猫の結膜炎|原因・症状・治療法・予防法などを獣医師が解説
人間でもよく見られる結膜炎は、アレルギー症状のひとつとして起こります。結膜炎は猫に多く見られる眼の病気のひとつで、飼い主さんが気づきやすい症状です。では、猫の場合もアレルギーが原因で起こるのでしょうか? 今回は猫の結膜炎についてどうぶつ眼科EyeVetの吉岡がお話しします。
病名 | 結膜炎 |
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症状 | 結膜が濃いピンク色や赤色になり、腫れたり浮腫んだ状態になる。さらに、透明や茶褐色のサラサラしたタイプ、もしくは黄色や緑色のドロっとしたタイプの目やにが見られます。 |
原因 | 多くの原因が考えられますが、ほとんどの場合は猫ヘルペスウィルスや、猫カリシウィルス、猫クラミジアやマイコプラズマ感染などの感染症が原因です。 |
危険度 | 命の危険は低いですが、完治させることが難しく、再発を繰り返すため、猫の生活の質を著しく低下させてしまいます。 |
猫の結膜炎とは
結膜は眼瞼の裏側と強膜(白目)を覆っている粘膜のことをいいます。眼瞼の結膜は不透明で赤みを帯びていますが、強膜の結膜(球結膜)は半透明で無色です。この結膜に刺激が起こると、結膜の血管に鬱血が起こり、結膜が赤くなります。結膜炎とは結膜に起こる炎症のことで、いろんな動物において最も一般的にみられる眼の病気です。急性あるいは慢性で、両側性あるいは片側性に起こります。片側から始まり、症状が悪くなるにつれて両側に起こるケースもあります。
猫の結膜炎の原因
結膜炎には多くの原因があります。「外傷」「ゴミや異物」「睫毛」「眼の周りの物理的な刺激」「感染(細菌性、ウィルス性、寄生虫性など)」「アレルギー」、ドライアイやぶどう膜炎などの他の眼の病気から起こる場合、などが考えられます。
「全身に関わることから起こっているのか」「眼だけの問題で起こっているのか」を区別することが重要です。両側性では通常、感染症や全身性疾患に関連して起こることが多くみられます。それに対して、片側性の場合は異物や外傷、局所的な感染でも起こります。
上述の原因でも起こりますが、猫では猫ヘルペスウィルスや、猫カリシウィルス、猫クラミジアやマイコプラズマ感染などの感染症によるものがほとんどです。
いくつかの感染症は呼吸器症状を伴うことがあり、結膜炎は全身性疾患の症状のひとつとして、急性または慢性に見られることがあります。猫クラミジア感染症の場合、人にうつる可能性があるので濃厚な接触は避けてください。
猫の結膜炎の症状
透明や茶褐色のサラサラとして水のようなタイプ(漿液性)の分泌物、または黄色や緑色のドロっとしてベタつくタイプ(粘液膿性)の分泌物、いわゆる目やにが見られます。
そして、結膜の浮腫と充血、痛みがあると羞明(しゅうめい:不快感や眼の痛みなどを感じて、瞬きの回数が多くなったり、眼をショボショボさせること)や眼瞼痙攣、眼瞼腫脹、角膜炎などが主な症状として見られます。
また、猫クラミジア性結膜炎では結膜に濾胞形成(ろほうけいせい:水疱のような袋状の構造物が形成されている状態)が見られることがあります。
生後4週齢前後の子猫の結膜炎は母猫が感染源となり起こることがあります。開眼する前だと、分泌物が中に溜まり眼瞼が腫れるので、開眼する時期が遅れたり、角膜や結膜同士との結膜癒着が起こります。
結膜の充血と浮腫
猫の結膜炎の検査・診断方法
動物病院では、眼の検査はもちろんのこと、眼だけの問題なのか全身性の病気と関連しているのかを判断するために、問診や一般的な全身検査、血液検査などを行います。また、血液から分かる簡易キットによる院内でのウィルス検査、検査機関による詳しい感染症の抗体検査、分泌物からの細菌培養検査、結膜の細胞診などを実施して原因を特定していきます。
動物病院へ連れて行くべきかの判断基準として、猫の眼が赤くなっていたり、目やにや涙が多いと感じたり、眼の開き具合が悪いと感じたら、すぐに動物病院を受診しましょう。また、呼吸器症状を伴うことがあるので、鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの症状が見られた場合も注意が必要です。
猫の結膜炎の治療法
症状や病態によって使う薬はさまざまですが、眼の治療としては目薬が必要になります。主に抗生剤や抗ウィルス薬、インターフェロンなどのお薬が使用されます。
