犬の骨肉腫|症状・原因・検査・治療法・予防法を腫瘍科担当医が解説

犬の骨肉腫|症状・原因・検査・治療法・予防法を腫瘍科担当医が解説

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近年、飼い主さまの意識向上や獣医療の発達、ワンちゃんの食生活の改善によって犬の寿命は大幅に伸びてきました。その中で、死因の第1位は人と同じく腫瘍(がん)になっています。今回は、骨にできる腫瘍の中でも最も多い「骨肉腫」という悪性腫瘍について、さいとう動物病院副院長の齊藤が解説します。

犬の骨肉腫とは

骨肉腫とは骨を作る細胞(骨芽細胞という細胞)が腫瘍化してしまった状態を指します。骨にできる腫瘍の中でも一番多く、骨の腫瘍の80%以上が骨肉腫です。また、他の腫瘍同様に中齢〜高齢のワンちゃん(6〜10歳)に多く発生します。40Kg以上にワンちゃんでこの腫瘍が多く見られるようになるという報告もありますが、どの種類のわんちゃんにも発生します(ネコちゃんにも)。

骨肉腫の好発犬種

日本において骨肉腫が多いのはゴールデンレトリーバーラブラドールレトリーバードーベルマンボクサー、そしてイングリッシュセッターアイリッシュセッターなどのセッター系です。

犬の骨肉腫の症状

骨の腫瘍なので、もちろん骨から発生するものが多いです。特に前肢・後肢での発生が多く、全体の67%、頭蓋骨と肋骨等で28.5%です。非常にまれですが、筋肉や内臓(肝臓、脾臓など)からの発生もあります。
犬の骨肉腫の好発部位
犬の骨肉腫の好発部位
前肢にできた骨肉腫よりも、後肢にできたものの方が転移率が多いとも言われています。骨にできる悪性腫瘍なので、歩き方がおかしくなったり、痛がったりすることが症状として一番多いです。また、骨肉腫の80%は肺転移で最終的に亡くなると言われています。肺転移が起こり時間がたつと食欲が無くなったり、元気が無くなったり、呼吸が荒くなったり体重が減少します。

犬の骨肉腫の検査

骨肉腫は骨にできる腫瘍なので、レントゲン検査が重要です。また、骨肉腫の場合は高確率で肺転移を起こしますので、肺のレントゲン検査も同時に必要です。CT検査ができる病院であれば、より初期の肺転移を見つけることが可能です。骨肉腫と診断された時には、50%のワンちゃんですでに肺に転移が認められているというデータもあります。
レントゲン検査にて骨の異常がわかった場合、次に細胞の検査を行います。これには2種類の検査があり、細胞診検査および骨組織検査です。骨肉腫以外の骨の腫瘍(軟骨肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫等)は細胞診検査では診断できませんが、骨肉腫のみ細胞診検査で骨肉腫だと疑えます。
細胞診検査は、レントゲンで異常が認められた部位に採血の時に使うくらいの細い針を使用して細胞を採取し、顕微鏡で観察します。無鎮静あるいは軽い鎮静で行うことができ、一般の病院でも診断できることもあります。しかし確定診断ではありませんので、断脚等の手術を行う場合はきっちりとした診断に基いて行うべきで、骨組織検査が必須になると考えています。
骨組織検査は、比較的太い針を使用しますので深い鎮静あるいは麻酔が必要になります。こちらは外の病理検査機関で診断してもらいます。どちらでも診断は可能ですので、かかりつけの先生と相談して実施していただきます。細胞診検査あるいは骨組織検査を行うことで腫瘍が骨肉腫であることが診断できます。
犬の上腕骨の骨肉腫のレントゲン写真
犬の上腕骨のレントゲン写真。赤い円の真ん中にやや黒い部分が腫瘍部分
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犬の上腕骨のレントゲン写真。非常に激しく骨が反応を起こしている

犬の骨肉腫の治療法

犬の骨肉腫の治療法として、外科手術、抗がん剤、放射線治療での治療が多く報告されています。悪性の腫瘍であるので通常は外科手術が第一選択になることが多いです。つまり、肢に発生する腫瘍なので断脚が最も広く行われている方法です。

断脚手術

手術後の歩行に心配があれば、負担を減らすために義肢で補助してあげることが選択肢の一つになるかもしれません。腫瘍化してしまった骨のみを切除し肢を温存する方法もありますが、手術自体が非常に難しいこと、特殊な器具が必要なこと、感染を起こしてしまう可能性があるので、この方法は慎重に行われなければなりません。

抗がん剤理治療

骨肉腫への抗がん剤治療は、基本的に外科手術に組み合わされて使用されます。転移や再発を抑えるのが目的です。どちらかというと腫瘍を取り除くことを目的とした使われ方はせず、あくまでも外科手術の補助として使われます。
例えば、同じ骨肉腫の子に外科手術単独で治療した場合と外科手術と抗がん剤を併用して場合では、寿命を2.2〜2.4倍程度に伸ばすことができるといわれています。ある報告では、外科手術のみの場合は中央生存期間(平均の生存期間)138日に対して、抗がん剤を併用することで307〜366日に伸びるとしています。

放射線治療

放射線治療も骨肉腫に対して有効であるといわれています。こちらも抗がん剤同様に外科手術の補助として使用されることが多いです。放射線治療でも中央生存期間(手術後の平均の生存期間)を伸ばすことができると報告されていますが、放射線治療を行える施設に限りがありますので、全ての飼い主sまあが利用できるというわけではありません。
上記の三つ以外の代替療法も報告されていますが、代替療法には有効な治療法が無いのが現状です。こちらの分野は、今後さらに研究が進んでいくと思います。

犬の骨肉腫の予防法

ゴールデンレトリーバー
骨肉腫は予防することができないので、ワンちゃんの異変を感じたらすぐに動物病院での診察を受けていただくことが必要だと思います。早期発見・早期治療がワンちゃんの寿命を伸ばすことにつながることは言うまでもありません。
日頃からワンちゃんの健康のためにマッサージをしてあげるなど、体に触る機会を作っておくこともおすすめです。いつもと違う違和感を覚えたら、かかりつけの先生に診てもらうようにしてください。特に骨肉腫の場合は、転移してしまう前に治療を始められるかどうかが重要になってきます。

犬の骨肉腫は悪性度の高い腫瘍。早期発見・早期治療を

今回は、骨にできる悪性腫瘍の骨肉腫について話しました。悪性度の高い腫瘍なので、特に肺転移している場合には完治は難しいことが多いです。手術・抗がん剤・放射線治療と、どの治療を選択するかはかかりつけの先生とよく相談していかないといけない腫瘍です。飼い主さまには治療のみでなく、いかにワンちゃんがストレスなく幸せに生きていけるかを考えていただければと思います。