犬の口唇炎|症状や原因、治療法を獣医師が解説

犬の口唇炎|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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口唇炎は犬の唇に炎症が起こる病気です。細菌感染やアレルギーなどが原因となり、痛みや痒みを伴うため犬が自分で掻いてなかなか治らないケースもあります。似た病気で口の横に自然治癒しやすいピンクのできものができる乳頭腫や黒いできものができる悪性腫瘍などもあります。今回は、口唇炎で考えられる原因や対処法について、獣医師の佐藤が解説します。

犬の口唇炎とは

トイプードル

犬の唇に炎症が起こる病気を「口唇炎」(こうしんえん)と呼びます。炎症が口の中で起きれば「口内炎」、歯肉で起きれば「歯肉炎」と呼びます。口唇炎は犬ではよく見られ、細菌感染やアレルギーなどが原因になります。

炎症の種類

あごの炎症には「ざそう(ざ瘡)」「せつ(癤)」「よう(癰)」という3つの種類があり、犬では「ざ瘡」「せつ」が多く見られます。

  • ざそう(ざ瘡):毛穴がポツポツと腫れている状態。いわゆる「にきび」
  • せつ(癤):ざそうが悪化して膿が溜まった状態(膿庖)。いわゆる「おでき」
  • よう(癰):せつが悪化して複数の毛穴がまとまって腫れ上がった状態。
口唇炎は痛みや痒みを伴うため、犬が自分の足で掻いてなかなか治らなかったり、余計に悪化したりすることが少なくありません。

口唇炎で見られる症状

犬は口唇炎になると炎症によって上唇や下唇、また行動にも以下のような変化が見られます。
       
唇の変化 腫れ
赤み
出血(膿庖が破れる、唇が切れる)
脱毛
悪臭
行動の変化 よだれを垂らす
口の周りを掻く(こする)
口の周りを触られるのを嫌がる
食欲不振
ごはんをうまく食べられない

犬の口唇炎の原因と治療法

ミニチュアシュナウザー

口唇炎の原因は大きく「感染症」「アレルギー」「不正咬合」の3つに分けることができます。痛みや痒みを伴う状態は犬にとってストレスで生活の質を下げるため、早めに動物病院へ行って治療を始めるようにしてください。他にも好酸球性肉芽腫や遺伝的要因(解剖学的理由)により起こることもわかっています。

感染症

犬の口の周りは皮膚が薄いため傷ができやすく、細菌やウイルスが入り込むことで炎症が起こります。傷ができる原因として家具にぶつけたり、散歩中に木の枝やトゲで切れたりするケースが考えられますし、乾燥によって切れることもあります。

細菌が入り込む原因として接触性の口内炎など、口腔内の細菌が関与しているケースも見受けられます。治療は傷口を綺麗にして乾かさないようにワセリンを塗り、化膿している場合は抗生物質を投与します。

菌や寄生虫によって炎症が起こる場合もあります。真菌では皮膚糸状菌やマラセチア、寄生虫では疥癬(ヒゼンダニ)や毛包虫などが原因になります。治療は原因ごとにシャンプー療法や駆虫薬の投与などを行います。


アレルギー

アレルギーの場合は「接触性」と「食事性」「環境」に分けられます。接触性では植物やシャンプー剤などの化学薬品や食器に触れることで発症しますので、原因物質を取り除くことで改善します。食事性では普段のごはんにアレルギー物質が含まれていることが原因で口唇炎が起きている可能性があります。環境は環境中のアレルゲン、いわゆるアトピーが原因で起こることも知られています

症状が出ている場合や予防したい場合はアレルギー検査をお勧めしますが、検査で陽性が出たからといってあれもこれも食べさせないというのは食の選択肢を狭めることになりますのでやめましょう。原因食材の特定は「除去食試験」で行われます

除去食試験は時間と労力がかかりますので、症状が軽ければ疑わしい食材が含まれないごはんに変えて様子を見てみるのもいいでしょう。タンパク質がアレルゲンになりますので、原因となるタンパク源をあげない方法や「加水分解」といってタンパク質の分子量を小さくしてアレルゲンにしない方法があります。

最近ではアレルゲンがタンパク源だけに限らないこともわかってきています。除去食試験で全ての食材を試せるわけではないため原因を特定することは難しく、まずは症状が軽減できる食事を探すことが目標になります。


不正咬合

犬にも人間と同じように「噛み合わせ」があり、遺伝や成長の変化で不正咬合が見られる場合があります。理想は上の前歯が下の前歯より少し前に出ている「シザーズバイト」(鋏状咬合)という状態ですが、噛み合わせが悪いと歯が歯肉や唇に当たって炎症を起こす場合があります。

刺さらない長さに歯を切る選択肢もありますが、露出した歯髄の処置を適切に行う必要があるため歯科治療に力を入れている病院でなければ抜歯が選択されます。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。


犬の口唇炎と似た病気

ヨークシャーテリア

口唇炎以外に口の周りに起こる病気として「乳頭腫」と「メラノーマ」が挙げられます。

乳頭腫

乳頭腫は皮膚にできるカリフラワーのようなピンク色のできものです。子犬など若い犬で多く見られる乳頭腫は「パピローマウイルス」(乳頭腫ウイルス)によるものが多く、シニア犬(老犬)では非ウイルス性で原因は明確になっていません。ウイルス性の場合は他の犬や人に感染する可能性があります。

どちらも良性の腫瘍であることが多く、非ウイルス性で生活の質に影響がある場合は切除します。ウイルス性の場合は数カ月で自然治癒しますが、口にできる乳頭腫は悪性化しやすく「扁平上皮癌」(へんぺいじょうひがん)に進行する可能性があります。


メラノーマ

唇に黒いできものがある場合、「メラノーマ」(悪性黒色腫)という口腔腫瘍の可能性があります。歯肉に発生することが多く、口唇や頬粘膜、まれに舌に発生することもあります。見た目では悪性か判断できないため、早期に診断することが重要です。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。


犬の口唇炎の予防法

ブルドッグ

炎症を防ぐために日ごろより口の周りを清潔に保つようにしましょう。

特に口の周りに毛が多い犬種(トイプードルやミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリア、シーズー、マルチーズなど)皮膚が垂れ下がった犬種(ブルドッグやセントバーナード、シャーペイなど)は細菌が繁殖しやすいため注意が必要です。

まとめ

シーズー
口唇炎は唇に炎症が起こる病気
痛みや痒みを伴い自分で掻くと治りが悪い
犬にとってストレスで生活の質を下げる
早期発見・早期治療が大切
犬の唇に炎症が起こる病気で、細菌感染やアレルギーなどが原因になります。痛みや痒みを伴うため、犬が自分で掻いてしまうと治りが悪くなります。犬にとってストレスで生活の質を下げる可能性があるため、異変を感じた場合はなるべく早く病院に行くようにしてください。