犬のマイボーム腺腫(腺炎)|原因や放置するリスク、手術費用について獣医師が解説
犬のマイボーム腺腫はシニア犬(老犬)でよく見られる眼瞼腫瘍の一つで、良性であることがほとんどです。自然に取れることもありますが、まれに悪性腫瘍の場合もありますので放置せずに動物病院で診てもらう必要があります。マイボーム腺炎も含めて原因や手術費用、再発リスクなどを獣医師の佐藤が解説します。
犬のマイボーム腺腫(腺炎)とは
マイボーム腺とはまぶたに複数ある器官で、目の表面を覆う油分を分泌することで涙の蒸発を防いでいます。このマイボーム腺が腫瘍化してできたイボのような突起物のことをマイボーム腺腫と呼び、マイボーム腺が炎症を起こした状態のことをマイボーム腺炎(ものもらい)と呼びます。
マイボーム腺炎は原因によって霰粒腫(さんりゅうしゅ)と麦粒腫(ばくりゅうしゅ)に分かれ、霰粒腫がマイボーム腺の閉塞によって起きる炎症で、麦粒腫が細菌感染によって起きる炎症です。一般的に目の周りにできた炎症は「ものもらい」と呼ばれますが、厳密にはものもらいは麦粒腫のことを指します。
マイボーム腺炎は犬種や年齢に限らずどの犬でも起こりますが、マイボーム腺腫は眼瞼腫瘍の一つで、シニア犬(老犬)の老化現象としてよく見られます。マイボーム腺腫のほとんどは良性で特に治療を行わなくても自然に消えてしまいます。
犬のマイボーム腺腫(腺炎)の症状
マイボーム腺炎ではまぶたの縁(ふち)が赤く腫れ上がり、目を開けづらそうにしたり、涙目になったり目やにが多く見られたりします。犬にとって視界の悪さ、異物感、痒みなどがあり、目を足で掻いたり床などにこすり付けたりして二次感染が起こり、結膜炎や角膜炎を併発する場合もあります。
マイボーム腺腫はまぶたの外側にでき、視界をさえぎらなければ特に問題になりません。まぶたの内側にできると眼球に当たり続けることで角膜炎を起こすことがあります。マイボーム腺炎と同様に視界の悪さ、異物感につながれば犬のストレスになり、目を足で掻いたり床などにこすり付けたりして二次感染が起こります。
犬のマイボーム腺腫(腺炎)の原因
マイボーム腺炎は麦粒腫であれば急性の細菌感染、霰粒腫であれば慢性的なマイボーム腺の閉塞によって生じます。マイボーム腺が閉塞すると油分が溜まって炎症を起こします。
目にできるイボは、非常にまれですが皮脂腺癌や肥満細胞腫、メラノーマ(悪性黒色腫)、扁平上皮癌の可能性もあります。見た目だけで良性か悪性かを判断することはできませんので、放置せずに獣医師に相談するようにしてください。悪性腫瘍で進行してしまうと眼球摘出が必要になる可能性もあります。
犬のマイボーム腺腫(腺炎)の治療
同じマイボーム腺炎でも麦粒腫と霰粒腫では原因が異なるため、治療方法も異なります。飼い主さんが市販されている目薬で治そうとしても、見立てが間違っていれば治療が遅れて治りが悪くなる場合もあります。必ず動物病院で検査を受けるようにしてください。
麦粒腫は細菌感染が原因で起こるため、目薬として抗生物質を投与することですぐに良くなります。霰粒腫の場合は慢性的なマイボーム腺の閉塞が原因ですので、腫れている部分を切開して滞留している油分を取り除かなければいけません。まぶたを温めることで詰まりを解消できる場合もあります。
マイボーム腺腫はほとんどが良性で自然と消えてしまいますが、まぶたの内側などできた場所が悪かったり大きくなったりすると犬が嫌がって掻いてしまい二次感染(結膜炎や角膜炎など)につながりますので切除手術を行います。悪性腫瘍が疑われる場合は組織診をして確定診断を行います。
マイボーム腺腫の手術
切除手術は切開かレーザーで行います。おとなしい子ですぐに切除できてしまう場合は麻酔を使わなかったり点眼麻酔にとどめる場合もありますが、基本的には全身麻酔で手術を行います。取れた腫瘍は病理組織検査を行って良性か悪性かを正確に診断します。手術費用は病院によって異なりますが、検査から術後の目薬まで含めて5〜15万円が目安になります。
犬のマイボーム腺腫の予後
マイボーム腺腫は再発することが多く、切除手術を行う場合は取り残しのないように慎重に行います。マイボーム腺腫自体は良性であることがほとんどですので、二次感染などが起きなければ予後は良好です。まとめ
マイボーム腺腫はシニア犬に多い良性の眼瞼腫瘍
マイボーム腺炎は麦粒腫と霰粒腫に区別される
まれに悪性腫瘍の場合もあるため放置するのはNG
再発も多いため早期に適切な治療を行うことが大切