なぜ保護犬・保護猫にしなかったの? 実態調査でわかったこと
犬や猫を飼っている一般の飼い主さんは、保護犬・保護猫にどのようなイメージを持っているのか。横浜商科大学とアニマルドネーションが実施した調査の結果が、8月に開催された動物福祉の啓発イベント「アニマル・ウェルフェアサミット 2017」で発表されました。元衆議院議員で料理研究家の藤野真紀子さん、女優で愛猫家のとよた真帆さんも参加した同イベントのトークセッションの様子を紹介します。
百貨店やホームセンターで保護犬・保護猫の譲渡会が開催される機会が増えてきたものの、保護犬・保護猫を飼うことは、まだまだ一般的とは言えません。
では、保護動物を飼っている人と保護動物ではない犬猫を飼っている人とでは、保護動物に対してどういったイメージの違いがあるのでしょうか。「しつけがされていない」「人に慣れていない」「医療費がかかる」など九つのイメージに対して5段階評価を付けて回答してもらいました。
最初に保護犬に関するイメージを見てみましょう。「人を怖がる」「医療費がかかる」という項目で、保護犬を飼っている人と購入した犬を飼っている人の間に、保護犬への大きな差があることがわかります。しかしグラフの形がほぼ同じことから、個々のイメージに差はあるものの、全体としては似た傾向であることが読み取れます。
保護猫に関しては、「人に慣れていない」というイメージに保護猫の飼い主さんと購入した猫の飼い主さんで大きく差が生まれました。保護犬との違いでは、いくつかの項目でイメージの強さが逆転しています。
以上の結果を重回帰分析したところ、保護犬・保護猫に対する、「しつけがされていない」「医療費がかかる」「人に慣れていない」といったイメージが、ペットショップでの購入を促していることがわかりました。
とよた:私の経験からすると、子猫の場合、最初は怖がっていてもすぐ懐きますね。おもちゃで遊ばせると「大丈夫だ!」と心を開いてくれる猫もいます。間違ったイメージで判断している人が多いんじゃないかなと思いますね。
藤野:「自分から保護動物のことを調べて保護団体へ出向く」という、一歩踏み出すきっかけがつかみにくいんだと思うんです。ペットショップで飼ったとしても、その子に何が起こるかわからない。医療費がかからないわけでもない。保護犬であろうとペットショップであろうとブリーダーであろうと、何が起きても飼い主の責任であると考えれば、あまり変わらないと思います。
まず引き取る動機を聞いたところ、犬猫ともに、「保護犬や保護猫がかわいそうだと思ったから」という理由が一番多く挙げられました。次点で多いのは「かわいかったから」という理由でした。
次に「実際に引き取ったところはどこですか」という質問では、犬猫ともにボランティア団体の保護施設が一番多い結果となりました。興味深いのは、猫で二番目に多かった猫カフェという回答。最近は保護猫カフェも多く、そういった場所が出会いの場の一つになっていることがわかります。
最後に満足度を聞いたところ、犬の場合は91.9%、猫の場合は91%と、非常に満足している人が多い結果になりました。
とよた:素晴らしいと思いますが、残りの9%が気になりますね(笑)。もしかして飼ってはみたけど相性が悪かった人もいるのかな。私は大人になってから8匹の猫と暮らしてきましたが、自分も1匹の猫になって仲間に入っていくんです。
猫社会は年功序列ではないので、そういった空気を読みながら、猫同士の揉め事が起こらないように調整役をしている感じです(笑)。猫の本能や習性をリスペクトしているので、自由にすることで魅力を引き出しています。
藤野:猫社会と犬社会は少し違うかもしれませんね。現在は6頭の犬と暮らしていますが、その中での調整役であり、絶対的なリーダーは私です。その次に長老犬、と続いていきます。
おやつもご飯もまず長老犬から与え、新しく来た子に順番を教えながら「自分も順番でもらえるから大丈夫だ」と安心させるんです。その認識を付けなければ、犬同士が混乱して噛み付いてしまうこともある。犬の場合、限りなく自由にしてあげるためには社会性が必要なんだと思います。
調査対象の99%が保護施設の存在を知っていましたが、「引き取りができることを知っていますか」「保護動物を検討しましたか」という質問になると割合が下がり、「実際に譲渡会に行きましたか」という質問に対しては65%もの人が「いいえ」と答えました。保護犬や保護猫のことは知っていても、なかなか行動に結び付いていないことがわかります。
ではなぜ保護動物を引き取るという行動に移さないのか。「そもそも検討していない」という回答も多かった一方で、「条件的に引き取らせてもらえなかった」という回答が目立ちました。また、「その他」には「条件が厳しいというイメージがあって、私は共働きだから多分無理であろうと思った」といったような回答もありました。
団体によって条件が違うとはいえ、こういったイメージがついてしまっているのも、引き取りがうまく進まない理由の一つではないでしょうか。
藤野:私が嫌なのは、高齢者が保護動物を飼うハードルが高いこと。「年を取ってるからダメ」という言い方は切ないので、「健康状態によっては飼えますよ」「お子さんが近くに住んでいるから飼えますよ」などの条件をもって、もう少しいろんな人が引き取りやすいようにしてほしいなと思います。
