ペットショップ会長が登壇!? 滝川クリステルさん主催アニマル・ウェルフェアサミットの狙いとは
アニマル・ウェルフェアサミット2017開催(8月27〜28日)を前に、滝川クリステルさんのメディア合同インタビューが行われました。初開催ながら小池都知事も登壇し、事務局の予想を超える反響だった去年のアニマル・ウェルフェアサミットから、第2回はどのように進化をとげるのか。インタビューではイベントへ向けた意気込みや、動物愛護管理法改正への財団の方針をお聞きしました。
- アニマルウェルフェアとは何か
- 滝川クリステルさんが語る「アニマル・ウェルフェアサミット」
- 日本におけるアニマルウェルフェアの現状
- 財団が伝えたいアニマルウェルフェア
- 滝川クリステルさんが考える今後の活動
アニマルウェルフェアとは何か
一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルが掲げる「アニマルウェルフェア」とは、元々イギリスで生まれた思想です。昔は家畜の環境に配慮する習慣がなく、劣悪な環境で飼育され、家畜動物は大きなストレスを抱えながら生きていました。そして一部の人間の「人間は動物の命や力を借りて生きているのに、動物の自由や快適性は無視していいのか?」という考えが「5つの自由」を誕生させました。この指針は畜産動物などの飼育動物が命を生きる上で、自由や快適性が奪われていないかを問う役割を担っています。今までさまざまな言葉で表現されていた動物福祉に対する概念は、日本でも「アニマルウェルフェア」と言語化され知られるようになったことで、理解が進むようになると期待されています。
飢えや渇きからの自由(Freedom from hunger and thirst) |
痛み、負傷、病気からの自由(Freedom from pain, injury and disease) |
恐怖や抑圧からの自由(Freedom from fear and distress) |
不快からの自由(Freedom from discomfort) |
自然な行動をする自由(Freedom to express normal behavior) |
滝川クリステルさんが語る「アニマル・ウェルフェアサミット」
インタビューは、去年開催されたサミットについての話からスタートしました。初回ながら財団事務局も驚きの反響があり、アンケートでも高い満足度が得られたそうです。滝川クリステルさんは、今年の開催にはその経験を生かしていると語ります。第2回目の開催になるアニマル・ウェルフェアサミット2017について
Q. 去年のサミットを開催して、手応えはいかがでしたか?
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来場者アンケートを取らせてもらったところ、80%以上の人が「十分満足できた」という評価をしてくださった。面白いことに、そのうちの半分以上が(ペットを)飼っていない方でした。私はそれが一番意外でしたね。飼っている方が多いのかなと思っていたので。
これはすごく(開催した)効果として大きいなと思いました。そういう人たちが来て、学んで、考えて、持ち帰って「自分は勢いでペットを飼うのはやめよう」と思ってくれるようなきっかけになったと思います。
Q. 去年は「アニマル・ウェルフェアとは」がメインでしたが、今年はどのようにテーマの変化をつけていくのでしょうか?
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まだまだ「アニマルウェルフェア」という言葉は浸透していないので、探り探りなところがあります。今回少し違うのは、「そもそもアニマルウェルフェアという考え方はどこから来たのか?」という歴史についても知ってもらえる場にしようと思っていることです。なので、あえて畜産のことを知るものも(プログラムとして)入れています。犬猫のことだけでなく、アニマルウェルフェアということで見解を広げて、深く知ってもらいたいです。
Q. 去年に比べて運営や開催方法で変わったところはありますか?
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前回は予想以上の人たちに来場していただけて人が溢れてしまったので、ケガや事故につながらないように今回は申し込み制にしました。でも基本的にサミットに入ること自体はフリーのままです。会場も前回より大きなところを早めに押さえ、広いスペースを確保しました。
前回は2000人超集まって、まさか初回でここまで集まるとは思っていなかったので……(笑)。私たちもびっくりしました。何をどのように制限するのかは難しいところですが、今は前もって体制を組んでいます。
Q. 今回のアニマル・ウェルフェアサミット2017では前回と比べ、何を意識しプログラムを組んだのでしょうか?
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実はアンケートの意見の中に「アニマルウェルフェアのことを知りにきたけど、犬の話ばかりだった」というものがいくつかありました。事務局の方でもその辺は話し合い、せっかくさまざまな活動をされている方にご登壇いただく以上、犬猫以外の色も取り入れようと意識しました。なので今年は日本の動物を取り巻く現状、畜産動物についてお話いただくプログラムなども入っています。
