【皮膚科獣医師解説】犬のアレルギーの症状や原因は?検査法や治療法、予防法などを解説
近年ペットの室内飼育やペットフードの多様化によってアレルギー性皮膚炎が増えていると言われています。アレルギー性皮膚炎は複雑な病気で不解明な部分も多く、治療も多方面からアプローチしないといけませんので、飼い主さんが病気のことを理解することが重要です。今回はアレルギー性皮膚炎がどのような病気か、診断方法や治療法など、hiff cafe tamagawaの小林が詳しく解説します。病気のことを理解して、可愛いワンちゃんたちをつらい痒みから解放させてあげましょう。
犬のアレルギーって?
アレルギーとは本来ウイルスや細菌、がん細胞などを排除する免疫反応が、花粉、ほこり、ハウスダストあるいは食事など通常無害な物に対して過剰反応を起こし、体に有害な炎症反応を引き起こすことを言います。
このアレルギーの原因となるものを「アレルゲン」と呼び、代表的な病気としてはアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症などがあります。
アレルギーになりやすい犬種・年代
アレルギー性皮膚炎の発症には遺伝的要因が関係していると考えられています。好発犬種には柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シーズー、ゴールデンレトリーバー、ヨークシャーテリア、ビーグル、ラブラドールレトリーバー、シェルティ(シェットランドシープドッグ)、マルチーズなどが挙げられます。
発症年齢は比較的若齢期で、約70%が3歳以下、約85%が5歳以下と言われています。
犬のアレルギーの原因、アレルゲン
犬のアレルギー性皮膚炎には、「ノミアレルギー性皮膚炎」「食物有害反応(食物アレルギー)」「犬アトピー性皮膚炎」があります。これらはアレルゲン(痒みの原因になる異物)によって病名が変わります。
ノミアレルギー
ノミアレルギーは、ノミの唾液に対して過敏反応を起こすため、1匹にでも刺されると異常な痒みを引き起こすことがあります。食物アレルギー
食物アレルギーは、どんな食材であっても過敏反応を引き起こす可能性はありますが、主にタンパク質に対して反応が起きやすいと言われています。関連記事
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、よく耳にする病気だと思いますが、これはハウスダストやホコリ、花粉など空気中に含まれる環境アレルゲンに対して過敏反応を起こす皮膚炎のことを言います。以上のようにアレルゲンと言ってもさまざまな種類があります。さまざまな要因があるため、そのためにアレルゲンの特定していく事は非常に難しく、時間と根気が必要です。
犬のアレルギー性皮膚炎の症状
アレルギー性皮膚炎の症状は主に痒みです。逆に言うと痒みのないアレルギー性皮膚炎はありません。好発部位は目の周り、口の周り、耳、脇の下、内股、肛門の周り、手足の先が主に痒くなります。例外としてノミアレルギーは背中や尻尾を中心に痒くなることが多いです。掻く行動によって引っ掻き傷ができたり、湿疹が出てきたりすることはあります。また、慢性的になると苔癬化(たいせんか)と言って皮膚が分厚くなったり、色素沈着と言って皮膚が黒くなってきたりします。
アレルギー性皮膚炎はまずは痒みから始まりますので、湿疹などがないのに何となく掻く頻度が増えてきたら、それはアレルギー性皮膚炎の前兆かもしれません。
犬のアレルギーの検査・診断
痒みを引き起こす皮膚病はアレルギー性皮膚炎だけではありません。そのため、アレルギー性皮膚炎の診断には除外診断を行っていくことが重要です。アレルギー性皮膚炎の診断手順は四つあります。
寄生虫
診断手順の一つ目は、寄生虫疾患の除外です。ノミ、マダニあるいは疥癬虫(かいせんちゅう)や毛包虫(もうほうちゅう)といった外部寄生虫が皮膚に寄生していないかチェックします。ノミやダニは皮膚の表面にいるので視診やノミ取りぐしなどを使って確認します。疥癬虫や毛包虫は皮膚の深い所にいるので、皮膚掻爬(そうは)検査(スクレーピング)と言って皮膚を引っ掻く検査をしたり、被毛を抜く検査を行ったりします。ノミダニ予防をしているかも重要なポイントですし、さらにはどのような種類の予防薬を使っているかも大事になってきます。
感染性疾患
診断手順の二つ目は、感染性疾患の除外です。これは主に細菌であるブドウ球菌やカビであるマラセチアに感染していないかをチェックします。検査は皮膚押捺(おうなつ)検査といって、セロハンテープなどを使用して皮膚の表面をスタンプします。染色液で染めて顕微鏡で見るとブドウ球菌やマラセチアの存在が確認できます。もし、ここまで検査して寄生虫や病原菌が存在しないのに痒みがある場合は、アレルギー性皮膚炎の可能性が高くなります。
食事アレルギー
そして三つ目に除外する項目が食事です。食事アレルギーであるかどうかを診断するためには除去食試験というものを行います。どのような試験かというと、低アレルゲンフードと水だけを2カ月間与え、終了時に痒みの評価を行うというものです。低アレルゲンフードには2種類あり、一つは新奇タンパク食で、今までに食べたことのない食材を使用したフード。もう一つはアミノ酸食で、加水分解という特殊な処理を行いタンパク質の分子量を小さくしたフードが療法食としてあります。
以上三つの除外を行ってもまだ痒みが残っている場合は、アトピー性皮膚炎の可能性が高くなります。アトピー性皮膚炎のガイドラインによる診断基準では、
- 3歳以下で発症
- 室内飼育
- グルココルチコイド製剤(ステロイド)に反応する痒み
- 慢性・再発性のマラセチア感染症
