犬のヘルニア|種類や原因、症状、治療法、予防法を獣医師が解説
犬のヘルニアは椎間板ヘルニア、臍(さい)ヘルニア、鼠径(そけい)ヘルニア、会陰(えいん)ヘルニアなどがあり、本来の位置から臓器などが脱出することで起こります。ヘルニアの種類や原因、症状、治療法と予防法を獣医師の佐藤が解説します。
犬のヘルニアの種類
ヘルニアとは、体内にあるべき臓器や脂肪組織が本来の位置から脱出してしまった状態を指します。脱出と言っても「本来あるべき場所から出てしまうこと」を指すため、必ずしも体の外に出てしまうわけではありません。体内で起こる脱出のイメージ
ヘルニアは脱出した場所によって以下のように呼び方が異なります。
病名 | 脱出した場所 | |
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1. 臍(さい・へそ)ヘルニア | おへそ | 関連記事 |
2. 鼠径(そけい)ヘルニア> | 足の付け根 | 関連記事 |
3. 椎間板(ついかんばん)ヘルニア | 椎間板 | 関連記事 |
4. 会陰(えいん)ヘルニア | 肛門 | 関連記事 |
5. 大腿(だいたい)ヘルニア | 足の付け根 | |
6. 食道裂孔(れっこう)ヘルニア | 横隔膜 |
脱出した臓器は押して元の場所に戻せることもありますが、「嵌頓(かんとん)ヘルニア」と言って戻らない場合もあります。締め付けられた状態が続くと組織が壊死し、放置すると死に至るため緊急手術が必要です。
嵌頓ヘルニア
それぞれのヘルニアについて解説します。
1. 犬の臍ヘルニアの原因と症状
臍ヘルニアは、犬の赤ちゃんのおへその周り(臍帯輪︰さいたいりん)の内側(腹膜)に穴が空き、臓器や脂肪組織が脱出してしまった状態を指します。多くは遺伝性です。症状として、おへその周りに膨らみやこぶのようなものが見られます。通常、犬に痛みはありませんが、脱出した組織が締め付けられて血流が阻害される「嵌頓(かんとん)ヘルニア」に進行すると痛みを感じる可能性があります。多くは成長とともに自然治癒しますが、嵌頓ヘルニアが疑われる場合は早期に治療が必要です。
犬の臍ヘルニアについて、詳しくは以下の関連記事を参考にしてください。
2. 犬の鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアは、犬の足の付け根部分(鼠径部)にある筋肉や靱帯の弱い部分から、腸や脂肪組織が脱出することで発生します。原因として遺伝性もありますが、加齢や肥満、過度の運動や外傷でも生じます。症状として、足の付け根に膨らみやこぶが見られることが一般的です。腸が脱出し閉塞を起こすと嘔吐や食欲不振、腹痛、便秘や下痢などの消化器症状が現れます。睾丸、膀胱、前立腺、子宮などの臓器が脱出した場合、排尿困難、腹部膨満、性腺の変化などの症状が出ることがあります。
犬の鼠径ヘルニアについて、詳しくは以下の関連記事を参考にしてください。
3. 犬の椎間板ヘルニアの原因と症状
椎間板ヘルニアは犬の脊椎(せきつい)の椎骨(ついこつ)の間にある「椎間板」が飛び出し、脊椎を圧迫することで痛みや麻痺など神経症状が生じる疾患です。主な原因と症状は以下の通りです。原因 | 1. 遺伝的︰一部の犬種(特にダックスフンドやコーギーなどの胴長短足犬種)は、遺伝的に椎間板ヘルニアを発症しやすい傾向があります。 |
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2. 加齢︰犬が年を取ると椎間板の構造が変化し、ヘルニアのリスクが高まります。 | |
3. 肥満︰体重過多は脊椎に余計な負担をかけ、椎間板ヘルニアの発症リスクを上げます。 | |
症状 | 1. 痛み︰脊椎が圧迫されることで痛みを感じる場合があります。 |
2. 歩行障害︰圧迫された神経により歩行時に足を引きずったり動かなくなるなどの症状が見られます。 | |
3. 麻痺︰重度の椎間板ヘルニアでは足に麻痺が生じることがあります。 | |
4. 排尿・排便障害︰脊髄の圧迫が原因で排尿や排便のコントロールができなくなることがあります。 |
