【獣医師執筆】犬がチョコレートを食べるのが危険なのはなぜ?理由や症状、致死量、応急処置を獣医師が解説
チョコレートは犬が食べてはいけないもので、誤飲による死亡例も報告されています。体重1kgあたり25gほどのチョコレートで中毒症状が出る可能性があり、高カカオのチョコは少量でも致死量に達する可能性があります。チョコレートがなぜ危険なのか、考えられる症状や後遺症、間違って食べた・舐めた場合の対処法・応急処置について、獣医師の佐藤が解説します。
この記事を監修している専門家
佐藤貴紀獣医師
獣医循環器学会認定医・PETOKOTO取締役獣医師獣医師(目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC、隅田川動物病院、VETICAL動物病院)。獣医循環器学会認定医。株式会社PETOKOTO取締役CVO(Chief veterinary officer)兼 獣医師。麻布大学獣医学部卒業後、2007年dogdays東京ミッドタウンクリニック副院長に就任。2008年FORPETS 代表取締役 兼 白金高輪動物病院院長に就任。2010年獣医循環器学会認定医取得。2011年中央アニマルクリニックを附属病院として設立し、総院長に就任。2017年JVCCに参画し、取締役に就任。子会社JVCC動物病院グループ株式会社代表取締役を兼任。2019年WOLVES Hand 取締役 兼 目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC院長に就任。「一生のかかりつけの医師」を推奨するとともに、専門分野治療、予防医療に力をいれている。
犬がチョコレートを食べてはいけない理由
犬がチョコレートを食べると主にカカオに含まれる「テオブロミン」という成分が中枢神経、循環器系、腎臓などに影響を及ぼし、最悪の場合は死亡例もあります。犬と人では体の作りが異なりますので、「人が食べても大丈夫だから犬も大丈夫」と考えてはいけません。
犬がチョコレートを食べた場合の死亡例
犬がチョコレートで死ぬのは嘘やデマだとする意見もありますが、アメリカでは実際に死亡事故が報告されています。体重約20kgのスプリンガースパニエルは、約900gのチョコレートを食べてしまい15時間に死亡しました。血液中のテオブロミンは高濃度だったことが確認されたそうです。※参照:「Chocolate poisoning in the dog」(Journal of the American Animal Hospital Association)
犬がチョコレート中毒を起こす原因
実は私たちもテオブロミンを大量に摂取すれば中毒症状を起こします。しかし肝臓での分解が早く、チョコをたくさん食べたからといって中毒症状を起こすことはありません(中毒を起こす前にお腹がいっぱいになってしまうか、別の問題が起きることでしょう)。
一方、犬はテオブロミンの分解速度が人より3倍かかるため、中毒症状を起こしてしまうのです(※1)。そのため少量でも継続して与えれば血液中のテオブロミン濃度が高くなり、中毒症状を起こす場合があります。
特に「高カカオ」のチョコは一般的なチョコに比べて4倍以上のテオブロミンが含まれているものもあるため要注意です(※2)。なお、ホワイトチョコにテオブロミンは含まれませんが、脂肪分や糖分が多いため与えないようにしましょう。
※参照1:「禁忌食(その2)—チョコレートとイヌ・ネコの健康」(ペット栄養学会誌)、※参照2:「高カカオをうたったチョコレート(結果報告)」(国民生活センター)
犬がチョコレートを食べた場合の致死量
犬は体重1kgあたり90〜100mgのテオブロミンを摂取すると中毒症状が出るとされています(※)。一般的なチョコレート100gに含まれるテオブロミンが250mgほどですので、体重1kgあたり25gほどのチョコレートを食べると危険ということになります。
体重5kgの小型犬なら125g、体重10kgの中型犬なら250gのチョコレートとなり、一般的な板チョコが60gほどですので、単純計算で小型犬は板チョコ2枚、中型犬は板チョコ4枚を食べてしまうと中毒症状が出る可能性が高まります。
ただし、高カカオを謳う商品では100gのチョコレートに1000mgのテオブロミンを含むものもありますので、その場合は板チョコ1枚以下でも中毒症状が出る可能性があります。
人の場合でもコーヒー1杯で眠れなくなったり、動悸がしたりする方がいますが、犬も同様に少量のチョコレートで中毒症状を起こす場合があります。安易に「食べた量が少ないから大丈夫」とは考えないようにしてください。
※参照:「動物看護のための小動物栄養学」(ファームプレス)
犬がチョコレートを食べた場合に考えられる症状
テオブロミンは中枢神経、循環器系、腎臓などに影響を及ぼします。中毒症状は4〜15時間ほどで表れ、主に以下のような症状が見られます。筆者自身も臨床をする中で、犬がチョコレートを食べてフラフラになり、治療で治ったケースを診てきています。
チョコレートを食べたけど元気というケースもありますが、リスクはあります。また、後遺症に関してはほとんど考えられないですが、稀に脳や神経疾患の異常が発生する可能性があります。
- 嘔吐
- 下痢
- 動悸
- 神経過敏
- 興奮
- 震え
- 頻脈
- 心拍障害
- 昏睡
- 痙攣
- 突然死
軽度の血圧上昇が見られ、徐脈あるいは頻脈が生じ、不整脈が表れることがあります。症状が深刻になると痙攣、昏睡などが見られるようになり、最悪の場合は死に至ります。
※参照:「小動物の臨床栄養学 第5版」
犬がチョコレートを食べた場合の応急処置
飼い主さんが無理に吐かせるなどの処置をすると重病化する恐れもあるため、絶対に動物病院に相談しましょう。少し舐めたり小さなチョコを1粒食べたりした程度で問題になることはありませんが、板チョコや箱に入ったチョコを丸ごと食べてしまった場合は必ず動物病院に連絡して指示を受けてください。
