犬の聴覚は人間の何倍?聞き取れる周波数や距離など、耳の構造について紹介

犬の聴覚は人間の何倍?聞き取れる周波数や距離など、耳の構造について紹介

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犬の聴覚は嗅覚の次に鋭い感覚器官です。犬が家族の帰宅を誰よりも早く出迎えたり、地震の発生に気がつきソワソワしたりすることは、優れた聴覚を持っているからこそ。人間と犬の聴覚で重なり合う部分もありますが、異なる部分もあります。今回は、犬の聴覚について紹介します。

犬と人間の聴覚の違い

犬の聴覚に優れるボストンテリア

犬の聴覚は人間の何倍なのかと思う人も多いでしょう。

犬と人間で、音波スペクトラムの低周波帯に属する音を検知する能力に大きな差はありません。一方で、高周波帯の音に関しては、犬の方がはるかに優れています。

私たちは犬笛の音が全く聞こえませんが、犬は耳をそばだてる行為からも分かります。

犬の可聴範囲

人間の可聴範囲(聞こえる音の周波数範囲)の上限は20キロヘルツ前後ですが、犬は65キロヘルツまで聞こえると言います。犬の可聴範囲の上限は、人間の可聴範囲の上限に比べて約3.25倍も広いのです。

正確な理由はわかっていませんが、犬の祖先はこの聴力を生かし、齧歯類(げっしるい)の超音波によるコミュニケーションを聞き取っていたのではないかと言われています。そのため、今の犬には、コンピューターの水晶振動子や電話、電子時計が発するノイズが聞こえているはずです。

犬の可聴音域

人間は、20〜2万ヘルツの範囲の音を聞くことができますが、犬は最大で約5万ヘルツまでの音を聞くことができます。つまり、犬は人間に比べて約2.5倍高い周波数まで音を聞くことができるのです。

人間が日常生活で耳にする音は、日常会話で最大約4000ヘルツ、飛行機の音でも最大で約1万3000ヘルツです。

離れた距離の音が聞ける

犬の聴力は人間よりも優れており、1km以上離れた距離の音を聞くことが可能といわれています。

障害物がなければ、それ以上の遠い距離の音を聞くことができるといわれています。私たちにとっては何も聞こえなくても、愛犬が耳をピクピクさせている時は、何か遠くの音を聞こうとしているのかもしれません。

犬の耳の構造

犬の耳の構造

犬の耳は、大きく分けて「外耳」「中耳」「内耳」から構成されています。軟骨質の外耳(耳介)が音を捉え、外耳孔を介して鼓膜に伝えます。犬の耳の動きは筋肉で正確にコントロールでき、音のする方へ向けることができ、左右別々に動かすことも可能です。

鼓膜の振動が中耳の平行器官を刺激し、平行器官は音を増幅すると同時に、過剰な振動から内耳を守ります。音が入ってくる鼻孔や外耳道も人間よりずっと長いのです。

犬の聴力が低下する原因

老犬

加齢による聴力低下

内耳の神経細胞や聴覚器官の自然な老化によって引き起こされる、犬の聴覚障害の一つです。人間が年を取ると耳が遠くなることと同様に、犬も加齢により耳が遠くなります。老犬を飼っている人は「小さな声で名前を呼んでも来なくなった」「小さな音に反応しなくなった」などの経験があるかもしれません。

このようなときは、少し大きく、高い声で愛犬を呼んであげましょう。「急にまったく反応しなくなった」という場合は病気の可能性があるので、動物病院で検査をしてもらいましょう。

遺伝性疾患

生まれつき耳が聞こえにくい、もしくは聞こえないという犬もいます。ダルメシアンは他の犬種と比較して先天的に耳が聞こえない子が多いことが知られています。 

感染症

加齢や生まれつきの難聴以外にも、病気が原因で難聴になることもあります。そのうちの一つが感染症です。

特に多いのが外耳炎です。外耳炎は外耳に細菌、真菌などが感染し、炎症が起こることで引き起こされます。

初期症状として「頭をよく振る」「耳が赤くなっている・痒がっている」「悪臭がする」などがみられます。予防策としては、耳を清潔に保つことが一番です。もし、症状が出ている場合は、病院で検査をしてもらいましょう。

犬の聴覚に関する疑問

撫でられる犬

犬は高い声を好む?

ある研究によると、大人が赤ちゃんに話しかけるような高い声で犬に話しかけた場合と普通のトーンで話した場合では、犬は高い声に対してより反応したという結果がみられたそうです。

犬との距離を縮めたい方は、赤ちゃんに話しかけるようなトーンで犬に話しかけてみてもいいかもしれません。

犬はどんな音に反応する?

