季語として表現される猫たち 春や冬の季語や猫の俳句を詠んだ俳人たちを紹介

季語として表現される猫たち 春や冬の季語や猫の俳句を詠んだ俳人たちを紹介

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五七五の17音から成る短い詩である「俳句」。春夏秋冬を表す季語を入れるという決まりがありますが、実は「猫」が季語として使われていることもあります。今回は、季語の「猫」が登場する俳句や、有名な「猫の恋」について、さらに猫にまつわる俳句についてご紹介します。

猫は俳句の季語

猫と手

俳句とは、季節を表す言葉である「季語」を入れた五七五の17音からなる短い詩のことで、日本特有の文学です。古くから伝わる伝統的な芸術ですが、この短い文の中にさまざまな情景や情感を書き表す俳句に日本人は慣れ親しんでいるため、短い文章で情報発信するTwitterユーザーも多いといもわれています。

俳句には季語を入れるという決まりがあり、その季節を表すさまざまな言葉が季語として使われていますが、実は「猫」も季語として使われているのです。「猫」単独では季語としては使われませんが、猫と他の言葉を組み合わせた形で、季語として使われるものがあります。


春の季語

猫を含む言葉を春の季語として使うことがあります。春の季語で猫に関係したものには以下のようなものがあります。

  • 猫の恋
  • 恋猫
  • 猫の妻
  • 猫の夫
  • 春の猫
  • うかれ猫
  • 猫の子
  • 戯れ猫
  • 猫さかる
  • 猫の契
  • 通ふ猫
  • 子猫
  • 猫の親
  • 親猫

「猫の恋」から「猫の妻」「猫の夫」など、猫が発情して相手を求める様子から春の季語として使われます。猫は発情シーズンになると、メスは大きな鳴き声をあげたり、オス猫はメスをめぐってケンカをすることもあります。普段は見られない様子が春によく見られることから、「猫の恋」の様子が春の季語として使われているのですね。

実際には猫が発情するのは春だけとは限らず、夏でも秋でも冬でも発情してしまうことはあるのですが、春に発情する子が多いのは事実です。オス猫は年中交尾が可能ですが、メス猫は発情期が来たときにだけしかオスを受け入れません。日本のメス猫が春に発情することが多いのは、無事に出産をし、子育てをするために最も適した季節だからです。

また春は猫の出産シーズンでもあるために、「子猫」や「猫の親」といった言葉も春の季語として使われます。子猫たちが遊んだり眠ったりしている様は非常に愛らしいので、子猫が多く見られる春の季語として使われるのもうなずけますね。


冬の季語

猫を含んだ言葉は冬を表す季語としても使われます。冬を表す猫の季語は下記のようなものがあります。

  • 竃(かまど)猫
  • へっつい猫
  • 灰猫
  • かじけ猫
  • 炬燵(こたつ)猫

春の季語と違って少しわかりにくいものが多いですね。「へっつい」は竃(かまど)と同じ意味で関西地方で使われることが多いようです。「かじけ猫」の「かじける」とは、「かじかむ」と同義で、寒さに凍えている猫の様子を表す季語です。猫は寒さが苦手で冬はこたつの上などの暖かい所にじっと丸くなっていることが多いことから、冬の季語として使われます。

現在の俳句の形は松尾芭蕉が確立したとされています。松尾芭蕉が活躍した時代は江戸時代です。現在のように電気がない時代ですから、冬の暖の取り方も現在とは違っていました。江戸時代にもこたつがあり、こたつの上で猫が丸くなっている姿は浮世絵にも描かれています。当時のこたつは、もちろん電気で温めるタイプではなく、炭を焚いて温めるものであったため、猫はコタツの中ではなくこたつの上で丸くなっていました。

また当時は食事を作るのに竃(かまど)を使用していたので、火を消した後のかまどの中に入って暖をとっている猫の様子や、かまどの中で灰だらけになっていた猫の様子が季語として使われているのです。


猫が季語に使われる理由

猫とふとん

「猫の恋」は季語になっているのに、同じように春に発情することが多い犬に関しては「犬の恋」は季語になっていません。俳句が登場し、盛んになった江戸時代には、猫を飼うことが庶民の間でも一般的になった時代です。当時は猫はおうちの中で人と一緒にくつろぎ、犬は外にいるのが一般的だったでしょう。

家の中で猫の様子を見る機会が多く、犬ほど人間に忠実ではない猫の行動は、ある意味人間的でもあります。そのため、猫の方が季語に用いられるようになったのではないでしょうか。現代でも猫マンガはたくさんありますし、猫を擬人化したものも多いですね。


どんな人が猫の俳句を詠んだ?