岩倉:「どうしたら引き取りたいと思いますか」という質問をしたところ、一番多かったのは「信頼できるボランティア団体であれば」という回答でした。動物に関する要因よりもボランティア団体に関する要因、つまり「どこから引き取るのか」ということを重要視している人が多いことがわかりました。
とよた:確かにインターネットに書かれてあるような条件は厳しいですよね。でも実際に会って話すと、「条件を完璧に満たしていなくても引き取れた」なんてケースもあるようです。命を軽く考えている人が軽率に飼わないよう、厳しくしている面もあるのだと思います。
藤野:私が動物たちとの関係で一番大事にしているのは、信頼関係を築くことなんです。彼らが完全に私を信頼して、足元で無防備に寝ていたり、ご飯を食べたりするっていう暮らしが、私にとって大きなエネルギーになるんです。だから、「この子は何を一番望んでいるのか」ということを常に考えて付き合っているつもりです。
とよた:犬や猫と一緒に暮らすということは人間が始めたわけで、その責任を一人ひとりが持たなければいけないと思います。そもそも「なんで人間は動物界で一番頂点に立っていると思い込んでいるんだろう」という疑問があって。もうちょっと初心にかえって、他の動物にも尊敬を持っていきたいですよね。
そして日本の、動物と一緒に生きづらい環境が改善されたらいいなと思います。例えばドイツは犬も人間と同じように地下鉄に乗れますが、日本ではドッグランにわざわざ行かないと手放しで走らせることができません。国全体が、動物と共存する流れになると幸せだなあと思います。
岩倉:私も実際に大型犬と暮らしているので、行動が制限されることも多いです。だからこそ、飼い主もちゃんと情報収集をして暮らしやすくしていけたらいいですよね。実際に調査では、「犬を飼うようになって初めて譲渡会や保護犬に関して気にするようになった」や「ペットショップから飼うのが当たり前で今ほど譲渡が普及していなかった」といった回答も目立ちました。
保護犬・保護猫を引き取るということは認知されてきましたし、出会う環境も整いつつあります。ぜひ譲渡会に参加して、自分のライフスタイルに合っている犬猫と出会う方が増えると嬉しいなと思っています。
登壇者
- 藤野真紀子さん(料理研究家)
- とよた真帆さん(女優)
- 岩倉由貴さん(横浜商科大学准教授)
左から司会の渋谷亜希さん、藤野さん、とよたさん、岩倉さん
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保護犬・保護猫のイメージとは
岩倉:今回の調査では犬か猫を飼っている人を対象にアンケートを実施し、回答数は959名にのぼりました。その中で保護犬を飼っている割合が24%、犬は飼っているけれども保護犬ではない人が32%、保護猫を飼っている割合が23%、猫を飼っているけれども保護猫ではない人が21%でした。では、保護動物を飼っている人と保護動物ではない犬猫を飼っている人とでは、保護動物に対してどういったイメージの違いがあるのでしょうか。「しつけがされていない」「人に慣れていない」「医療費がかかる」など九つのイメージに対して5段階評価を付けて回答してもらいました。
最初に保護犬に関するイメージを見てみましょう。「人を怖がる」「医療費がかかる」という項目で、保護犬を飼っている人と購入した犬を飼っている人の間に、保護犬への大きな差があることがわかります。しかしグラフの形がほぼ同じことから、個々のイメージに差はあるものの、全体としては似た傾向であることが読み取れます。
保護猫に関しては、「人に慣れていない」というイメージに保護猫の飼い主さんと購入した猫の飼い主さんで大きく差が生まれました。保護犬との違いでは、いくつかの項目でイメージの強さが逆転しています。
以上の結果を重回帰分析したところ、保護犬・保護猫に対する、「しつけがされていない」「医療費がかかる」「人に慣れていない」といったイメージが、ペットショップでの購入を促していることがわかりました。
とよた:私の経験からすると、子猫の場合、最初は怖がっていてもすぐ懐きますね。おもちゃで遊ばせると「大丈夫だ!」と心を開いてくれる猫もいます。間違ったイメージで判断している人が多いんじゃないかなと思いますね。
藤野:「自分から保護動物のことを調べて保護団体へ出向く」という、一歩踏み出すきっかけがつかみにくいんだと思うんです。ペットショップで飼ったとしても、その子に何が起こるかわからない。医療費がかからないわけでもない。保護犬であろうとペットショップであろうとブリーダーであろうと、何が起きても飼い主の責任であると考えれば、あまり変わらないと思います。
保護犬・保護猫を引き取ったのは「かわいそうだったから」
岩倉:続いて、保護犬・保護猫を飼っている人のリアルな声を、「引き取り前」「引き取り時」「引き取った後」の3段階に分けて紹介していきます。まず引き取る動機を聞いたところ、犬猫ともに、「保護犬や保護猫がかわいそうだと思ったから」という理由が一番多く挙げられました。次点で多いのは「かわいかったから」という理由でした。
