猫の虫下しとは?虫や薬の種類、症状などを獣医師が解説
動物病院で猫ちゃんを診察する機会が多くあります。その時、おうちの方から「便と一緒に白い変なものが出てきた」という声を耳にします。その白い変なものが、お腹の中で寄生する虫であることが非常に多いのです。その虫の種類にもいろいろあり、猫ちゃんに与える影響もさまざまです。中には、猫だけでなく一緒に生活している人間にも寄生する危険性があるものも存在します。今回は猫で多くみられるお腹の中の寄生虫、つまり内部寄生虫とその駆虫というものについて、ますだ動物クリニック院長の増田が解説します。
猫に感染する寄生虫
一口に寄生虫といっても、その種類は実にさまざまです。まず、猫でよく見かけるおなかの寄生虫は大きく以下の3つに分類できます。- 原虫類
- 線虫類
- 条虫類
原虫類
糞便中のコクシジウムオーシスト
肉眼で見ることができない非常に小さな生命体です。その他の線虫や条虫と比べて原始的な生物であり、構造も単細胞となっています。
宿主(この場合猫)の細胞の中で寄生して増殖する形態をとります。代表的なものはジアルジア、コクシジウムと呼ばれるものです。どちらも幼猫の糞便から検出されることが多く、水状の下痢を伴います。
線虫類
簡単に言うと、ミミズっぽい形をしている虫です。線虫のグループに含まれる仲間は土壌中や海の中など地球のあらゆるところに生息するといわれます。そのうち、猫のおなかに寄生する線虫は基本的に色が白く紐状をしています。子供のころ蟯虫検査をやった覚えがありますが、その蟯虫も線虫に属します。種によってミミズのように太さが頭からお尻までほぼ均一なものもあれば、先細りしていくものもあります。腸に噛みつきながら寄生するもの、腸管の中で栄養を横取りしながら生息するものもいます。
線虫類の中でも猫でよくみられる虫は下記のとおりです。
- 回虫
- 鞭虫
- 鉤虫
1.回虫(猫回虫、犬小回虫など)
回虫卵
全長が10cm程度で、虫の卵を口から取り込んだり、子猫の場合は母猫の母乳や胎盤を通じて感染します。
腸管の中で猫が取り込んだ食物を栄養にしています。腸管に傷をつけることはないので、回虫が寄生していても下痢などの症状がほとんどないのが特徴です。
ただし、本来寄生する動物でない人間に寄生すると、幼虫移行症(トキソカラ症)という重大な症状を生じます。従って、回虫は人畜共通感染症のひとつとされています。
2.鞭虫
鞭虫卵
体長は約7cm。虫の卵を口から取り込むと寄生します。ムチのように尾の部分が先細りしているのが特徴です。腸管粘膜にかみついて寄生するため、下痢や血便などの症状が出ます。
3.鉤虫
体長約2cm程度と小さい虫です。回虫と同様に母猫の胎盤や乳汁から寄生することがあります。このほか皮膚から侵入するルートもあります。条虫類
一般に「サナダムシ」と呼ばれる仲間が条虫です。頭節といわれる腸管に食いつく部分と、多くの節状の片節と呼ばれる部分で構成されています。長さは、種類によって数cmから1mを超えるものまでさまざまです。片節ごとにちぎれるようになっていて、この部分だけが便から排泄されることが多いです。条虫類の中でも猫で目にする機会が多いものは下記のとおりです。
- 瓜実条虫
- マンソン裂頭条虫
- 猫条虫
1.瓜実条虫
瓜実条虫の卵嚢:この中に瓜実条虫の卵がたくさん詰まっている
瓜実条虫卵:卵嚢から飛び出している丸いものが卵
この条虫の幼虫はノミに寄生しています。このノミを毛づくろいしたときに口にしてしまうと寄生が成立します。
瓜実条虫の片節はちぎれやすく、おしり周りに米粒大の変節がうねうね動いていることで異変に気づくことが多いです。
2.マンソン裂頭条虫
マンソン裂頭条虫卵
長さが1mを超えることもある長い条虫です。主に屋外に出る猫でカエルや蛇などを食べた際に寄生します。
瓜実条虫と異なり、片節ごとにちぎれることはあまりありません。長いきしめんのような白い虫が便から出てくることがあります。こちらは、寄生すると下痢をしやすくなります。
3.猫条虫
全長60cm程度で、ネズミを食べることで寄生する条虫です。瓜実条虫やマンソン裂頭条虫と比べると見かける度合いは低めです。猫の虫下しの必要性
猫のお腹に寄生虫が発見された場合、虫下しは適切に行う必要があります。虫の種類にもよりますが、多くは消化管に留まります。中には腸の粘膜にしっかり噛みついているものもあります。
