【徳井義実の「猫と女」】- 第3話「パズーとハクとアユミ」-

【徳井義実の「猫と女」】- 第3話「パズーとハクとアユミ」-

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『徳井義実の「猫と女」』。チュートリアルの徳井義実さんによる読者参加型の、連載妄想小説です。第3話は「パズーとハクとアユミ」です。

パズーとハクとアユミ

今回妄想される猫と女は、パズーとハクとアユミ。この1枚の写真から、どんなストーリーが展開されていくのでしょうか。徳井さんによる摩訶不思議な世界をお楽しみください。



掛け時計の針は24時40分を指していた。

「あ、もうこんな時間だ、帰らないと」

男は飲み干したビール缶を置いた。

「あ、ねえ、もう1本ビール残ってるしどうせならそれ飲んでから帰らない?」

女は冷蔵庫に手をかけた。

「ごめんアユミ、今日はこれでやめとくわ……昨日もちょっと帰るの遅かったから……」

「そっか……あ! 神川さん美術好きだよね? 来週から青山で現代アート展あるんだけどいかない?」

「来週かぁ、ちょっとまだ予定がわからないんだけど、もしかしたらあんまり時間ないかも」

男はそう言いながら2匹の猫の頭をなで、玄関へ向かう。

「そっかそっか、わかった^_^ あ! 神川さんちょっとまって」

アユミがカーテンを少し開けて外を伺うと小雨が降っていた。

「ねぇ、少し降ってるから傘持ってって」

ジャケットを羽織りビジネスシューズの紐を手際良く結ぶと傘を受け取り立ち上がった。

「ありがとう、じゃあまたね」

女は出来うる限りの笑顔で

「うん、気をつけて帰ってね」

バタンと玄関の扉が閉まる時、彼女にはスローモーションに見えた。

そしてアユミはすっと本当の顔に戻り、扉の向こうにコツコツと響く足音を、聞こえなくなるまで聞いていた。

「パズー、ハク、もう寝るよ」

アユミが猫たちに声をかけ、ベッドに入り電気を消す。

さっき開けたカーテンの隙間から月明かりがさした。

青白い光に照らされた2匹の猫。

ここからは2匹の会議の時間。

「なぁ、どうなってんだろうね?」

月を見上げながらパズーが話しかけた。

大きく身体をねじらせて背中の毛づくろいをしながらハクが答える。

「どうなってるって?」

「あの二人さ、アユミがあの男に惚れてるのはわかるけど、神川だっけ? あいつはどうなんだろ?」

「そりゃあ1年以上もちょこちょこウチに来てるんだから向こうも気があるんだろ」

「でもあいつ、結婚してるだろ、不倫てやつだろ? アユミはそれでいいのかね?」

「いいと思ってるわけないよ」

「じゃあなんで会うんだろう」

「好きだからだよ」

「ダメだってわかってるのに?」

「そう、わかってても会いたいんだろうね」

「だいたいアユミは不倫なんてするような子だとは思わなかったけどねぇ」

「誰も好き好んで不倫をしようと思ってしてないんだよ、気付いたら不倫になってたんじゃない?」

「そういうもんなのかなぁ」

「あ、でも、今日あいつが帰ったあとのアユミ」

「いつもと違ったね」

「パズー、ハク、寝るよ、おいで」

2匹を呼ぶアユミの声は震えていた。

話にはよく聞いていた不埒な事態

明日は我が身とはよく言ったもので

どこにもピントが合わないような感覚を

暫し楽しんでいるアタシがいて

冷静沈着なタイプのアタシです

このような事はあってはならないのです

言葉はいつも防音壁に ぶつかって

霧の向こうに消えてく 25時の彼方へ

もうアタシのものさしは正常ではなく

大きく波打って善悪は測れない

見えているような気がした光はなかったのに

それを無視するようなアタシがいて

もうどうなったって いいと思ってて

もうどうなったって アタシのこの身なら

言葉はいつも防音壁に ぶつかって

霧の向こうに消えてく 25時の彼方へ

ドアを閉める間際 微笑むその体温が

前よりも下がってること気づいてしまった

やがて霞は晴れてゆく

幾多の例に洩れずに

暮らしはいつも待っている

25時の彼方に



第3話「徳井義実の『猫と女』-パズーとハクとアユミ-」はいかがでしたか? 前回の傭兵のストーリーとはまたひとあじ違う、ちょっぴり切ないラブストーリーでした。

次回はどんな猫と女のストーリーが生まれるのでしょうか。Instagramのハッシュタグ「#徳井義実の猫と女」「#ペトこと猫部」を付けてくださった方の中から選ばれることもあるかも……?

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