犬のがんの症状や原因、治療費や食事、予防法まで【がん認定医が解説】

犬の死因第1位である病気、がん(腫瘍)。一般的に「怖い病気」「治りづらい病気」などと思われているかもしれませんが、犬のがんの進行を抑えるためには、飼い主ががんについて正しい知識を持っていることが大切です。今回は犬のがんの種類や原因について、日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅰ種獣医師の井上が解説します。

犬のがんとは

がんは基本的に細胞の遺伝子の突然変異や細胞の無秩序な異常増殖により起こります。それは細胞のDNAが傷付けられると突然変異を起こし(イニシエーション)、その細胞が無秩序に増殖していくとがん発生の前段階になり(プロモーション)、そしてさらに突然変異を繰り返すごとに悪性化していき(プログレッション)、がんとなります。これらの段階は寿命が延びるごとにリスクが増えるので、がんは高齢の病気とされているのです。

がんは全身のさまざまな部位にできる病気です。がん細胞をそのまま放置していると、腫瘍がどんどん大きくなり周囲組織を圧迫し増大していきます。さらにがん細胞が血管やリンパ管に浸潤して全身をめぐることで全身の臓器にがん細胞が生着し、そこでまた腫瘍を形成して転移となります。転移場所にもよりますが、転移を起こすとさまざまな症状を示し死に至る病気です。

早期のがんの場合、症状が分かりづらく、発見が遅れる場合もあります。気付いたときにはもう手遅れ、なんてことにならないためにも、動物を注意深く毎日観察することが重要です。

犬のがんにかかりやすい年代・犬種

犬の死因第1位はがん(腫瘍)だと言われています。がんは一般的に高齢犬がかかりやすい病気です。近年、良質なペットフードによりペットの寿命が延びてきており、高齢化が進んで長寿犬などもどんどん増えてきましたが、その反面がんにかかりやすくなってきているのです。

かかりやすい好発犬種として、ゴールデンレトリーバーラブラドールレトリーバーバーニーズマウンテンドッグなどの大型犬が多く、小型犬でもダックスフンドが挙げられます。

【部位別】犬のがんの種類と代表的な症状

がんは大きく「上皮性腫瘍」と「非上皮性腫瘍」の二つに分けられます。「上皮性腫瘍」は皮膚や粘膜から発生するがんで、「癌」と漢字で書く場合はこちらを指します。「非上皮性腫瘍」は、上皮以外にできる間葉系腫瘍と独立円形細胞腫瘍と言われる血液細胞から発生する腫瘍の総称です。間葉系腫瘍には線維腫や脂肪腫などがあります。独立円形細胞腫瘍にはリンパ腫、肥満細胞腫などがあります。以下では主な部位に発生するがんの症状を紹介していきます。

口腔内のがん

口腔内のがんトップ3は悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫です。口腔内のがんはよだれや出血、食欲減退、外貌の変化や口臭が認められます。悪性黒色腫は転移性が高い腫瘍と言われています。扁平上皮癌と線維肉腫は悪性黒色腫と比べて転移性は低いものの、口腔内での発生により食事が出来なくなり死亡します。

皮膚や体のがん

皮膚や体で触って分かるがんで多いものはリンパ腫、肥満細胞腫、軟部組織肉腫といったものがあり、リンパ腫や肥満細胞腫は進行していくと多くは肝臓や脾臓や骨髄に転移し、最終的に全身状態の悪化が見られて死に至ります。軟部組織肉腫は、転移性は低い一方で、どんどん肥大して周囲組織を圧迫していき、機能障害を引き起こしてしまいます。犬の体を触ってしこりが確認できたら、皮膚のがんである可能性があります。

呼吸器のがん

呼吸器で多い腫瘍は鼻腔の腺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌です。腺癌は進行が早く、骨が破壊されることで顔面変形が起こります。肺腺癌や肺扁平上皮癌は、初期段階ではあまり症状を示さないものが多いですが、末期になると咳や呼吸が荒くなるなどの症状が出ます。

肝臓のがん

肝臓は肝細胞癌が、脾臓は血管肉腫と言われる腫瘍が多いです。肝細胞癌は食欲不振や体重減少など明確な症状がありません。血管肉腫の場合は出血による貧血が起こります。腹腔内に出来る腫瘍は知らない間に大きくなり破裂してしまうことが多々あります。

消化器のがん

消化器で多いものはリンパ腫、腸腺癌、GIST(消化管間質腫瘍)、軟部組織肉腫と言われるものです。初期症状は非特異的なものですが食欲不振や体重減少が見られます。消化器腫瘍は放置しておくと嘔吐や下痢を引き起こし、最終的には栄養不足により死亡します。