眼から分泌物が多く出ている場合は、眼の周りを清潔に保ってあげてください。その場合、眼の洗浄は行わず、濡れたガーゼや蒸しタオルなどで分泌物を優しく拭き取ってください。
全身性の原因が特定できた場合は、それに対する全身的な治療を実施していきます。適切な治療により、通常は3週間ぐらいすると結膜炎の症状は徐々に改善していきます。
点眼の方法
点眼をする際には、猫の正面からではなく、背後から抱くような形で行うと上手くいきます。片方の手で猫の顎を持ち、必ず上を向かせます。もう片方の手で点眼薬を持ちながら上まぶたを引き上げて、点眼薬の容器の先端が眼やまぶたに触れないように気をつけながら、滴下します。1回の点眼は1滴で十分です。
数滴さしても、眼の中に浸透していく量は限られているため、多くは溢れてしまいます。点眼が上手にできた後は、頑張ったことをよく褒めてあげましょう。
目のケア
分泌物(目やに)が出ているときは、こまめに拭き取り眼の周りを清潔に保ちましょう。乾燥したタイプの目分泌物を取るときには、濡れたガーゼやコットンなどで固まった分泌物をふやかしてから優しく拭くと簡単にきれいに取ることができます。
ご自宅でのケアが難しい時には、動物病院でケアをお願いしましょう。また、眼を洗浄してしまうと、かえって分泌物が増えたり眼の病気が悪化することがあるので、必ず獣医師の指示に従ってください。
治療で点眼薬を使用する際は、できるだけ分泌物を取った後に点眼することをお勧めします。痒みの原因になることがあるので、点眼後は余分な液剤がまぶたに残らないように拭きとりましょう。
目の周りを清潔に保つために、こんな商品もあります。これは滅菌された蒸留水にコットンを浸してあるタイプで、眼の中に液剤が入ってしまっても安心して使用することができます。
市販品の中には眼やまぶたの皮膚に刺激となる成分が含まれていることがあるので、使用する際はお気をつけください。
猫の結膜炎の予後
動物病院で処方された内服薬や目薬などが獣医師の指示通りに問題なく服用および点眼することができ、本人の健康状態が良好であれば、通常の結膜炎の症状は改善します。結膜炎の原因が全身性疾患に関連している場合は、原因疾患の治療が必要になり、原因疾患が改善すれば眼の状態も落ち着きます。
また、症状が良くなったのにしばらくするとまた結膜炎が起こる、定期的に再発を繰り返す場合があります。そのような結膜炎の時は、猫ヘルペスウィルスが原因である可能性が考えられます。
猫の80%が猫ヘルペスウィルスのキャリアといわれています。猫ヘルペスウィルスは神経に潜伏し、免疫力の低下や生活のストレスなどによる体調の変化が生じると、片側または両側の結膜や角膜に症状を現します。
そのため、一度症状が改善しても完治させることが難しく、再発を繰り返すことが知られています。再発を防ぐためには、環境の変化やストレス回避などが重要です。
猫の結膜炎の予防法
感染症予防や免疫力を高めるために、定期的な予防接種をお勧めします。そして、猫ヘルペスウィルスに関しては、「ラクトフェリン」や「L−リジン」といったサプリメントが有効とされています。
猫の結膜炎の多くは猫のヘルペスウィルスの関与が考えられています。L−リジンはアミノ酸で猫ヘルペスウィルスの活動を阻害することで、症状の軽減と予防効果があると報告されています。現在では、錠剤や散剤などのタイプがいくつかあり、猫ヘルペスウィルスの治療として用いられています。
猫の体からウィルスを除去することはできませんが、ウィルスの活性をコントロールすることで再発を防いだり、症状を軽減することができます。
そのためには、毎日サプリメントとして継続することが大事で、その結果、健康な猫と同じように生活することができます。
飼い主さんにお願いしたいことは、これらを猫に無理やり与えるのではなく、ご飯に混ぜて与えるなどして、自然に摂取できるような方法を見つけていただくことです。
猫の結膜炎は日々の体調管理や感染予防を
猫の結膜炎は感染症によるものが多いため、日々の体調管理や感染症予防は重要です。症状が出てしまっても、適切な治療や投薬ができれば、結膜炎は治る病態です。しかし、眼に違和感を感じていても、猫は自分で病院に行くことができません。そして、猫は病院が苦手なことが多いでので、飼い主さんがご自宅で様子を見ているうちに症状が悪化してしまうことがあります。
いつもと違う様子や、気になることがある場合は早めに動物病院を受診しましょう。