脱水症状とは
水は五大栄養素「タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル」に加えて六大栄養素に数えられることもあり、体から20%失われただけで死に直結するほど欠かせない栄養素です。
猫の脱水症は、水分摂取量の不足や環境の変化、病気など、さまざまな要因で引き起こされます。特に猫は砂漠に住むリビアヤマネコを祖先として、乾燥した環境で生存するため軽度の脱水状態でも正常な活動ができる体のつくりをしています。
しかし、濃くなった尿は膀胱炎や尿路結石など下部尿路疾患のリスクを高めるため、脱水状態は決して望ましい状態とは言えません。脱水状態にならないようにすること、なってもすぐに気づいて対処することは、愛猫に長生きしてもらうため重要なことなのです。
猫が飲むべき水の量
猫が1日に必要とする水分量は体重ごとに異なり、体重3kgで190ml、5kgで280ml、7kgで360mlが目安です。詳しくは以下の表をご確認ください。体重 | 水分量 |
---|---|
2kg | 140ml |
3kg | 190ml |
4kg | 240ml |
5kg | 280ml |
6kg | 320ml |
7kg | 360ml |
8kg | 400ml |
9kg | 440ml |
10kg | 470ml |
参照:「飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~」(環境省)
脱水症状になりやすい猫種
脱水症状は年齢や猫種に関係なくどの猫でもなる可能性がありますが、体力が落ちて水を飲む機会が減るシニア猫(老猫)はなりやすい傾向があります。意識して飲みやすい環境をつくってあげましょう。猫の脱水症状の症状
脱水状態になった猫は以下のような症状が見られるようになります。
- 元気がない・動かない
- 食欲不振
- 意識障害
- パンティング(呼吸や心拍数が速い)
- 歯茎が乾燥・ネバネバする
- 目がくぼんで見える
- 皮膚に弾力がない
- 尿が濃い
元気や食欲がないというのは脱水症に限らずさまざまな問題でも見られますが、「皮膚に弾力がない」という状態は脱水症の可能性が高いことを示唆しています。そこで皮膚の状態を確かめるためのテストを紹介します。
ツルゴールテスト(皮膚つまみテスト)
ツルゴール(Turgor)とは「皮膚の張り」を意味し、猫に限らず人間でも脱水症状を起こしているかどうかを判断するために行われるテストです。日本語で「皮膚つまみテスト」とも呼ばれます。やり方は、猫の肩のあたりの皮膚を軽くつまんで引っ張ってから離します。このとき皮膚がゆっくりと戻るようであれば脱水症が疑われ、戻らない場合は重度の脱水症の可能性があります。
疑わしいケースでは「皮膚がゆっくりと戻る」の程度がわかりにくいと思いますので、正常な時に戻り方を確認しておくと、いつもと違う戻り方に気づきやすくなります。
猫の脱水症状の原因
猫の脱水症で最も多い「水分の摂取不足」では、以下のような理由が考えられます。
- 水飲み皿が空になっている
- 循環式の水飲み機が停止した
- 口が痛くて飲めない
- 体が痛くて動けない
- 動く体力や気力がない
- 水飲み皿に近寄れない(嫌なモノや音)
- ストレスでそれどころではない
脱水症というと熱中症を思い浮かべる方も多いと思いますが、夏の暑い日に限らず、日向ぼっこや冬でも暖房の効きすぎが原因になることがありますので注意が必要です。
その他、下痢や嘔吐が続くと怖いのが脱水症ですし、糖尿病や腎臓病、腫瘍、甲状腺機能亢進症といった病気が原因で脱水症になる可能性もあります。
猫の脱水症状の対処法・治療法
脱水症になった際は水分補給が重要になりますが、急に大量の水分を補給してしまうと体内のミネラルバランスが崩れたり、心臓や腎臓に過度な負担がかかったりしてしまいます。少しずつ与えていかなければいけません。
重度の脱水症であれば、動物病院で輸液(皮下点滴)を行います。脱水症は緊急性が高い可能性がありますので、飼い主さんの判断でご自宅での様子見は行わず、すぐ病院に相談していただくことをお勧めします。
特に、猫に水をかけたり、スポイトで無理やり飲ませようとしたりすることは避けてください。誤った処置を行うと別の問題につながる危険があります。
脱水症の予防法
適切な水分摂取は脱水症の予防はもちろん、膀胱炎や結石などの予防にもつながりますので普段から気をつけていただきたいです。以下を参考に、ご家庭で工夫してみてください。- ドライフードではなくウェットフードを与える
- 水を定期的に交換して新鮮さを保つ
- 水飲み皿を複数用意する
- 部屋ごとに水飲み皿を置く
- 噴水式の水飲み機を使う(予期せぬ停止に注意)
- 鶏肉の煮出し汁を与える(与えすぎに注意)
ウェットフードには水分が多く含まれるため、食事をしただけで水分摂取になりますし、食事から水分を摂ったほうが、同量の水を飲むより吸収率が高いとされています。水分摂取に不安のある子は毎日のごはんをウェットフードにしてあげるといいでしょう。
まとめ
猫は脱水症になりやすく要注意
重度の脱水症は命に関わる
環境の変化や病気が原因の場合も
兆候に気づき対処することが大事
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