膀胱のがん

膀胱腫瘍では移行上皮癌が多く、血尿や排尿障害を引き起こします。肛門周りで多い腫瘍は肛門嚢腺癌、肛門周囲腺癌があります。肛門周囲の癌では大きくなると排便困難な状態になり最終的に便が出なくなる危険性があります。

犬のがんの原因

がんの原因としては次の五つの要因があると言われています。

遺伝的な要因

遺伝的な要因としては前述している通りDNAが傷付きその傷付いたDNAが増えることによりがんが発生するというものです。

化学的要因(環境因子、農薬、除草剤、殺虫剤)

化学的要因では必ずしも特定の化学物質が原因ということではなく、リスクが高まるとされています。例えばタバコの煙、いわゆる副流煙(受動喫煙)により人では肺がんのリスクが増えるというデータはありますが、犬においては確かなデータは出ていません。一方で、慢性的に受動喫煙させられた犬は劇的に高い確率で肺腫瘍になるとのデータは存在します。リンパ腫も受動喫煙による暴露時間や量の増加によりリスクが高まるとされています。

物理的要因(日光、磁場、放射線)

物理的要因において、動物における放射線治療も近年増えてきましたが、がんの発生率は低いと考えられています。また、骨折の治療に使われる金属製のインプラントを使用することで肉腫と言われるがんの発生を引き起こすと言われていますが、こちらも賛否両論のようです。

ホルモン的要因(エストロジェン、プロジェステロン、アンドロジェン、テストステロン)

ホルモン的要因として雌の乳腺癌が有名ですが、メカニズムはまだ明らかにされていません。アンドロジェンが原因の肛門周囲腺腫と言われる良性腫瘍の発生は明確に証明されていますが、肛門周囲腺癌は去勢や未去勢の犬でも発生するのでホルモンの関係性は低いとされています。テストステロンと前立腺癌の関連性が立証された報告はありませんが、前立腺癌は去勢している犬が発症しやすいと仮定されている報告もあります。

生物的要因(病原性ウイルス)

生物的要因の病原性ウイルスの中には、パピローマウイルスという乳頭腫を作るウイルスがまれに扁平上皮癌の原因になるとの報告もありますが、確率は低いものです。猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)などは主に血液細胞のがんを引き起こすと言われています。

犬のがんの検査・診断方法

がんの診断とは、まずその腫瘍が何かを診断することから始まります。その次に、全身状態を把握しがんの進行度を確定するために血液検査や画像診断検査機器を用いて診断します。

細胞診断学検査でがん細胞と疑うようなものが認められれば、いよいよ腫瘍を取り除く検査に進みます。病理組織学検査には腫瘍のみを全部取り除く切除生検という方法と、腫瘍の一部を切り取って検査する方法があり、切除生検は腫瘍をすべて切り取るため全身麻酔が必要となります。また、消化管の腫瘍では内視鏡により組織生検する方法があり、最近では胸腔鏡や腹腔鏡による組織生検も行われています。

犬のがんの治療法

がんには外科療法、放射線療法、化学療法、免疫療法、代替療法、温熱療法などさまざまな治療法があります。

外科療法

外科療法はがん治療における最大効果が期待できる治療法ですが、腫瘍が大きくなりすぎて切除ができない場合や転移をしている場合は外科不適とされます。

放射線療法

放射線療法は生体を傷つけることなく腫瘍を縮小させる効果がありますが、腫瘍の種類によっては効果が期待できない場合や再度腫瘍が増大する場合があります。そして放射線治療は基本的には全身麻酔を必要とするので、状態が悪い場合は放射線治療ができない場合があります。

化学療法

血液細胞のがんには第一選択になりますが、他のがんでは有効性は低いとされています。また、一番知られているであろう抗がん剤は全身の正常な細胞にも影響を及ぼしますが、分子標的薬はがん細胞の分子のみを標的とするので全身への影響は少ないため注目されています。

免疫療法

免疫療法には、特異的免疫療法(樹状細胞療法・がん抗原認識型活性化リンパ球療法)と非特異的免疫療法(活性化リンパ球療法・BRM療法)などがあり、副作用がほとんどなく他の治療との併用が可能なので、近年ではがんに対する第4の治療と呼ばれている分野です。しかしまだまだ発展途上なところもあるので、よく理解してから治療していただきたいと思います。

温熱療法はガンに数本の電極の針を刺して加温しがん細胞を死滅する方法で、凍結療法は液体窒素により凍結させてがん細胞を死滅させる方法です。しかし全てのがんが凍結療法を行えるわけではないので十分理解してから治療を選択してください。

光線力学療法は光感受性物質と可視光線、酸素分子の化学反応により選択的にがん組織を死滅させます。

あくまでもがんに対しての治療は外科療法・放射線療法・化学療法がメインとなりますので、代替療法などは補助治療でありメインの治療の補助をすると思ってもらうといいでしょう。

