犬のツボとは?胃腸や腎臓などに効くツボ押しマッサージを動画で獣医師が解説
東洋医学(中獣医)を語る上でよく耳にする言葉の一つに「ツボ」があります。今回は「犬のツボ」にスポットを当てて、そもそもツボとは何なのか、そしてそのツボを使って犬にどんなことができるのか、胃腸や腎臓などに効く自宅でできるツボ押しのやり方についても、ますだ動物クリニック院長で東洋医療科担当の増田が写真や動画を交えて紹介します。
犬のツボを知る前にツボとは
われわれの体には気や血(けつ)、水(津液・しんえき)といわれる生きていくために必要な物資を運ぶための「経絡(けいらく)」があります。
経路は体を巡るルートの違いによって14種類あります。その経絡上に「ツボ」と呼ばれるものが存在します。
ツボは、その中を通っている気・血・津液の流れを体表を通じて整えることができるスポットのことをいい、ツボに鍼やお灸、あるいは指圧などで刺激を加えると、元気になるのはそのためです。
犬のツボとは
ツボの数
人間のツボの数はWHO(世界保健機関)では361カ所とされています。ただ、これには諸説あるといわれ、実際にはこれより多いといわれます。犬のツボの数は人間とだいたい同じと考えてよいでしょう。例外として、人間の頭の最頂部に「百会」(ひゃくえ)というツボがありますが、動物には同じ百会というツボが頭以外に腰にもあります。
これは、かつて馬や牛といった大動物に鍼灸を行った名残で、人間より背の高い牛や馬の頭に処置をするのが難しく「腰百会(こしひゃくえ)」というツボが活用されたという歴史があるためです。
ツボの感じ方
動物はツボを刺激された場合、おそらく人間がツボを押されたときの感じ方とほぼ同じだろうと思います。強すぎず弱すぎずという「程よい強さ」がポイントとなります。顔や足の先端は感覚が敏感ですので、力の加減など実際のツボ押しについては後述します。
ツボ押しをおすすめしない場合
ツボ押しをする部分に「強い炎症がある」「骨折している」「強い炎症や腫れがある」「腫瘍がある」といった場合は、ツボ押しを控える必要があります。全身状態が著しく衰弱している場合も適しません。さらに妊娠中の犬の場合は、刺激しない方がいいツボがあるので、注意してください。
犬のツボの押し方
強すぎず弱すぎない押圧を
ツボを押すことを「押圧」と呼びます。この押圧は、力の加え具合がポイントとなります。人間に指圧する場合でも、強すぎず弱すぎずという点が重要なのですが、どうしても人間に指圧する感覚で犬にすると強すぎる可能性があります。
目安として、以下のような力を加えていただくとよいでしょう。個々によって力加減に好みがありますので、様子を見ながら調整してみましょう。
- 小型犬:350~500g
- 中型犬:500g~1kg
- 大型犬:2~3kg
犬のツボ押しのやり方「3-3-3秒法」
- 指の腹を使って3秒くらいの時間をかけゆっくりと力を加えます
- 力が加わった状態で3~5秒ほど保ちます
- 3秒ほどの時間をかけて力を徐々に抜いていきます
- 犬の様子を見ながら必要に応じて1~3を繰り返します
\One Point/
愛犬の表情をよく観察し、気持ち良さそうであればOKです。うっとりするところまで到達すれば文句なしです。嫌がるようであれば、力を弱めるか、中止しましょう。
※見出しに「3-3-3秒法」と書きましたが、覚えやすいように筆者が適当に名付けたもので正式な名前ではありません。
犬のツボ押しの注意事項・アドバイス
押圧回数の目安
ツボ1カ所につき5~30回くらいを目安に押圧します。できるだけ毎日行うのが効果的です。ツボの位置に自信がない場合
犬の押圧するツボを、人間のツボで位置確認してみるとわかりやすいかもしれません。無理強いはNG
あせらず、ゆっくりと慣らしましょう。犬が嫌がっていたり、怖がっている場合の無理強いはやめましょう。押圧する側の体調管理も必要
押圧する側の体調や感情が指を通じて犬に伝わることがあります。リラックスし、愛情をたくさん込めましょう。超小型犬の場合
