犬の乳頭腫|悪性の可能性や治療の考え方を獣医師が解説
犬の乳頭腫はウイルス性の良性腫瘍で自然に取れることがほとんどですが、食事や歩行に支障があり出血する場合はレーザー手術などで切除することもあります。飼い主さんがイボのようなものを乳頭腫だと決めつけると悪性腫瘍を見逃す危険がありますので、黒かったり大きくなったりする場合は特に注意が必要です。今回は犬の乳頭腫について、獣医師の佐藤が解説します。
犬の乳頭腫とは
乳頭腫(にゅうとうしゅ)は英語で「パピローマ」と呼び、パピローマウイルスによってできるイボのことを「乳頭腫」と呼びます。パピローマウイルスは動物ごとに感染するウイルスの型が異なり、犬にはイヌパピローマウイルス(CPV:canis familiaris papillomavirus)が感染し、人にはヒトパピローマウイルス(HPV:human papillomavirus)が感染するため犬から人、人から犬にうつることは通常ありません。
乳頭腫はほとんどが良性の腫瘍で、自然治癒して健康に影響ないことがほとんどです。ただし、口にできるイボ(口腔乳頭腫)は悪性化して「扁平上皮癌」(へんぺいじょうひがん)に進行する可能性があります。
犬の乳頭腫の症状
犬の乳頭腫は口の中や口の周り、目の周りなど顔でよく見られますが、首や足など体のどこにでも発生します。同時に複数発生することが少なくありませんので、一つ見つけたら他の場所にもできていないか調べてみましょう。色は白やピンク、形状は発生した場所によって微妙に異なります。多くはざらざらした質感でカリフラワーのような形をしています。犬の乳頭腫ができる原因
パピローマウイルスは皮膚表面にある傷口から侵入し、表皮の最下層にある基底細胞に感染するとその上にある角化細胞を活性化させて増殖します。この増殖によって皮膚が盛り上がり、イボの形となります。感染してからイボができるまで1〜2カ月ほどと言われています。
犬の場合、他の犬との接触で感染することもありますし、ウイルスは環境中での生存能力が高いことから寝具やオモチャを通じて感染することもあります。
乳頭腫ができやすい犬
乳頭腫はどんな犬にもできる可能性がありますが、免疫機能が未熟な子犬や免疫機能が低下したシニア犬(老犬)、免疫抑制剤やステロイドを長期使用している犬、アトピー性皮膚炎など皮膚のバリア機能が低下した犬はウイルスが侵入・感染しやすく、できやすくなります。非ウイルス性のイボ
シニア犬(老犬)の場合は非ウイルス性のイボができることがあり、体質によってはイボだらけになってしまうこともあります。老化によるものと考えられますが、明確な原因はわかっていません。犬の乳頭腫の危険性
乳頭腫は基本的に良性で、皮膚の免疫機能がウイルスを攻撃するため1〜2カ月で自然治癒して取れてしまいます。口にできる口腔乳頭腫は悪性化して「扁平上皮癌」(へんぺいじょうひがん)に進行する可能性があるため注意が必要です。
また、ご家庭で飼い主さんが「イボ」や「できもの」「しこり」を乳頭腫だと判断すると悪性腫瘍を見過ごしてしまう可能性があり、注意が必要です。よく観察し、以下のような特徴が見られる場合は獣医師に相談してください。
- 色が白やピンクではなく黒や紫
- 大きさが1cm以上
- 次第に大きくなる
- 形が大きく変化する
- 3カ月たっても治らない・取れない
悪性腫瘍が疑わしい場合、病院では針でサンプルを採取し、顕微鏡で観察する「病理組織検査」を行います。「できもの」や「しこり」ができる悪性腫瘍には「リンパ腫」「肥満細胞腫」「軟部組織肉腫」「乳腺腫瘍」などがあり、口腔内では「扁平上皮癌」や「メラノーマ(悪性黒色腫)」などがあります。
乳腺腫瘍
メスの犬や高齢の犬、小型犬に発症しやすい病気で、悪性の乳腺腫瘍を「乳がん」と言います。悪性の確率は約50%で、リンパ節から胸やお腹へと転移することで命に関わります。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。メラノーマ(悪性黒色腫)
口にできた黒いできものは「メラノーマ」(悪性黒色腫)という口腔腫瘍の可能性があります。歯肉に発生することが多く、口唇や頬粘膜、まれに舌に発生することもあります。見た目では悪性か判断できないため、早期に診断することが重要です。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。犬の乳頭腫の治療法
乳頭腫は1〜2カ月で自然治癒しますので通常は動物病院で治療を行うことはありませんし、塗り薬のようなものもありません。糸で縛ってイボ取りをしようとする飼い主さんもいるようですが、悪性腫瘍を見逃す可能性や失敗して別の問題を起こす可能性がありますのでお勧めしません。
口の中や周りにできた乳頭腫や足にできた乳頭腫は食事や歩行の障害になることがありますので、抗ウイルス剤の投与や切除手術を行う場合があります。具体的には、以下のようなケースが想定されます。
- 口の中で数が多い・大きい・場所が悪いなど食事に支障がある
- 足にできて歩行に支障がある
- 出血や二次感染などの症状が見られる
- 免疫抑制剤を使用しているため治りが遅い
外科手術ではメスやレーザーを使った切除、凍結による細胞破壊などが行われます。凍結療法は麻酔を使用しないため費用も安く5000〜2万円が目安になりますが、乳頭腫ができた場所によっては選択できない場合もあります。
免疫機能を高める
自然治癒は皮膚の免疫機能によるものですので、ご家庭では免疫力を高めてあげることを意識してください。具体的にはブラッシングやシャンプーで被毛や皮膚を清潔に保ったり、ストレスのない環境を整えたり、新鮮な栄養が摂れるごはんを食べさせてあげたりすることが大切です。犬の乳頭腫を予防する方法
パピローマウイルスは環境中での生存能力が高く、ウイルスとの接触を防ぐこと自体は難しいでしょう。ただし、病気や治療薬によって免疫機能や皮膚のバリア機能が低下している犬は感染しやすい状態です。ドッグランのような他の犬と接触しやすい場所は避けましょう。また、普段から免疫力を高めておくことはパピローマウイルスに限らず、その他のウイルスや細菌などの感染予防につながります。
まとめ
乳頭腫は基本的に良性腫瘍で自然治癒する
子犬やシニア犬(老犬)にできやすい
悪性が疑われる場合は動物病院へ
普段から免疫力を高めることが大切