Q. 今年は小池都知事がご登壇される予定はあるのでしょうか?
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登壇していただきたいですね。実際に東京都の犬の殺処分ゼロという成果を出されていて、東京都と保護センターと一緒にティアハイム的なものを作っていきたいというお話も小池都知事から個人的にお聞きしました。その辺の話もしてもらえたらなと思っています。ただお忙しい方なので、まだ分からないです。
日本におけるアニマルウェルフェアの現状
滝川クリステルさんはインタビューの中で「日本にはアニマルウェルフェアが浸透できる基盤もまだできていない」と語りました。殺処分ゼロという言葉自体は耳にする機会も増えましたが、ゼロという数字を追うことに一生懸命になりすぎることで生じる弊害は深刻です。保護団体の負担が増え限界に近い状態で運営されていたり、病気や大きなケガを負っていても殺処分ゼロにするために安楽死を躊躇したりするのです。サミット開催や財団のさまざまな活動を通し、感じていることをお聞きしました。小泉進次郎議員もアニマルウェルフェアに注目
アニマルウェルフェアという言葉を前面に出しサミット開催などの活動を行う中で、どのように浸透し始めているのか、また浸透を実感できることがあったかをお伺いしました。Q. 活動を進めていく中でアニマルウェルフェアという言葉の浸透を実感していますか?
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サミットに来た方にはアニマルウェルフェアについて知っていただけたと思います。ただ個人個人が発信する言葉としてはまだまだですね。正直、「まだ実感としては得られていないかな」という感じです。
ただ、自民党の農林部会長をやられてる小泉進次郎さんが、最近は農業の分野でもアニマルウェルフェアという言葉を聞くようになったと仰っていて、政界でもこの言葉が使われ始めているようです。これから大きな文言として前に出る言葉ではあって欲しいと思っています。
どちらかというと「殺処分ゼロ」という言葉の方が広がっていますが、「その前提条件としてアニマルウェルフェアというものがあるんだよ」「ゼロという数字を追うだけではだめだよね」というような理解をしてもらえたらと思います。
日本と西洋、動物に対する価値観の差
動物愛護先進国と言われるドイツやイギリスなどの西洋の動物観(人が持つ動物に対する潜在的な価値観)と日本の動物観には異なる点が多々あります。西洋では保護犬・保護猫が病気やケガで苦しんでいる時は安楽死を行うことが一般的で、ペットも高齢や病気が理由で苦しむようになると寿命を待たずに安楽死させる文化があります。滝川クリステルさんは「これはそもそも死生観に基づくものだから、非常に難しい議論になる。終生飼育がいいのか悪いのかは誰も断言できない」と日本独自の価値観にアニマルウェルフェアを問う難しさを語りました。動物保護を推進していく中で西洋の手法を取り入れようとしている活動は多々ありますが、宗教や文化的な背景から価値観の差があることをまず理解しないといけないのかもしれません。
Q. 海外では殺処分ゼロとしながらも安楽死が頻繁に行われていますね。安楽死のハードルが低いことに関してはどのようにお考えですか?
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これはそもそも死生観に関わることだと聞きました。海外と日本の死生観は全然違くて、そこから日本人が終生飼育にこだわる傾向が強いようです。この価値観が根本的に違うので……。西洋の一部では人間の尊厳死も認められています。かなりギャップのあるところからの日本人にとっての「安楽死」なので、難しいですね。
「安楽死という選択も、動物に苦痛を与えないという一つの選択」
日本では殺処分ゼロという言葉が一人歩きすることで歪みができています。動物の命を扱う以上、数字で判断することは果たして正しいのでしょうか? アニマルウェルフェアは動物の「生き方」を重視しているため、無理やりゼロを目指すノーキル(No kill)ではなくローキル(Low Kill:低処分)を目指しています。滝川クリステルさんは日本は現状アニマルウェルフェアを学ぶ場、教育する場が整っていなことを課題点とし、必要性を語りました。財団が伝えたいアニマルウェルフェア
殺処分ゼロについて、現在「ノーキル」(No Kill)よりも「ローキル」(Low Kill:低処分)と表現されることがあります。これは「ゼロという数字にとらわれず、アニマルウェルフェアに基づいた判断をしよう」という意思を示します。現実的に一切殺さないノーキルという目標を掲げられるほど現場は単純ではないと滝川クリステルさんは語ります。それよりもローキルを目指すことで目標や行動基準が明確になり、殺処分数を減らせるのかもしれません。Q. ノーキルの文化が根強い日本で、ローキルの考え方は広まるでしょうか?
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(殺処分問題に)コミットすればするほど、ノーキルを目指すと思うんです。実際に命を目の前にする現場の方々の「なるべく生かしてあげたい」という気持ちは痛いほど分かります。だから重い病気の子は医療費も、時間も、人手もかけてケアして。
でもそこを徹底してしまうあまり、他の子のケアや団体運営などのバランスが思うようにいかなくなってしまっては、救える命につながりづらいのではないかと。病気以外でも、人間が「生かす」ことを重視して動物が苦しむこともあります。安楽死という選択も、動物に苦痛を与えない一つの選択ということを知ってもらいたいです。