超小型犬で指の腹で押圧ができない場合は、綿棒を使って押してあげると程よい刺激が得られ便利です。犬が気持ちいいツボ
では実際に、愛犬を落ち着かせたり、リラックスさせたりしたいときのツボを紹介します。ツボの位置を把握しやすく、かつ実践しやすいツボを厳選しました。うまく押したり、マッサージしてあげたりすると、気持ち良くなって寝る犬もいると思います。
緊張している状態を落ち着かせるためのツボ
攅竹(さんちく)
犬にも眉毛が生えており、その部分がうっすら盛り上がっています。その部分が攅竹です。いわゆる「麻呂眉」になっている部分そのものです。
犬と向かい合って親指で円を描くようにマッサージしてみましょう。
風池(ふうち)
頭の付け根の後ろ両側のくぼみにあります。神経の高ぶりを抑え、心を穏やかにするだけでなく、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。
指の腹を使って左右同時に押圧するとよいでしょう。
寝つきが悪いときのツボ
丹田
正確にはツボではなく場所を指す言葉です。
犬のおへその下部、およそ犬のかかとの横幅3個分あたりを指します。この部分は強く押すのではなく、円を描くようにやさしくマッサージするのがポイントです。
イライラ対策のツボ
百会(頭百会)
頭頂部の両耳の先端を結んだ線と、からだの左右の中心線が交わった部分です。
ストレスによって落ち着きがない場合、自律神経のバランスを整えることができます。軽く指圧するほか、円を描くように軽くマッサージする方法も良いでしょう。
注意点は、犬種によってこの部分の頭蓋骨に穴が開いているケースがあります。チワワといった超小型犬にみられることが時々あるため、その場合は、ツボ押しは控えましょう。
犬の病気に効果のあるツボ
犬にツボを使用して治療を行うことが多いものとして「腎臓病」や「神経病」「内臓の病気」、病気ではないものの何となく調子がすぐれない「未病」といわれるものや、健康維持を目的とすることがあります。
自宅でできるオススメの犬のツボ押しをケースごとに紹介します。
心臓病に有効なツボ
膻中(だんちゅう)
胸骨(のどの下のくぼみからみぞおちまでの体の中央を通る骨)の下から1/4の部分にあります。
胸のつかえや息切れに効果があります。「3-3-3秒法」で20回くらいを目安に行います。
神門(しんもん)
犬の手首にある肉球(手根球)の近く、親指側のくぼみにあります。
心を穏やかにする、心機能を安定化する働きがあります。20秒ほどゆっくり押圧してみましょう。
呼吸器(気管虚脱や咳など)に有効なツボ
膈兪(かくゆ)
犬には肋骨が13本ありますが、後ろから数えて6本目と7本目の間を指で背中側にたどっていきます。背中の中心の左右のくぼみにあるのが膈兪です。
横隔膜に由来しますので、呼吸器だけでなく胃、食道の不調に効果があります。「3-3-3秒法」で押圧しましょう。
膻中
「心臓病に有効なツボ」で前述したツボです。膻中は心臓病だけでなく、呼吸器疾患にも有効です。
手法は前述同様です。胸骨の下から1/4の部分にあるツボを「3-3-3秒法」で20回くらいを目安に行いましょう。
腎臓病に有効なツボ
腎兪(じんゆ)
一番後ろの肋骨をたどり、その中央にある骨のでっぱりから3つ後ろのでっぱりがある骨の左右にくぼんだたところが腎兪です。
東洋医学の「腎」は泌尿器としての腎臓の機能だけでなく、生命の源となる「精」と密接な関係があり、老化予防としても重要なツボです。「3-3-3秒法」で押圧しましょう。
湧泉(ゆうせん)
後肢の一番大きな肉球の付け根にあります。
「気が泉のように湧く」という字の通り、腎経という腎臓に関連する経絡の始点となるツボです。腎臓病だけでなく、後肢の麻痺などにも有効です。
胃腸トラブルに有効なツボ
足三里(あしさんり)
後肢のひざ下外側にある出っ張りから斜め前方にくぼんだ場所にあるツボです。
松尾芭蕉の「おくのほそ道」にも記された足の疲労に良いとされるツボですが、このツボは胃と関連の深い「胃経」という経絡に属するツボです。5秒程度ゆっくり押圧し、20回ほど繰り返しましょう。
気海(きかい)
