犬の肥満細胞腫|症状・原因・グレード別の余命・生存率などを腫瘍科認定医獣医師が解説
中央アニマルクリニックの獣医師で日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医(1種)の井上です。がん(腫瘍)は犬の死因で1位の疾患ですが、皮膚がんの中でも多いのが肥満細胞腫です。グレードは1〜3まであり、グレード3になると局所の増大や転移が早く、余命は短い傾向にあります。今回は犬の肥満細胞腫について、中央アニマルクリニックの獣医師で日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医(1種)の井上が症状や原因、治療法などを解説します。
犬の肥満細胞腫とは
肥満細胞腫は皮膚がんで一番多く認められるもので、犬では皮膚腫瘍全体の16〜21%、猫ではリンパ腫について2番目に多く20%ほどとなっています。四国動物医療センターなどの調査によると、全国の1次診療初診(犬:1万9870匹、猫:6008匹)で悪性腫瘍が認められた症例のうち、犬で最も多かったのが「肥満細胞腫(15.5%)」で、「リンパ腫(14.6%)」「悪性黒色腫(7.7%)」「悪性乳腺腫瘍(6.0%)」「扁平上皮癌(5.2%)」と続きます。
ちなみに猫の場合は、認められた症例数としては肥満細胞腫がリンパ腫に続いて2番目に多かったものの、そのほとんどは良性の「皮膚肥満細胞腫」でした。
例(%) | 例(%) | |||
---|---|---|---|---|
悪性腫瘍 | 肥満細胞腫 | 54(15.5) | リンパ腫 | 44(44.4) |
リンパ腫 | 51(14.6) | 悪性乳腺腫瘍 | 11(11.1) | |
悪性黒色腫 | 27(7.7) | 扁平上皮癌 | 9(9.0) | |
悪性乳腺腫瘍 | 21(6.0) | 骨肉腫 | 6(6.1) | |
扁平上皮癌 | 18(5.2) | |||
良性腫瘍 | 良性乳腺腫瘍 | 80(19.7) | 皮膚肥満細胞腫 | 18(41.9) |
脂肪腫 | 60(14.8) | 毛芽腫 | 7(7.1) | |
皮膚組織球腫 | 18(4.4) | 耳垢腺腫 | 2(4.7) | |
肛門周囲腺腫 | 14(3.4) | |||
毛包上皮腫 | 8(2.0) |
肥満細胞腫にかかりやすい犬種・年代
犬種別の発生率を見ると、高いのがボクサー、ボストンテリア、ラブラドールレトリーバー、ビーグル、シュナウザーと言われています。パグなどの短頭種犬では、比較的悪性度の低い多発生肥満細胞種が認められます。犬の平均発症年齢は9歳で、3週齢〜19歳までの報告があります。
何が原因で肥満細胞種が発生するのかまだはっきりしていないところが多いのですが、まれな要因として、「慢性炎症」や「皮膚刺激性物質の塗布」と関連しているのではないかと言われています。
犬の肥満細胞腫の生存率
肥満細胞腫の悪性度(グレード)を決定するには病理組織検査が必要になり、その結果によってある程度の予後が推測できますす。グレードは1〜3まであり、グレード別での初期症状はありません。グレード1は予後が比較的長期間望め、グレード3になると局所の増大や転移が早く予後は短い傾向にあります。1984年に発表された肥満細胞腫の生存期間を示した論文(Patnaikのグレード分類)によると、各グレードで48カ月生存する確率は、
- グレード1:83%
- グレード2:44%
- グレード3:6%
と報告されています。この他に2011年に発表された論文(Kiupelの2段階分類)では、HighグレードとLowグレードに分けられ、Lowグレードの生存期間は長く2年以上とされており、Highグレードは短く4カ月以下と報告されています。
犬の肥満細胞腫の症状・原因
犬の場合、皮膚の肥満細胞腫は大部分は孤立性の結節病変で、11〜14%で多発性を示すと言われています。腫瘍の形はグレードにもより、グレードの低いものは比較的ゆっくりと増大していき弾力性があります。グレードの高いものは急速に増大していき潰瘍化して出血などを引き起こします。皮膚の肥満細胞種は真皮や皮下組織に発生し、細胞質内にヒスタミンやヘパリンなどの生理活性物質を含むため、まわりの組織に炎症や浮腫を起こします。
胴体によく見られ、手足にも25%ぐらいの確率で認められます。他に発生する部位としては眼の結膜、唾液腺、鼻咽頭、喉頭、口腔、胃腸、尿管、脊椎があります。転移の多くが領域リンパ節、肝臓、脾臓です。
犬の肥満細胞腫の予防法
予防法は特にありません。犬の肥満細胞腫の検査・診断方法
診断の多くは細針吸引細胞診断(細い針を刺して注射器で吸引し、顕微鏡で検査する方法)が行われます。グレードが高いと細胞質内顆粒が乏しいものもあるため、組織検査が必要になる場合もあります。局所の腫瘍だけで判断せず、近くのリンパ節が腫れていたら細針吸引細胞診断検査を行ってリンパ節に肥満細胞が広がっていないかの確認や、レントゲン・超音波による画像診断検査で遠隔転移がないかの確認をする必要があります。そして血液検査をして全身状態を把握することが治療する面でも非常に重要です。