犬のがんの治療薬

一般によく知られている抗がん剤にはさまざまな種類があります。種類によっては、抗がん剤1種類を処方する単剤よりも多剤併用治療が効果的なのです。

アルキル化剤

アルキル化剤は細胞障害性の抗がん剤で、アルキル基と呼ばれる原子のかたまりをがん細胞のDNAに付着させ、DNAのコピーができないようにします。アルキル基が結合した状態でがん細胞が分裂・増殖を続けようとすると、DNAがちぎれてしまうため、がん細胞は死滅してしまいます。

※主な名称:カルムスチン、シクロフォスファミド、クロラムブシル、ロムスチン、ダカルバジン、アイフォスファミド、メルファラン、メクロレタミン、ストレプトゾシン

抗腫瘍性抗生剤

この薬はがん細胞の細胞膜を破壊してDNAやRNAの複製や合成を阻害します。

※主な名称:ドキソルビシン、ダクチノマイシン、デクスラゾキサン、リポソーム注入塩酸ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン

代謝拮抗薬

細胞分裂にはタンパク質などが必要ですが、この代謝拮抗薬を使うことで、DNAを合成するのに必要な酵素の働きを阻害し、DNA合成ができなくなるようにしてがん細胞の増殖を抑えます。

※主な名称:ゲムシタビン、シタラビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキセート

植物アルカロイド

がんの細胞分裂が行われる時にDNAが複製され、複製されたDNAは微小管というタンパク質と結合します。この微小管の働きを阻害する、微小管阻害剤と呼ばれる薬です。

※主な名称:ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル

白金製剤

アルキル化剤などと同様にDNAの構造に結合してDNAの複製を阻害したり、がん細胞の死(アポトーシス)へ働きかけます。

※主な名称:カルボプラチン、シスプラチン

ホルモン剤のプレドニゾロンは副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)に似た物質で、リンパ球を破壊する作用があります。そして先ほども紹介した分子標的薬に関しては、日本で認可されているものはパラディア(トセラニブ)と言われる製剤のみです。しかし近年では数種類のがんに使用して効果が認められたとの報告もあり、今後に期待出来る薬です。

治療・手術費用の目安

犬のがんの手術費用は目安として10万〜15万円程度です。もちろん費用はがんの状況や手術をする病院によって変わります。抗がん剤治療は1回3万円ほどです。月に2、3回を最低でも半年から1年続けますので、年間70万円ほど、手術も入れるとトータルで100万円弱かかると考えていただければよいと思います。ペット保険は基本適用されます。

入院期間の目安

抗がん剤治療が必要なければ当日〜数日で帰宅することができます。抗がん剤治療を行う場合は1週間程度の入院期間を目安に考えていただければよいと思います。

犬のがんの緩和ケア

がんにかかった犬のQOL(quality of life)を高める緩和ケアとして、漢方の処方やサプリメントの使用が挙げられます。また先端医療として免疫療法もあります。こちらは発展途上の治療ですので、専門医に相談するようにしてください。

がんに効くサプリメント

オメガ3脂肪酸やアガリクス、サメ軟骨を含むサプリメントがいいでしょう。ただ、がんに直接効くというより、あくまで免疫力を高めるためのものと考えていただければと思います。

がんの予防法

犬のガン

がんは確実に予防できるものではありません。できる限りがんのリスクを減らす環境は作れるかもしれません。可能であれば免疫力を高めるような食事やサプリメントが推奨されます。

毎日動物の状態を確認し元気があるか、食欲はあるか、便・尿の状態はどうかのチェックをしましょう。目、耳、口腔内、肛門周囲を目で見て確認して、頭から尾の先までの皮膚を触ってもらい体に何か腫瘍がないか獣医さんの気持ちになりながら日々触っていただきたいと思います。

胸腔内や腹腔内に出来るがんに関しては外からではなかなか分かるものではありません。愛犬が高齢になるにつれて、定期的に動物病院での画像診断検査を受診していただきたいと思います。

がんに効く食事

がんが進行すると悪液質(がん悪液質)と呼ばれる栄養失調によってやせた状態になります。そのため、食事としては動物性、特に魚の脂肪を多く摂取することをおすすめします。サプリメントでオメガ3を含むものを与えるのも効果的です。

犬も高齢化でがんに注意

犬の死因第1位のがんは、犬の高齢化によりさらに増えてきています。がんは確実に予防できるものではありません。免疫力を高めるような食事やサプリメントを心掛け、できる限りがんのリスクを減らす環境を作るようにしてください。早期のがんの場合、症状が分かりづらく、発見が遅れる場合もあります。毎日、愛犬のことを注意深く見てあげることが大切です。

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第2稿:2017年10月24日 公開
初稿:2016年7月8日 公開

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