犬の尿毒症|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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犬の尿毒症は、腎臓の働きが極度に低下しておこる全身の状態を指し、急性あるいは慢性の末期であるステージ4で起こる腎障害で見られる病気です。震えや発作などの神経症状や食欲や元気が無くなる様子が顕著で、飼い主さんにとって見ていてつらい病気の一つです。今回は尿毒症の原因や症状、食事療法などの治療法について、獣医師の福地が解説します。

犬の尿毒症とは

ダックス

飼い主さんの予防意識の高まりや獣医療の発展によってワンちゃんの寿命が伸び、それに応じてよく見られる病気も変化しています。慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)もその一つで、ステージ4の末期症状として尿毒症が見られることが増えてきました。

尿毒症とは、腎不全の結果として著しく体内環境が悪化し、さまざまな症状が起こることをひとまとめに症候群として扱った病気です。慢性腎不全の末期症状で見られるほか、尿閉(尿がまったく出ない状態のこと)や、ユリやエチレングリコールなど中毒物質の摂取によって起こる急性腎不全でも見られます。

血液検査でタンパク質を分解した後の老廃物である尿素窒素(BUN)筋肉で作られる老廃物のクレアチニン(CRE)濃度が高くなるのが特徴です。

腎不全とは

腎臓は以下のように、生命活動を維持するのに必須の機能をいくつも担っています。
  • 水や電解質といったミネラルの代謝
  • pHを一定の幅に保つ
  • タンパク質の代謝物を体外に排泄させる
  • 血液を作るためのホルモン産生
  • 血圧を調整する
  • 一部の薬剤の代謝を行う
そんな腎臓の機能がなんらかの原因によって重度に低下した状態を「腎不全」と呼びます。腎不全になると老廃物や毒素のろ過や排出が適切に行われず、本来ならば排泄されるはずの有害物質(血液尿素窒素など)が全身を巡って呼吸器や消化器、泌尿器、目、血液、神経、免疫など体のあらゆる場所でさまざまな障害を起こします。

慢性腎不全の診断は、3カ月以上持続する腎障害やタンパク尿、糸球体濾過量(腎臓を通過する血液の量)の低下によって診断されます。犬の発症平均年齢は7歳となっていますが、必ずしもシニア犬(老犬)だけに発生するものではなく、若い犬でも発症することがあります。

腎不全について、詳しくは以下の関連記事も参考にしてください。


尿毒症の犬で見られる症状

トイプードル

尿毒症の犬で見られる主な症状は以下の通りです。数が多いですが、腎臓が担っている「タンパク質代謝」「ミネラル代謝」「水分の調整」「赤血球を作る」などの機能が全て障害された状態と考えていただければと思います。

  • 食欲不振
  • 無気力、ぐったりしている
  • 下痢
  • 嘔吐
  • 血便
  • 口臭(アンモニア臭)
  • 口内炎
  • 脈拍の異常(速い、遅い)
  • 腎臓の触診で肥大、硬さ、痛み(圧痛)

急性腎不全による尿毒症では、急激に腎機能が低下して老廃物の血液中の濃度が急上昇します。急な食欲不振や元気の消失で飼い主さんの目に止まりやすく、早期治療で回復も少なくありません。一方、糸球体や尿細管といった腎臓を構成する細胞は壊死すると新たに再生することはなく、腎不全とそれに続発する尿毒症のリスクが高くなってしまいます。

特に以下の症状は生命の維持に必要な機能が損なわれることで起こりますので、最終的に多臓器不全となり死に至ってしまいます。

  • 痙攣、昏睡などの神経症状が出る
  • 乏尿もしくは無尿
  • 知覚異常
  • 貧血

また、シーズーはネフロンという腎臓組織の低形成が遺伝的にみられ(低形成腎)、若い年齢でも尿窒素血症の増加がみられることがあります。

犬の尿毒症の予後

尿毒症が続くと多臓器不全に陥って死に至りますが、急性腎不全の場合は輸液や人工透析(腹膜透析)で改善する可能性があります。病院にもよりますが定期的に実施する必要があり、神経質でどうしても暴れるワンちゃんでは鎮静が必要な場合もあります。

一度死んでしまった腎臓の細胞は再生することがなく、少し状態を持ち直すことは可能でも完全に健康体に戻ることはありません。生命維持に必要な機能が無くなることで、犬は苦しい思いをします。腎移植は手術ができる動物病院もドナーも限られ現実的ではありませんので、最終的に安楽死が選択される場合もあります。

尿毒症は腎不全や種々の腎機能障害による末期の症候群のため、何年も苦しむということはありません。尿毒症まで発症した場合、獣医師と相談して犬の負担、飼い主さんの経済的な負担を考えて最期を決めることをお勧めします。

犬の尿毒症の原因と治療法

ボーダーコリー

尿毒症の多くは腎不全によって起きますが、シーズーなどで遺伝的に若くして起こることもあります。腎不全は慢性か急性か、原因が何かを知る必要があります。

治療は腎臓の機能を維持するため、脱水があれば点滴をします。定期的な通院や手技を覚えて自宅で皮下輸液することもありますし、日常的には血管を拡張させるお薬を与えたり、腎臓療法食やリンを吸着するサプリメントを与えたり、飲水量が増えるような工夫(水飲み場を増やしたり匂いづけをしたりなど)も大切です。

