猫のおしりが臭い場合の原因や病気を獣医師が解説 膀胱炎や癌の可能性も

猫のおしりが臭い場合の原因や病気を獣医師が解説 膀胱炎や癌の可能性も

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皆さんは家の猫さんがウンチをしたあと、おしりを引きずって歩いているところを見たことがありませんか? 見た目もひょうきんで可愛らしいのですが、実は病気のサインである可能性もあります。またおしりにはいろいろな臓器の開口部分があるため、さまざまな病気の症状がおしりに関連して起きることがあります。今回は猫のおしりと、おしり周りの病気・対処法について、獣医師の福地が解説します。

猫のおしりとは

猫

猫のおしりは排便を行う肛門、尿道、メスでは膣だけでなくウンチを出す肛門の横に肛門嚢という袋状の腺があります。これは猫だけでなく犬にもある構造で、ここから出す分泌物がナワバリを示すのに役立っているといわれています。家畜化された後も、祖先の名残で残っているものです。肛門をちょうど時計の中心に見立てると、4時と8時方向にこの左右の肛門嚢腺が開口しています。ウンチをする時にいきみ、筋肉とウンチの圧力によって溜まっていた分泌物が外に排出され、通常は溜まり過ぎないない仕組みになっています。

メスでは肛門や肛門嚢腺の近くに陰部も開口しているため、この3つの器官のどれかに異常があった場合は猫さんが同じような場所を気にします。家ではなかなか区別がつきにくいかもしれません。おしり周囲の異常としては、主に以下のような症状がみられます。

  • おしりから出血しているように見える。
  • おしりから悪臭のする液体が出ている。
  • 背中やおしりのあたりを触ると痛がって怒る。
  • うんちをした後や、何でもない時もお尻を引きずって歩く。
  • 肛門の横が左右対称/非対称に腫れている。

猫のおしりが臭いときに考えられる病気や原因

猫のお尻

肛門嚢腺は強い臭いの液体を出しますが、通常はウンチとともに排出されるため溜まり過ぎることはありません。しかし、分泌液の通る部分が感染などの理由で詰まってしまうと溜まり過ぎ、破裂してしまうことがあります。破裂した際は細菌感染して膿の混じった悪臭のある液体が出るので、「おしりが臭い」といって来院される飼い主さんもみられます。

他にも病気の治療中でおしりを舐められないようエリザベスカラーをつけていたり、ヒマラヤンのような長毛種、毛づくろいの興味が薄くなってきた高齢猫、肥満猫では舌が届かなかったりグルーミングが十分にできていないことがあります。それによっておしりに毛玉ができ、汚れが溜まって臭くなることもあります。毛玉は大きくなると歩きにくくなってしまう原因にもなるので、長毛種を飼っている飼い主さんは自宅でカットできるようになるとよいですね。

また、下痢や子宮蓄膿症でもおしりの周りの毛に汚れが絡んで悪臭を発することがあります。

猫のおしりから液体が出ている場合に考えられる病気や原因

猫

猫さんのおしりから液体が出ている場合は、主に「肛門腺の破裂」「子宮蓄膿症」「膀胱炎」「肛門嚢腺癌」が考えられます。

肛門腺の破裂

肛門は細菌が多いため、常に感染しやすい状況になっています。細菌感染が起きると肛門嚢の分泌液が増加し、溜まり過ぎて破裂してしまうことがあります。これが「肛門嚢炎」と呼ばれる状態です。皮膚ごと裂けるので臭いのある膿と出血がみられ、猫さんも痛がるので破裂した段階で気づく飼い主さんが多い病気でもあります。「おしりが濡れている」「出血している」「臭い」「痛がって怒る」という主訴が多いです。

見た目は派手ですが、すでに膿が排出されている分、単純な感染によるものであれば舐めるのを防止するためのエリザベスカラーと抗生剤、消炎鎮痛剤を使用することで比較的早く綺麗に治ります。逆に破裂しないタイプの肛門嚢は、血流が乏しく抗生剤が届きにくい部分というのもあって治療が数カ月単位に及んだり、外科手術で切除が必要なこともあります。いずれも治療後は定期的な肛門腺絞りをおすすめしています。

子宮蓄膿症

子宮蓄膿症は、子宮内で細菌感染が起こり膿が溜まってしまう病気です。敗血症など、命に関わる状態に進行することが多い重要な病気です。猫では犬とは異なり若い年齢で発症することが多いとされています。膣から膿が垂れてくるタイプはお尻から何か出ていることで気づくパターンもあります。

膀胱炎

膀胱に細菌が感染した時や尿結石がある時、猫では特発性膀胱炎といって細菌感染がなくても膀胱炎を発症することがあります。おしっこするのが痛いのでおしりを気にして舐めたり、痛がって鳴いたり頻尿がみられます。


肛門嚢腺癌

肛門嚢腺癌は犬で多く、猫ではまれとされていますが、肛門嚢自体が腫瘍化することもあります。出血、膿の分泌など肛門嚢炎や肛門嚢膿瘍と似た症状を出しますが、診断には病理組織検査という特殊な検査が必要になります。犬では肛門の近くに肛門周囲腺という腺があり、そこが腫瘍化しても肛門を舐めるといった行動がみられますが、猫には肛門周囲腺はありません。

猫のおしりに異常がある際の対処法

猫のお尻

汚れて臭い場合と肛門腺が溜まっている場合の対処法を説明します。

汚れて臭い場合

汚れがついたままだと皮膚炎の原因にもなりますので、汚れは綺麗にしてあげましょう。

まずは肛門嚢腺炎がないかの確認をします。長毛で汚れが毛に絡んでいる時は、毛玉をといたあとにバリカンなどで刈ると綺麗に短く仕上がります。皮膚に付いている時はお湯やペット、赤ちゃん用のおしり拭きで拭いてあげてください。

肛門腺が溜まっている場合

問題がない子では肛門腺の分泌物が排便とともに自然に排出されますが、おしりを引きずる様子がみられる時は自宅でチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

飼い主さんが家で肛門絞りをする際は、猫さんが嫌がると思うので支えてもらう人がいるとよいかと思います。肛門の中心を時計の中心に見立て、だいたいでよいので4時と8時方向の部分を下から持ち上げるように絞ります。うまくいくとニュルっと黒っぽい臭いのある液体が出てきます。ティッシュ越しに絞ると良いでしょう。力を入れないと出ないので、猫さんが嫌がって逃げることもしばしばあります。うまくできない時は無理をせず、病院でやってもらうとよいでしょう。

猫のおしりのトラブルは意外と多い

猫

猫さんのおしり周辺のトラブルは意外に多く、おしりを舐める、臭いがあるというだけでもさまざまな病気が考えられます。おしりは体の内部にとって外界に近い場所で、排便排尿を行なっているため感染を受けやすい環境にあります。長毛種の飼い主さんは毛玉ができないように全身のブラッシングを日頃のコミュニケーションとして取り入れたり、定期的にバリカンなどでカットできるようになると安心です。

引用文献


第2稿:2018年10月30日 公開
初稿:2016年7月14日 公開

トレッタ