- 前肢に症状がある
- 耳介外側に症状がある
- 耳介辺縁に症状がない
- 背部や腰部に症状がない
以上8項目で五つ基準を満たした場合は犬アトピー性皮膚炎の可能性が高いとされます。
以上のように、アレルギー性皮膚炎の診断には時間と手間がかかります。焦らずにじっくりと皮膚の状態を見ていくことが、正確な診断への近道です。
なお、アレルギー検査(アレルゲン特異的IgE検査)というものがありますが、この検査はアレルギー性皮膚炎を診断するものではなく、アレルゲンが何であるかを推測するための検査と認識する必要があります。そのため、アレルギー検査で陽性の食材全てが食べられないと考えるべきではありません。愛犬の健康のためにもきちんと何が食べられないのかを試験して選んであげましょう。
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犬のアレルギーの治療法・薬の種類
アレルギー性皮膚炎の治療は多方向からのアプローチが重要になり、重要なポイントは四つあります。
痒みのコントロール
治療の一つ目は、痒みのコントロールです。アレルギー性皮膚炎の症状は痒みですので、とにかく痒みから解放してあげることが重要です。ワンちゃんは痒みを感じると当然、引っ掻きます。これが炎症反応を引き起こしさらに痒みを悪化させます。いったん痒みが生じると、このような痒みサイクルが動き出してしまうのです。痒みを抑える治療法として、飲み薬と塗り薬があり、時には組み合わせて使用します。現在痒みを抑える飲み薬は、抗ヒスタミン剤・糖質コルチコイド製剤(ステロイド剤)・シクロスポリン(免疫抑制剤)・オクラシチニブ(抗掻痒剤)があります。
塗り薬にはステロイド系外用剤(スプレー、ローション、クリーム、軟膏)やタクロリムス軟膏があります。これらのお薬は長期的に使用していく事も多いので、効果効能や副作用をしっかり把握しながら使用していくことが重要です。インターフェロン療法や減感作療法といった体質改善が期待できる免疫療法もあります。
二次感染の対策
治療の二つ目は、二次感染対策です。アレルギー性皮膚炎の症例は皮膚のバリア機能が弱いと言われています。これにより皮膚に常在しているブドウ球菌やマラセチアが増殖してしまうケースも少なくありません。二次感染が起こると痒みの悪化を招きますので、シャンプー療法や消毒剤、場合によっては抗生物質や抗真菌剤を投与します。また、皮膚のバリア機能を強化するために日常的な保湿によるスキンケアも大切です。
生活環境の改善
治療の三つ目は生活環境の改善です。ノミ・ダニの予防はもちろんのこと、散歩コースの見直しなども必要になってくるかもしれません。ハウスダストマイトや花粉のアレルギーを持っているなら、空気清浄機を設置することもアレルゲンを減らす助けになります。現在は、ハウスダストマイトを中和するスプレーなどもあります。生活環境を見直すことで、大切なワンちゃんたちを少しでもアレルゲンから遠ざけることができるかもしれません。
栄養管理
治療の四つ目は食事を含む栄養管理です。人でも不摂生すれば肌荒れなどするように、適切な食生活は皮膚の健康を守るのに非常に重要です。アレルギー性皮膚炎に効果があると言われているオメガ脂肪酸3や6、抗酸化作用のあるビタミンCやEなどが含まれているとなお良いでしょう。
以上のように、アレルギー性皮膚炎の治療は多方面から考えていくことが大切です。
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犬のアレルギーの対策・予防法
アレルギー性皮膚炎は遺伝的な背景がありますので、発症を予防することはできません。しかし、病気を理解することで対策することはできます。
例えば、「ノミダニ予防をする」「定期的なシャンプーでスキンケアをする」「添加物の入ったおやつを与えない」といったことが重要です。アレルギー性皮膚炎は季節や天候によっても症状が左右されることも多いです。毎日皮膚の状態を観察し、悪化する前に対策していきましょう。
愛犬のアレルギーはそれぞれに合った治療法を
アレルギー性皮膚炎は、人でも完治することはできない病気ですので、生涯に渡って治療が続いていきます。ワンちゃんたちは自分でケアする事ができないため、飼い主さまがケアしてあげるしかないのです。そのためには病気のことや治療方法のことをしっかり理解していくことが大切です。ワンちゃんの性格や生活している環境、飼い主さまのライフスタイルはさまざまですので、治療方法も状況に合わていくことが大事です。獣医さんとよく相談し、ワンちゃんも飼い主さんも快適に生活できるようにオーダーメイドの治療法を見つけていくと良いでしょう。
引用文献
- Olivry T, DeBoer DJ, Favrot C, Jackson HA, Mueller RS, Nuttall T, Prelaud P for the International Task Force on Canine Atopic Dermatitis. Treatment of canine atopic dermatitis: 2010 clinical practice guidelines from the International Task Force on Canine Atopic Dermatitis. Veterinary Dermatology 2010; 21: 233-248
- 『犬と猫の皮膚病治療マニュアル』Sue Paterson
- 『Small Animal Dermatology』
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