コクシジウムやジアルジアと呼ばれる原虫の場合、繁殖のために腸の粘膜細胞の中で増殖をしますので、細胞がダメージを受けます。
下痢をはじめとした消化器の症状を引き起こすほか、本来腸で吸収されるべき栄養を寄生虫が横取りする場合もあり、体重が増えないというようなこともあります。
慢性的な下痢は、消化器だけでなく免疫力の維持の点からも良い状態ではありません。また、飼い主さんご自身や周囲への影響を含めると、駆虫の重要性はさらに増します。
糞便中に寄生虫の卵が検出されることが多くあります。これらを知らずに拡散することになると、周囲への影響が心配されます。
お腹の寄生虫の種類によっては人畜共通感染症に指定されているものもあり、飼い主さん自身の健康が損なわれる可能性も否定できません。そのため、お腹の寄生虫が確認された場合は速やかに対応すべきことと判断しましょう。
猫の虫下しとは
猫ちゃんに内部寄生虫が発見された場合、それらを駆虫しなければなりません。その際に虫下し(駆虫薬)を使用しますが、その薬が対象の虫に効果を示すかどうかに注意を払わなくてはなりません。
ペットグッズを販売している量販店で時折「ペットの駆虫薬」と呼ばれるものを見かけることがありますが、決して万能ではないということを念頭に置いておきましょう。
駆虫薬には、幅広い寄生虫に対し効果を示すものから、特定の寄生虫に絞って効果を発揮するものまであります。さらに、薬のタイプも注射剤、飲み薬、滴下タイプのものと種類が豊富です。飲み薬の場合、錠剤、粉薬、シロップのような液剤等あります。
まず、駆虫したい虫を確実に駆虫できる薬であるかどうかを確認し、その中で使用しやすい薬のタイプを選んでいきます。
薬の選択には専門的な知識が必要となりますので、最も良いのが獣医療のプロにお任せすることとなります。動物病院に相談すれば、適切で使用しやすい薬について提案があるでしょう。内服が難しい猫ちゃんの場合は滴下式が便利です。
また、一部駆虫薬は「要指示薬」に指定されているものがあります。これは獣医師の指示によって処方される薬となるため、原則動物病院以外で購入できないものとなります。
以上のことを総合的に判断すると駆虫するということは、獣医療行為とみなされる部分が多くあります。寄生虫を正確に判断し、それに対し適切な駆虫薬を使うことが愛猫への負担を抑えることにもつながりますので、動物病院で獣医師の判断を仰ぐのが最良と考えます。
猫のお腹の駆虫薬の例
猫の寄生虫感染の予防法
これまで、猫の内部寄生虫について虫の特徴や駆虫の方法について紹介をしてきました。虫によって飼い主である人間にも何らか影響を及ぼすものがありますが、重要なのは寄生する前に予防をきちんと行うことです。これはすべての寄生虫に対して言えることです。例えば、子猫を保護してその時に虫下しを完璧に実施したとします。では、その後これらの寄生虫が再び体内に入ってくることがないかというと、答えはノーです。
寄生虫に寄生されるリスクは住環境や生活環境に左右されます。特に屋外に出る猫の場合、カエルやヘビといった動物を口にすることがあるかもしれません。
また、一見お腹の寄生虫とは縁のなさそうなノミが寄生した場合であってもノミの体内に瓜実条虫の擬嚢尾虫(ぎのうびちゅう)がいることがあります。猫ちゃんからノミが見つかったときは瓜実条虫も寄生している可能性を考えておく必要があります。
このため、他のけがや感染症予防という意味からも室内飼育を強くお勧めします。さらに定期的な駆虫が欧米で主流となっています。虫下しを行うタイミングは専門家と相談の上、効果的に行っていきましょう。
猫の虫下しは予防も重要です
猫のお腹に寄生する虫には大きさや形、さらには人間に影響があるものまで多くの種類が存在します。
虫そのものの存在が不快を招くことがあるばかりか、猫ちゃんの健康維持によろしくない影響を与えることもあります。
猫ちゃんに寄生している虫が何か判明できれば駆除できる方法が確立されています。また、きちんと虫下しを行うことは重要でありますが、お腹の寄生虫が再び体に侵入しないような環境を作ることにも注意を払いましょう。
参考文献
- 犬・猫・エキゾチックペットの寄生虫ビジュアルガイド 佐伯英治著 今井壮一監修 インターズー
- 動物寄生虫病学 板垣匡 ・藤﨑幸藏 編著 朝倉書店
- Life with Pet バイエル薬品株式会社