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4. 犬の会陰ヘルニアの原因と症状
会陰ヘルニアは、犬の肛門周囲の筋肉のすき間から脂肪組織や腸などの臓器が脱出してしまう状態です。原因として筋肉の問題(遺伝、加齢による筋肉の衰え)や外傷が挙げられ、未去勢の成犬やシニア犬(老犬)に多く見られます。症状として、肛門周辺に膨らみやしこりが見られます。押すことで元の位置に戻る場合もありますが、強く押すと痛みを引き起こすことがあるため注意が必要です。初期症状として排便障害が見られることがあります。脱出した臓器が締め付けられ、組織の壊死が起こると緊急手術が必要になります。
犬の会陰ヘルニアについて、詳しくは以下の関連記事も参考にしてください。
5. 犬の大腿ヘルニアの原因と症状
大腿ヘルニアは犬ではまれですが、太もも付近の筋肉や靭帯にできたすき間から腸や脂肪などの臓器が脱出した状態です。原因として加齢による筋肉の衰えや過度な運動、外傷、遺伝が挙げられます。症状は股関節付近で起こる鼠径ヘルニアと異なり歩行障害や痛みが特徴的で、歩く際に不自然な姿勢を取ることがあります。痛みや不快感から犬が自分の太ももを舐めたり、触られるのを嫌がることもあります。
6. 犬の食道裂孔ヘルニアの原因と症状
食道裂孔ヘルニアは肺と胃を隔てる横隔膜のすき間から肝臓や腸などの臓器が脱出してしまった状態です。犬ではまれです。原因は遺伝や肥満、過度の運動、外傷などが考えられます。症状は胃の内容物が食道に逆流することで起こる逆流性食道炎が典型的で、嘔吐や唾液の過剰分泌、体重減少、食欲不振などが見られます。重症化すると、呼吸困難や心臓の合併症が起こる場合もあります。
犬のヘルニアの治療法
ヘルニアは種類によっては自然治癒する場合もありますが、問題のある症状が出ている場合は内科治療や外科治療を行います。
ヘルニアの内科治療
ヘルニアの種類によります。椎間板ヘルニアでは、手術を行わずに症状を緩和する内科治療で「抗炎症薬および鎮痛剤の投与」「食事や運動の見直しによる体重管理」「サポート器具の使用」が挙げられます。症状が改善しない場合は外科治療を検討します。その他のヘルニアは、外科治療により改善しますヘルニアの外科治療
脱出した臓器を元の位置に戻し、穴をふさぐことがヘルニアの基本的な外科治療です。会陰ヘルニアでは、再発のリスクがある場合、人工的なメッシュを使用してふさいだ穴を補強することもあります。その他、椎間板ヘルニアでは椎間板の圧迫を取り除く手術を行います。会陰ヘルニアでは骨盤の形状を修正する手術も行われることがあります。食道裂孔ヘルニアでは胃を固定する手術(胃底縫合術)が行われることもあります。
犬のヘルニアの予防法
ヘルニアの原因は先天性と後天性に分けられ遺伝が関係する先天性に予防法はありませんが、後天性の椎間板ヘルニアでは「適切な食事と運動」や「定期的な健康診断」によって発症リスクを下げることが可能です。
適切な食事と運動
犬の体重を管理し、体型を維持することがヘルニア予防につながります。食事は総合栄養食の中から新鮮な食材を使った添加物の少ないごはんを選ぶといいでしょう。ドライフードより水分摂取にもつながるウェットフードがお薦めですが、特にペトコトフーズのようなフレッシュフードが理想的です。肥満はリスクを高めるため、食事量にも注意してください。
適度な運動によって体型を維持し、関節の柔軟性を高めることでヘルニアのリスクを低減できます。ただし、犬の年齢や体重、体力に応じた運動量と強度にしてください。無理な運動はヘルニアのリスクを高める可能性があります。
定期的な健康チェック
犬のヘルニア予防には、定期的な健康チェックが重要です。動物病院でも健康診断やワクチン接種の際に見つけることができますが、日常的に飼い主さんが愛犬の体を触って異常がないか確かめることが重要です。特にヘルニアが発生しやすい部位(腹部、足の付け根、肛門周辺など)にしこりやこぶがないか確認しましょう。まとめ
犬のヘルニアは臍、鼠径、椎間板、会陰が多い
先天性のほか肥満が原因になることも
日頃から愛犬を触ることが早期発見につながる