Q. 日本の保護活動をしている個人、団体にアニマルウェルフェアを広げるためには何が必要だとお考えですか?
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殺処分ゼロはもちろん一番理想的ですが、現場を見ていない方々があげている声も大きいと思います。現場は行政、保護団体の方々が一番見ているところだと思うので、そこに寄り添いというか、理解というか、私たち一般の人がもう少し考えなければいけない時期にきているのかなと感じています。
日本はアニマルウェルフェアの考え方や体制が整っていないうちに言葉や活動が広がってしまったので……。まず一つ言えるのは、基盤が全くできていないことなのではないでしょうか。私たちも模索する日々ですが、自分が飼う愛玩動物について、食べる畜産動物について、動物を取り巻く物流について、「考えよう」という発想を生む教育も場所もないのが問題ですね。
私たちは固定された一つの考え方を発信していくというよりは、さまざまな立場の方が考える「アニマルウェルフェア」を発信する機会、場づくりができると思っています。なので今回のサミットにはペットショップの小島さんや畜産業界の方にもお話ししていただく予定です。小島さんとも、ネガティブな意見交換ではなくポジティブにお話して、ペットショップでの動物販売についてどのように協力し合えるのかをお聞きしたいです。本人もそういう話(ペット販売について)をしたいと仰ってくださったので。
滝川クリステルさんが考える今後の活動
「地方の活動サポートやイベント開催もしたい」
Q. 昨年小池都知事とサミットで対談しましたが、今後は都と財団としてどのような連携をとっていくのでしょうか?
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財団としては、(アニマルウェルフェアに関する活動や理解が)東京から始まって、全国へアニマルウェルフェアの流れを作ることが目標です。ただ東京はオリンピックを控えているのもあってすでに精力的な活動が起こっています。一方で地方はまだまだ収容される頭数も多いですし、解決しなければならない問題が山積しています。「東京ばっかり」という声も実際にあるので(笑)。これからは地方自治体や保護団体と協力した活動や猫の問題に特化したプロジェクト、啓蒙のサポートなどをしていきたいなと思っています。
全国の保護団体の声を知るために
財団では全国の保護団体やセンターにアンケートを出し、現状を集計する活動をしているそうです。すでにアンケートは回収し現地調査も行ったそうで、現在集計作業中とのことです。保護団体の現状は不透明になってしまっているので、この活動によって本当の意味で団体が必要としている変化や課題が見えてきそうです。-
財団としては、全国のシェルターや保護センターに現状調査としてアンケートを出しています。保護団体さんの本音の部分も本当は(サミットで)出したかったんですけど、集計作業に時間がかかっているのでまた別の機会に発表したいと思います。これは私たちが保護団体としてではなく財団としてできることなのかなと思っています。
動物愛護管理法改正、財団は静観
Q. 動物愛護管理法改正を控えていますが、改正に向け財団で取り組んでいることはありますか?
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財団としては、動物愛護管理法改正については一歩離れ、静観したいと思っています。法律で規制することや(他団体との)足並みを揃えることも大事なんですけど、法律ができてもその法律を執行できる土台がしっかりと日本にあるようには見えないんです。ですので、結果同じことの繰り返しになってしまうと思うんです。愛護法改正については、すでに精力的に活動されている方々がいます。それなら私たちは改正については静観し、他にできることを違うベクトルでやっていこうと考えています。
今一番力を入れたいのは「虐待問題」
動物虐待と聞くと暴行や飲食の世話を放置することなどが想像されやすいのですが、この認識に滝川クリステルさんは懸念を抱き、「何が虐待に当たるのか?」を思考する機会の重要性を語りました。Q. 今一番力を入れたい活動は何ですか?
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財団の会議でも話していたんですけど、虐待の問題ですね。今ある動物に関わる問題は虐待への考え方が根本にあると思っていて、ペットショップでの販売の仕方や車内にペットを放置することを「何とも思わない」「疑問が浮かばない」この価値観を変えたいです。虐待してるつもりはないけど、結果的に虐待になっている状況ってすごくたくさんあるので……。
虐待を監視する機関をつくり、機関があっても人手がないので人員を増やす要望がしたいなと思っています。虐待についての理解を深めてもらい、もう少し先の動物愛護管理法改正に向けて世論づくりからしていこうと考えています。
滝川クリステルさんがアニマル・ウェルフェアサミット2017を通して伝えたいこと
Q. サミット開催に向けた意気込みをお願いします
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殺処分ゼロという言葉が浸透し、ゼロという数字を追うことで弊害が生まれ人間も動物もつらいような状況が出てきています。なので、「アニマルウェルフェア」ということを通して本来の目的を再考し、動物がなるべく苦痛なく自由を感じる環境を人間が整えてあげることが重要だということを伝えたいです。サミットでは「アニマル・ウェルフェアに基づいた殺処分ゼロ」のお話をしようと思っています。
アニマル・ウェルフェアサミット2017情報
- 日程:2017年8月27日(日)、8月28日(月)
- 開催時間:10:00〜17:00
- 開催場所:東京大学弥生講堂、弥生講堂アネックス、他
- 入場料:無料(資料代等、一部有料のプログラム有り)
- 参加方法:事前申し込み制
- 公式サイト:アニマルウェルフェアサミット2017