食べた量が少なかったとしても、中毒を起こす量は体重や健康状態など犬ごとに変わります。いつもと違う様子が見られる場合は食べたチョコの種類と量を把握した上で、すぐに動物病院に連絡してください。獣医師が的確な判断をするため、飼い主さんの説明が重要です。
犬がチョコレートを食べてしまった場合の治療法
テオブロミンに対して解毒剤は存在しないため、治療は催吐(さいと)させる対症療法が基本となります。ただ、チョコレートは溶けると「粘着性」を持つため、嘔吐してもなかなか容易に除去できません。
活性炭はテオブロミンの半減期を短縮させるとされ、活性炭と塩類下剤を4〜6時間ごとに必要に応じて投与します。振戦、不安および痙攣のコントロールには「ジアゼバム」、徐脈に対しては「アトロピン」、頻脈には「リドカイン」や「メトプロロール」「プロプラノロール」を投与する場合があります。
膀胱粘膜からのテオブロミンの再吸収を阻止するため、膀胱に尿カテーテルを挿入しておくこともあるとされています。支持療法として輸液も行います。
催吐は食べてから数時間(4〜6時間)経過していても効果的とされていますが、難しい場合は胃洗浄を行います。冷水や氷水を用いると、チョコレートの排除を悪化させてしまうため、温水を用いた胃洗浄が溶けたチョコレートを胃から除去する助けとなります。
そのほか、症状に応じて以下のような処置を行います。
- 必要なら気道の確保と換気
- 酸素吸入
- 静脈の確保
- 発熱があればその治療
- 心電図をモニターし、心調律不整があればその治療
犬はチョコレートケーキ・ドーナツも食べるのもダメ?
テオブロミンが入っている以上、チョコレートケーキやチョコレートドーナッツ、チョコレートシロップも食べさせてはいけません。ただ、前述した通り、中毒の危険度に関してはチョコレートの種類と量により、クリーム成分なども入っていますので一般的な板チョコよりは危険度は低いと考えられます。
しかし、どれだけのチョコレートで中毒症状を起こすかは犬によって異なります。また人の食べ物には犬に過剰な糖分や塩分、脂肪分、チョコ以外にも犬にとって有害な成分が含まれている可能性があります。誤飲に気をつけるとともに、愛犬が欲しがっているからといって与えるのはやめましょう。
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犬がチョコレートを誤飲しやすい犬種の特徴
誤飲事故は、どんな犬でも注意すべきことではありますが、年齢や犬種によって起こる確率が変わってきます。
アニコムが保険契約をしていた犬で発生した誤飲事故を年齢別に調査したところ、0歳が4.4%、1歳が2.5%、2歳が1.8%、3~10歳はそれぞれの年齢で1.5%以下だったことがわかりました(※1)。イギリスで行われた調査でも、4歳未満の若い犬でチョコレートの誤飲が最も多く、次いで中年の成犬(4歳以上8歳未満)、8歳以上のシニア犬という結果になりました(※2)。
若い犬ほど好奇心が強く、チョコレートの誤飲事故が起こりやすいといえるでしょう。拾い食いでの誤飲もあるため、しつけは必ずしておきましょう。
※参照1:「家庭飼育犬における誤飲発生の実態に関する分析」(獣医疫学雑誌)、※参照2:「Heightened risk of canine chocolate exposure at Christmas and Easter」(VetRecord)
誤飲に注意すべき犬種
年齢だけでなく、犬種ごとに好奇心の違いで誤飲の発生に差があるようです。先ほどのアニコムの調査によると、契約頭数の多い上位17犬種の0歳の犬を対象に誤飲事故の数を調査したところ、以下の犬種は平均の4.4%よりも高い傾向にありました。- フレンチブルドッグ:7.1%
- ゴールデンレトリーバー:6.8%
- キャバリア:6.0%
- パピヨン:5.5%
- ラブラドールレトリーバー:5.3%
- トイプードル:4.5%
これらの犬種は、特に注意するようにしましょう。もちろん犬によって性格が異なりますので、該当しなかったからといって安心していいわけではありません。
クリスマス・バレンタインは誤飲事故に注意
アニコム損害保険が獣医師172人に誤飲事故の聞き取り調査をしたところ、死亡例として多かったのは観賞用ユリの12件に次いでチョコレートが9件、ネギ類が4件と続いたそうです(※)。クリスマスやバレンタインなどのイベント時期は、身近にチョコレートが置かれることが多くなりますので特に注意が必要です。お正月など来客が多い時期も、危険性を知らない人が間違って与えてしまうかもしれません。飼い主さんが注意して事故を防ぐようにしましょう。
※参照:「家庭飼育犬における誤飲発生の実態に関する分析」(獣医疫学雑誌)
愛犬にチョコレートは絶対食べさせないように注意を
犬はテオブロミンの分解が遅いため中毒を起こしやすい
数時間から半日ほどで体に影響が現れる
体重1kgあたり25gほどのチョコレートを食べると危険
参考文献
- 「禁忌食(その2)—チョコレートとイヌ・ネコの健康」(ペット栄養学会誌)
- 「高カカオをうたったチョコレート(結果報告)」(国民生活センター)
- 「家庭飼育犬における誤飲発生の実態に関する分析」(獣医疫学雑誌)
- 「Heightened risk of canine chocolate exposure at Christmas and Easter」(VetRecord)
- 「Chocolate poisoning in the dog」(Journal of the American Animal Hospital Association)
- 「動物看護のための小動物栄養学」(ファームプレス)
- 「小動物の臨床栄養学 第5版」
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