猫を季語として用いていたり、猫が登場する俳句はたくさんあります。日本人なら誰でも知っている有名な俳人たちも猫の俳句を詠んでいます。

松尾芭蕉

松尾芭蕉は、日本人なら知らない人はいないほど有名ですね。歴史の授業にも出てきますし、国語で松尾芭蕉が詠んだ俳句も習います。「古池や 蛙飛び込む 水の音」という俳句はとても有名ですね。

松尾芭蕉は江戸時代の前期、寛永21年(1644年)に生まれた俳諧師です。俳句はもともとは「俳諧」や「発句」と呼ばれており、五七五で終わりではありませんでした。それを現在の俳句の形にしたのが松尾芭蕉です。しかし当時はまだ俳句とはいわれておらず、俳句という呼び名が定着したのは明治時代になってからです。

松尾芭蕉は猫を含む言葉を季語に用いて、いくつかの俳句を詠んでいます。

小林一茶

小林一茶も日本人であれば多くの人が知っている歴史的俳人の一人ですね。小林一茶は江戸時代後期、宝暦13年(1763年)に生まれました。農家の子として生まれましたが、奉公のために江戸に出てきたときに、松尾芭蕉が確立した俳諧(俳句)と出会い、亡くなるまでに2万以上の俳句を詠んだとされてます。小林一茶は小さな動物が好きだったといわれており、猫もよく登場します。

加賀千代女

江戸時代、元禄16年(1703年)に生まれた女流俳人です。松尾芭蕉の「奥の細道」をきっかけに俳諧(現在の俳句)が盛んになった時代で、加賀千代女は若い頃から才能を発揮し、生涯で1700余りの俳句を残しました。「朝顔に つるべとられて もらい水」の俳句が有名ですね。


猫にまつわる俳句

猫と自然

猫が季語の俳句や、猫が登場する俳句をご紹介します。

「 猫の恋 やむとき閨の 朧月 」松尾芭蕉
季語「猫の恋」が使われています。「猫の恋」は猫の発情の様子を表しており、「猫の恋の季節で鳴き声が聞こえていたが、今は止んで、朧月の光が閨(寝室)に差し込んでいる」という意味です。

「春雨や 猫に踊りを 教える子」小林一茶
春は雨も多い季節ですね。「しとしとと春の雨が降っている。それなら出かけないで、猫と遊ぼうか」という内容で、ほのぼのとした雰囲気と猫への愛情を感じさせます。この句の季語は「春雨」なので猫は季語ではありませんが、猫が登場します。

「団栗(どんぐり)とはねつくらする 子猫かな」小林一茶
どんぐりにじゃれて遊ぶ子猫の様子を描いています。とても癒される情景で、猫好きだったという小林一茶の優しいまなざしを感じる句ですね。

「ふみ分けて 雪にまよふや 猫の恋」加賀千代女
「猫の恋」が季語です。まだ雪が残る春のはじめ、恋の相手を探しながら雪の中をさまよい歩く猫」の姿が描かれています。

「薄目あけ 人嫌ひなり 炬燵猫」 松本たかし
「薄目を開けて、人に寄って欲しくないように炬燵(こたつ)の上で丸くなっている猫」の様子を書いた俳句です。確かに猫って薄目を開けてこちらを見ているときがありますよね。せっかくまどろんでいるのに邪魔されたくないのかもしれませんね。

猫の姿で季節を感じる

猫の放し飼いが一般的で、野良猫も多かった江戸時代には猫が恋をして発する声は多く聞かれたことでしょう。現在では、猫は完全室内飼育が推奨されますし、野良猫を増やさない、捨てられる命をなくするという観点から、避妊・去勢手術を受けさせることが望ましいです。

しかし日本には野良猫がまだまだ多く、春の季節は発情期の声が聞こえることもありますね。猫たちの恋の様子や、その後に生まれてくる子猫は春という季節を感じさせるものだったのですね。また、人間と同じように寒がって、こたつで暖を取る様子などに親しみも感じることが多かったのでしょう。