貧血が重度の場合は、血液を作ることを刺激するホルモン「エリスロポエチン」などを投与することもあります。

慢性腎不全

慢性腎不全の場合はステージ4で尿毒症が見られます。

ステージ 状態 クレアチニン値 治療
1 初期 1.6 mg/dL未満 十分な水分摂取、脱水があれば輸液、高血圧の治療、抗蛋白尿療法、腎臓療法食、リンを<1.6mg/dLに維持
2 軽度 1.6~2.8 mg/dL ステージ1に準ずる、腎臓療法食
3 中程度 2.9~5.0 mg/dL ステージ2に準ずる、リンを<5.0mg/dLに維持、代謝性アシドーシスがあれば治療、貧血治療、消化器症状の治療、薬物療法が必要なことが多い
4 重度 5.0m g/dLを超える ステージ3に準ずる、リンを<6.0mg/dLに維持、生活の質を向上させる輸液療法、栄養チューブなどの検討


急性腎不全

急性腎不全の原因は「腎前性」「腎性」「腎後性」に分かれます。

腎前性

腎臓に問題がなくても、なんらかの原因による脱水や事故、血管肉腫の破裂による出血、ショックや心臓病などで循環血液量が減少あるいは血圧が低下すると腎臓に行く血液が減り、腎臓の組織にダメージが蓄積して起こります。

腎性

犬の何倍も体重がある人間用の薬も犬には毒性になることがあります。有名なものでは「アセトアミノフェン」や「イブプロフェン」などの風邪薬による中毒があります。トイレの芳香剤に含まれることもあるエチレングリコールや甘くて美味しいブドウパンなどの腎臓の組織に障害を与える中毒物質の摂取によっても起こります。

腎後性

最初は腎臓に問題がない状態ですが、老廃物が入った尿を排泄できずにいると腎臓が物理的に圧迫されます。細胞が障害されると腎臓に血液が入りにくくなり、血液の濾過量も減って腎機能が低下します。


犬の尿毒症の食事療法

PETOKOTO FOODSを食べる犬たち

急性腎不全の場合は急激に老廃物の血中濃度が上がるためかなりしんどそうに見えることが多く、食欲も全くない場合が多いです。そのため、まずは点滴で脱水や電解質を補正したり腎臓の血管を広げたりするなどの治療がメインになります。おしっこの産生不全まで起こしている場合は、排尿できるまでが一つの山になります。

おしっこが出て少し食べられるようになってきたら腎臓への負担を減らすフードを与えていきます。タンパク質由来の老廃物を減らすためにタンパク質は制限します。ただし、エネルギー摂取量が減ると筋肉など体の組織が代謝されてエネルギー源に回され、動物の体はどんどん栄養状態が悪くなります。

療法食の構成をみるとエネルギーを補うため脂質の割合が高くなっているのがわかります。手作りではエネルギー摂取量が不足しないようにして、筋肉量や体の構成成分であるタンパク質が不足しない程度のタンパク質を摂ります。ただ、タンパク質を構成するアミノ酸の種類と量は計算が難しいため、手作りではなく療法食を使うほうがベターです。

高カリウム血症を併発している場合

高カリウム血症の原因はさまざまですが、尿毒症の際に併発する場合があります。特に急性腎障害や慢性腎不全の末期でおしっこが作られない場合や、尿閉でおしっこが出ない時に血中のカリウム濃度が高くなります(9.5mmol/L以上)。高カリウム血症では不整脈が起こり、高確率で死に至ります。心電図では特徴的な波形が出ますが、家で判断するのは難しいでしょう。

血中のカリウム濃度が高い状態は救急の対応が必要です。まずは尿毒症の治療を動物病院で行い、そこでカリウムの補正も行います。家ではミネラルウォーターや野菜や果物などカリウムが多く含まれるものは避け、療法食など獣医師の指示があったもののみを摂るようにしましょう。

まとめ

PETOKOTO FOODS
尿毒症は腎不全の末期で見られる
遺伝で若い犬が発症する可能性も
急性であれば早期治療で回復する
多くの場合は最期の選択が必要になる
尿毒症は腎臓の機能が低下するさまざまな病気(慢性腎不全や急性腎不全など)で起こり、全身の体内環境が著しく悪くなった末期の状態です。腎臓は一度痛めると再生して元に戻ることはありませんが、飼い主さんが進行をゆっくりさせるよう日頃のケアをすることは可能です。

慢性腎不全を早期発見するには定期的に健康診断を受けることが大切です。クレアチニンや血液尿素窒素といった従来の腎臓の状態をみる指標のほか、SDMAなど鋭敏に腎機能不全を検出できるバイオマーカーも利用できるようになってきました。犬種や基礎疾患、年齢など総合的に考慮して、最適な健診項目をかかりつけの先生と相談しながらケアしていきましょう。

参考文献

  • 石田卓夫, 2019, 伴侶動物の臨床病理学 第3版