猫が突然死(急死)してしまったときに考えられる原因を獣医師が解説
人でも、猫でも突然死を起こすことはあります。眠るように寿命を全うしてほしいのは飼い主さんにとって当たり前ですが、もしも、突然あるいは急に愛猫が死亡したとすれば、ガンや心臓病などの慢性疾患による死亡と比べ、さらに強い悲しみを感じてしまうでしょう。今回は、猫が突然死する原因やその予防について、野坂獣医科院長の野坂が解説します。
「突然死」と「急死」の違い
突然死とは瞬間死あるいは発病後24時間以内の内因死のこと(WHO の定義)をいいます。これには、交通事故、中毒や外傷などの外因死は含まれません。
似たような言葉に「急死」という言葉があります。これは直前が健康かどうかは考慮せずに、急変し死亡したことをいいます。この場合、事故や中毒も含みます。
すなわち、急死という言葉の中に、突然死という言葉が含まれます。この記事では「突然死(急死)」として、突然死と急死を合わせ、書きたいと思います。
猫の突然死の考えられる原因
まず、人の突然死の原因で一番多いのは、心臓病で全体の6割を占めます。その他の原因には「脳血管障害」「消化器疾患」などがあります。
では、猫の突然死の原因には何があるのでしょうか? カナダの中央部サスカチュワン州の獣医大学のOlsenらが、突然および不測の死(sudden and unexpected death)の原因を調べた論文があります。
これは日本の論文ではないので、少し異なるかもしれません。その論文によると、猫の突然死は「外傷」が最も多い原因でした。そして「心臓病」が次に多い原因でした。以下に、Olsenらの論文で報告された突然死の原因を発生率が多い順に示します。
- 外傷
- 心臓病
- 腸疾患
- 呼吸器疾患
- 尿路疾患
- 猫白血病ウイルス感染症
- 髄膜脳炎
- 肝壊死
- 敗血症
- 外傷を伴わない出血
国内の突然死の原因を調査した論文を探したところ、見つけることはできませんでした。
猫の突然死の前兆など飼い主さんが異変に気づくためには
突然死しないように前兆症状を見逃さないことも大切です。猫は不調を隠す動物といわれています。つまり、強い痛みがある場合でも、人間のように泣き叫んだり、呻いたりしません。痛みに耐え、じっとして、動かなくなります。猫は健康な時でも寝ている時間が長いため、病気になって動けなくなっても気づいてあげられないかもしれません。飼い主さんは、日ごろから猫の様子に気を配り、さらに食欲や飲水量、排泄に注意しましょう。
猫の突然死の原因の調べ方
残念ながら突然死してしまい、原因を知りたい場合は、死亡後に検査を行なうことになります。死亡後に血液検査やレントゲン検査、CT検査などを行うこともありますが、死後の検査の中でもっとも詳しく検査が出来るものは、剖検です。
剖検とは、いわゆる解剖して調べることをいいます。多くの動物病院では解剖を行うことは少なく、大学や検査所などで剖検は行われます。剖検は、死亡した猫のご家族の承諾が必要となることが多く、また、輸送のための費用や検査のための料金が必要となります。
ペットロスという言葉もありますし、また愛猫の死に直面した直後に剖検を承諾することは、とても勇気のいることだと思います。しかし、検査をすることによって、死亡時の病態の把握や、死因の究明などを行うことができます。
その方法は、死体を解剖し、目視で臓器の異常を確認した後、臓器の一部を採材し、病理標本を作製します。できあがった標本は、顕微鏡で臓器の異常が検査されます。また、解剖の途中で細菌検査や血液検査を行うために検体を採取し、追加検査を行うこともあります。
ペットロスについて
ペットロスの定義は十分にされていないそうで、「飼育動物の喪失体験」と定義する考え方があります。猫は言葉を話せませんので、人と愛猫の間で言葉を交わすことはできません。そのため、言葉以外の心のコミュニケーションが生まれ、それが深い絆で結ばれていくと考えられています。また、その深さゆえに、愛猫を亡くした時の心の悲しみや喪失感が強く現れるのだと考えられています。
命あるものには必ず死が訪れます。
愛猫が突然死を迎えないように、予防できることは予防していきましょう。次に予防方法を紹介します。
猫の突然死の予防方法
飼い主さんは、日ごろから猫の様子に気を配り、さらに食欲や飲水量、排泄に注意しましょう。嘔吐や下痢をした場合でも見落とさないように観察してみましょう。
「痙攣をしているかもしれない」「尿が出なくなっているかもしれない」と感じたり、判断に迷ったりした場合、動物病院で診察してもらいましょう。
さらに、定期的に動物病院で健康診断を受け、愛猫の健康状態の変化を知っておくことも大切です。
日頃からスキンシップを
もしも、突然あるいは急に愛猫が死亡したとすれば、ガンや慢性疾患による死亡と比べ、愛猫の死に直面した悲しさよりも、さらに強い悲しみを感じてしまうでしょう。ペットたちは体の不調を言葉で伝えることができません。また、猫は不調を隠す動物といわれています。言葉の話せない愛猫と少しでも長く楽しい時間を過ごすためには、飼い主さんがいち早く愛猫の異変に気づいてあげることが必要です。
愛猫との遊びや散歩、食事のときなどに触れ合う時間を大切にしたり、日頃から観察することを意識してあげましょう。
参考文献
- 木村, ペットロスに伴う悲嘆反応とその支援のあり方,心身医学 49(5), 357-362, 2009
- Olsenら, Causes of sudden and unexpected death in cats: a 10-year retrospective study, Can Vet J. 2001 Jan;42(1):61-2.
- 早崎,猫の犬糸状虫症の臨床,獣医畜産新報,50,330-333(1997)