おへそから、犬の指で2本分下方にあるツボです。お腹が痛いときによく押さえる場所でもあります。
ツボを直接押圧するというより、気海を含めたその周辺を手で覆って温めながら軽くさすると良いでしょう。強く押圧するのは好まない犬が多いです。
肩こりに有効なツボ
曲池(きょくち)
肘を曲げた際にできるしわの外側にあります。「3-3-3秒法」で10回ほど繰り返します。
そのほか、自律神経の安定に有効です。
風池(ふうち)
耳の後方にあるくぼみ(ぼんのくぼ)にあります。肩と合わせて首の筋肉が凝ることが多いため有効です。
左右一対あり、20秒くらいの時間をかけゆっくり押圧します。
アンチエイジングのツボ
腎兪
前述した腎臓病に有効なツボ同様のツボです。
一番後ろの肋骨をたどり、その中央にある骨のでっぱりから3つ後ろのでっぱりがある骨の左右にくぼんだたところを「3-3-3秒法」で押圧しましょう。
腰百会
腸骨翼(ちょうこつよく)という骨盤の中で一番高い位置の骨を指で確認し、左右の腸骨翼の中間にあるくぼみが「腰百会」です。
いくつもの良い効果があることから「百会」と呼ばれます。アンチエイジングのほか、腰痛や免疫力の向上にも有効です。
「3-3-3秒法」で10回ほど押圧してみましょう。気持ち優しめにツボを押すと効果的です。
犬の健康にはごはんも大事
犬の食べ物は「エサ」と呼ばれていた時代から、家族の「ごはん」と呼ぶ時代へ変わりました。
私たちと同じように、犬も栄養バランスの良いごはんを食べることで健康を維持することができます。ごはん選びをする際は、以下の2点を気を付けていただくといいでしょう。
1. 総合栄養食を適量与える
犬が必要とする栄養は人間と同じではありません。そこで生まれたのが「総合栄養食」と呼ばれるごはんです。おやつなど「一般食」や「副食」と呼ばれるごはんだけ食べていると体を壊してしまいますので、「総合栄養食」のごはんを選ぶようにしましょう。
総合栄養食を食べていても与える量が少なければ痩せてしまいますし、多ければ太ってしまいます。パッケージに書かれた食事量は目安ですので、ボディ・コンディション・スコアで「3」の「理想体型」を維持できる量を与えるようにしてください。
2. 添加物の少ない新鮮なごはんを選ぶ
犬のごはんと聞いて「カリカリ」と呼ばれる茶色い豆粒を想像される方も多いと思いますが、正しくは「ドライフード」と呼ばれる加工食品です。保存しやすく食いつきも良いことから犬のごはんとして一般的になりましたが、高温加熱によって食材本来の栄養が失われ、添加物も多く含まれることから見直しが進んでいます。
そこで生まれたのが素材本来の旨味や香りが楽しめ、余計な添加物も入っていない「フレッシュフード」と呼ばれる新鮮なごはんです。
ペトコトフーズもその一つで、子犬からシニア犬(老犬)まで毎日のごはんにすることができます。もちろん総合栄養食です。
ペトコトフーズの公式HPを見る
犬のツボは健康管理に大切
ツボは、気・血・津液の流れを体表を通じて整えることができるスポットのことをいいます
ツボ押しをする部分に炎症や腫瘍、骨折などがある場合はツボ押しを控えましょう
ツボを押す際は、強すぎず弱すぎずという「程よい強さ」がポイントです
リラックス効果や病気に効くツボがあります
犬や猫も医療が発達し寿命が延びていく中で、慢性病や病気ではないものの、調子のすぐれない「未病」といわれる状態をよく見かけます。
できることなら病気にならずに長生きしたいと思うはずです。そんな時に、ご家庭で少しでも健康に寄与できる方法としてツボ押しが大いに役立つことと思います。
単に健康増進の手段としてだけでなく、愛犬と飼い主の体と心の距離が近付ける貴重な機会になるでしょう。
参考文献
- 『ペットのための鍼灸マッサージマニュアル』石野孝、小林初穂、澤村めぐみ、春木英子、相澤まな著 (医道の日本社)
- 『犬のツボ押しBOOK』石野孝、相澤まな著 (医道の日本社)
- 『犬・猫に効く指圧と漢方薬』シェリル・シュワルツ著 (世界文化社)
- 『やさしい中医学入門』関口善太著 (東洋学術出版社)