犬の胃潰瘍|症状や原因、治療方法を獣医師が解説

犬の胃潰瘍|症状や原因、治療方法を獣医師が解説

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胃潰瘍は胃粘膜が何かしらの原因でただれ、炎症を起こしている病気で、犬では薬や病気の影響でまれに起こることがあります。進行すると出血が起きたり胃に穴が開いて腹膜炎を併発したりします。重症であるためすぐに治療を行わないと死に至る可能性があります。犬の胃潰瘍の症状や原因、治療法について、獣医師の佐藤が解説します。

犬の胃潰瘍とは

ヘソ天する犬

胃潰瘍(いかいよう)とは、胃液の働きが強くなることで胃の内壁が消化されてしまう病気です。胃炎から胃潰瘍まで、以下のように進行していきます。

  • 胃炎(胃腸炎):粘膜が炎症を起こした状態
  • びらん(糜爛):粘膜が傷ついてただれた状態
  • 胃潰瘍:粘膜の下の層までえぐれた状態
  • 胃潰瘍出血:血管が傷ついて出血した状態
  • 穿孔(せんこう):胃の外側まで穴が開いた状態
  • 胃潰瘍穿孔性腹膜炎:穴から胃液が漏れて他の臓器が炎症した状態

人間の場合は「ストレス」や「ヘリコバクター・ピロリ菌」が原因の多くを占めますが、犬の場合は「薬」と「病気」が原因として多いと考えられています。犬の胃潰瘍は、人間ほどよく見られる病気ではありません。


胃潰瘍になりやすい犬種

どの犬種でも胃潰瘍になる可能性がありますが、胃拡張や炎症性腸疾患などの犬はなりやすく注意が必要です。

犬の胃潰瘍の症状

ヨークシャーテリア

胃潰瘍の犬では以下のような症状が見られます。

  • タール便(黒色便、メレナ)
  • 嘔吐・吐血
  • 下痢・血便
  • 貧血
  • 腹痛(お腹を触られるのを嫌がる)
  • 食欲不振

胃潰瘍で吐血する場合、血は胃酸によって酸化されるためコーヒーのような色をしています。茶色いドライフードと混ざると判別しにくいかもしれません。ただし、重症化して大量に出血している場合は酸化されることなく鮮血を吐き出す場合もあります。

血便の場合は排出されるまでに時間がかかるため黒い便(タール便)になります。鮮血が血便として出る場合、胃潰瘍とは別の病気が疑われます。


犬の胃潰瘍の原因

横になる犬

胃液は主に胃酸(塩酸)とタンパク質分解酵素「ペプシン」と水分で構成され、強酸性(pH1〜2)の胃酸とペプシンは、肉を溶かしてしまうほど強力な消化液です。なぜ胃そのものが溶けないか疑問に思うかも知れませんが、それは「胃粘液」が胃の内側を薄く覆ってバリアの役割を担っているためです。

ですから胃粘液の「量が少なくなる」「質が悪くなる」といったことが起こってバリア機能が弱くなると、胃は消化されてしまいます。それが胃潰瘍という病気で、消化が続けば胃に穴が開いてしまいます(穿孔)

人間の場合は「ストレス」と「ヘリコバクター・ピロリ菌」が胃潰瘍の主な原因ですが、犬の場合は「薬」と「病気」が主な原因です。ピロリ菌は犬の胃にも存在しますが、犬の胃潰瘍にどれだけ影響を与えているかについては、まだよくわかっていません。犬の胃潰瘍の原因として以下が考えられます。

  • 腎不全
  • 肝不全
  • 悪性腫瘍(胃腺癌、肥満細胞腫、ガストリノーマ、リンパ腫)
  • ステロイド
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)
  • 胃炎
  • 膵炎
  • 副腎皮質機能低下症(アジソン病)
  • 感染症(ヘリコバクター・ピロリ菌)
  • ショック(敗血症など胃への血液供給の減少)
  • ストレス

犬の胃潰瘍の治療

診察を受けるジャックラッセルテリア

胃潰瘍は血液検査、X検査(レントゲン検査)、超音波検査で診断しますが最終的な確定診断は内視鏡検査と生検による組織学的検査によって行います。補助検査として尿検査や糞便検査で基礎疾患がないかどうかも検査します。

病気が原因で胃潰瘍になっている場合は、その病気の治療を行います。犬では薬によって胃潰瘍が起きるケースが多く、薬の量を減らしたり別の薬に変えたりすると同時に、胃粘膜を保護する薬や胃酸の分泌を抑える薬を使うことで症状が改善します。

大量の出血で貧血が起きると輸血が必要になります。胃に穴が開くと腹膜炎を起こしてショック死する可能性もあるため、すぐに手術を行わなければいけません。

まとめ

背中を向ける犬
犬の胃潰瘍は人と比べてまれな病気
多くは薬の副作用によって起こる
原因となる薬や病気への対処が主な治療
胃潰瘍は犬ではまれですが、薬や病気の影響で起こります。出血や穿孔に至ると危険な状態になりますので、早急に対処が必要です。予防法はありませんが、一度症状が見られた犬は再発に注意が必要です。定期的な健康診断を欠かさず、いつもと違う様子が見られた場合はできるだけ早く獣医師に相談するようにしてください。

参考文献