次に「実際に引き取ったところはどこですか」という質問では、犬猫ともにボランティア団体の保護施設が一番多い結果となりました。興味深いのは、猫で二番目に多かった猫カフェという回答。最近は保護猫カフェも多く、そういった場所が出会いの場の一つになっていることがわかります。
最後に満足度を聞いたところ、犬の場合は91.9%、猫の場合は91%と、非常に満足している人が多い結果になりました。
とよた:素晴らしいと思いますが、残りの9%が気になりますね(笑)。もしかして飼ってはみたけど相性が悪かった人もいるのかな。私は大人になってから8匹の猫と暮らしてきましたが、自分も1匹の猫になって仲間に入っていくんです。
猫社会は年功序列ではないので、そういった空気を読みながら、猫同士の揉め事が起こらないように調整役をしている感じです(笑)。猫の本能や習性をリスペクトしているので、自由にすることで魅力を引き出しています。
藤野:猫社会と犬社会は少し違うかもしれませんね。現在は6頭の犬と暮らしていますが、その中での調整役であり、絶対的なリーダーは私です。その次に長老犬、と続いていきます。
おやつもご飯もまず長老犬から与え、新しく来た子に順番を教えながら「自分も順番でもらえるから大丈夫だ」と安心させるんです。その認識を付けなければ、犬同士が混乱して噛み付いてしまうこともある。犬の場合、限りなく自由にしてあげるためには社会性が必要なんだと思います。
ネックになるのは「保護団体の厳しい条件」
岩倉:保護犬、保護猫を飼う人の満足度は非常に高いことが分かったところで、保護動物を選ばなかった人たちの意見も気になります。調査対象の99%が保護施設の存在を知っていましたが、「引き取りができることを知っていますか」「保護動物を検討しましたか」という質問になると割合が下がり、「実際に譲渡会に行きましたか」という質問に対しては65%もの人が「いいえ」と答えました。保護犬や保護猫のことは知っていても、なかなか行動に結び付いていないことがわかります。
ではなぜ保護動物を引き取るという行動に移さないのか。「そもそも検討していない」という回答も多かった一方で、「条件的に引き取らせてもらえなかった」という回答が目立ちました。また、「その他」には「条件が厳しいというイメージがあって、私は共働きだから多分無理であろうと思った」といったような回答もありました。
団体によって条件が違うとはいえ、こういったイメージがついてしまっているのも、引き取りがうまく進まない理由の一つではないでしょうか。
藤野:私が嫌なのは、高齢者が保護動物を飼うハードルが高いこと。「年を取ってるからダメ」という言い方は切ないので、「健康状態によっては飼えますよ」「お子さんが近くに住んでいるから飼えますよ」などの条件をもって、もう少しいろんな人が引き取りやすいようにしてほしいなと思います。
岩倉:「どうしたら引き取りたいと思いますか」という質問をしたところ、一番多かったのは「信頼できるボランティア団体であれば」という回答でした。動物に関する要因よりもボランティア団体に関する要因、つまり「どこから引き取るのか」ということを重要視している人が多いことがわかりました。
とよた:確かにインターネットに書かれてあるような条件は厳しいですよね。でも実際に会って話すと、「条件を完璧に満たしていなくても引き取れた」なんてケースもあるようです。命を軽く考えている人が軽率に飼わないよう、厳しくしている面もあるのだと思います。
「なんで人間は動物の頂点だと思い込んでるんだろう」
藤野さんの愛犬、マリーちゃん。保護されたとき既に後足の骨がつながっておらず、ブラブラな状態。藤野さんは、金具で骨を継ぐよりも3本足で思いっきり走ることができるように断脚を決意したそうです
藤野:私が動物たちとの関係で一番大事にしているのは、信頼関係を築くことなんです。彼らが完全に私を信頼して、足元で無防備に寝ていたり、ご飯を食べたりするっていう暮らしが、私にとって大きなエネルギーになるんです。だから、「この子は何を一番望んでいるのか」ということを常に考えて付き合っているつもりです。
とよた:犬や猫と一緒に暮らすということは人間が始めたわけで、その責任を一人ひとりが持たなければいけないと思います。そもそも「なんで人間は動物界で一番頂点に立っていると思い込んでいるんだろう」という疑問があって。もうちょっと初心にかえって、他の動物にも尊敬を持っていきたいですよね。
そして日本の、動物と一緒に生きづらい環境が改善されたらいいなと思います。例えばドイツは犬も人間と同じように地下鉄に乗れますが、日本ではドッグランにわざわざ行かないと手放しで走らせることができません。国全体が、動物と共存する流れになると幸せだなあと思います。
岩倉:私も実際に大型犬と暮らしているので、行動が制限されることも多いです。だからこそ、飼い主もちゃんと情報収集をして暮らしやすくしていけたらいいですよね。実際に調査では、「犬を飼うようになって初めて譲渡会や保護犬に関して気にするようになった」や「ペットショップから飼うのが当たり前で今ほど譲渡が普及していなかった」といった回答も目立ちました。
保護犬・保護猫を引き取るということは認知されてきましたし、出会う環境も整いつつあります。ぜひ譲渡会に参加して、自分のライフスタイルに合っている犬猫と出会う方が増えると嬉しいなと思っています。