犬はおもちゃの音、おやつの袋を開ける音、人の声、車の音など、いろいろな音に囲まれて生活しています。「おやつの袋の音だけで犬が走ってきた」「チャイムの音に対して吠える」など、ある音に対して反応がある一方、関心を示さない物音もあります。

これは「おやつの袋の音=おやつをもらえるかもしれない」という条件反応の一種です。ある音と、それに結びつく事実が一致し、反応します。

名前を覚えている犬は、自分の名前を聞くと反応します。何気ない会話で、愛犬のことを話していると、もしかしたら愛犬が耳をすまして聞いているかもしれません。

犬は人間の言葉を理解している?

2014年学術誌「サイエンス」にて発表された研究では、犬は人の声の感情を脳の特定の部分で処理していることが判明しました。これにより、犬は言葉だけでなく、その口調や感情にも反応していることがわかります。つまり、犬は「言葉を理解している」というよりも「音と感情」を理解しているのです。



犬が人間に聞こえない音を聞いているときはどんな様子?

犬は人間には聞こえない高周波の音を感じると、特定の行動を見せることがあります。

例えば、突然、何もない場所で吠えることは、犬が何かの音に対して警戒している可能性があります。首をかしげたり、凝視したり、震えたりする行動も人間には聞こえない音に対する行動の場合があり、音源を探ろうとしていたり、不安を感じていたりする場合も。

その時の状況に応じて、愛犬のサインを的確に判断してあげてください。

犬種・耳の形で聴力の差はある?

高周波数の音を聞き取れるのは小型犬だけだと言われてきましたが、間違いだったことが分かりました。1歳〜4歳のチワワ、ダックスフンド、プードル、ポインター、セントバーナードで聴力の差を調べた実験によると、直立型の耳を持つ犬種と、垂れ耳を持つ犬種間にて、顕著な聴力の差(周波数)の差はありませんでした。

また、犬の大きさによって鼓膜面積の広さなどにも違いがみられますが、犬の大きさと聴力の差(周波数)に関連性はないとされています。


犬は聴覚以外に嗅覚も優れています。また、視覚も人間とは異なるので、愛犬のことをもっと知りたい場合は、以下の記事も参考にいかがでしょうか。


犬が音で不快にならないために気をつけること

袋に隠れる犬

犬は人間よりも優れた聴覚を持ち、特に高音域に敏感です。音によるストレスを軽減し、犬が快適に過ごせるよう、日々の生活で気をつけた方がいいこともあります。

静かな環境を提供する

愛犬がリラックスできる場所を用意しましょう。音がなりやすいテレビの近くやドアの近くなどは避け、静かで落ち着きがある場所が好ましいです。

音に慣れさせる訓練をする

新しい音や苦手な音には、徐々に慣れさせることでストレスを軽減できます。初めは小さな音から始め、少しずつ音量を上げていきましょう。また、ポジティブな体験と結びつけるために、おやつや褒め言葉を使って訓練するのも効果的です。

嫌な音から遠ざける

掃除機や工事現場など、犬が嫌がる音が発生する際には、別の部屋に移動させたり、避難場所を用意することが重要です。特に散歩中は、工事現場や交通量の多い通りを避けるようにしましょう。

飼い主の態度に気をつける

飼い主の声や態度は犬に大きな影響を与えます。落ち着いた声で優しく話しかけることで、犬に安心感を与えることができます。また、飼い主がストレスを感じていると犬にも伝わるため、リラックスした状態で接するよう心がけましょう。


犬の聴覚を理解して暮らしを考えよう

子犬

犬は最大で約5万ヘルツまでの音が聞ける
犬は1km離れた距離の音も聞くことができる
急に声に反応しなくなった場合は病気の可能性がある
高い声のほうが犬が反応しやすい
犬種ごとに顕著な聴力の差はない

多くの人が集まる場所でも、特定の人の会話だけ聞き取ることができます。犬の音に対する鋭敏さは人間と同程度にも、数百倍にもなります。このことは犬と暮らす上で心に留めておくべきです。花火の音は犬の耳にダメージを与えるかもしれませんし、掃除機をかけたりフェスに連れて行ったりといった一見無害に思えるようなことさえ、犬にとって有害になるかもしれません。もしかすると首輪に着いた飾りの音もストレスかもしれません。そうすることで難聴になったり、聴覚が低下する可能性もあります。

あくまで仮説に過ぎませんが、犬の聴覚を理解することによって愛犬を思いやり、双方の暮らしが豊かになるよう過ごしたいものですね!


引用文献

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