犬の乳腺炎|症状・原因・かかりやすい犬種や年代・治療法などを獣医師が解説
犬のお腹を見てみると、乳頭がいくつも並んでいるのがよくわかると思います。男の子にも乳頭はありますが、女の子の場合、子犬に母乳を与えるための乳腺があり、定期的に発達するタイミングがあります。実はそのタイミングで「乳腺炎」と呼ばれる状態に陥ることがあります。老犬でも気をつけたい乳腺炎について、かどのペットクリニック院長の葛野が解説します。
犬の乳腺炎とは
女の子の犬は、発情が来たときに「偽妊娠」といって、体が妊娠していると錯覚する状態に陥りやすいため、乳腺が発達することが多いです。
乳腺炎は、この乳腺部分に炎症が起こり、熱感や疼痛を引き起こす疾患です。
乳腺炎の症状
乳腺の「異常なまでのハリ」「発赤」「触って熱っぽい」などが乳腺炎の主な症状です。時間の経過と共に、腫れていた部分が「硬結(こうけつ:固くなること)」と呼ばれる現象が起こり、悪化すると「膿瘍」という膿の塊が、乳腺の中にできることがあります。
膿の塊になると表面上は気づきづらいですが、乳頭を絞ると、膿や血の混じった乳汁が出てくることもあります。
犬の乳腺炎のかかりやすい好発犬種・年齢
若齢期でも老齢期でも、犬種関係なく罹患する可能性があります。特に産後の授乳期には程度が悪化する可能性は高いといえるでしょう。授乳期だけではなく、妊娠期間や産後などのホルモン推移が正常ではない場合は高齢の犬でも乳腺炎は起こす可能性があるといえます。
男の子でもなり得る?
圧倒的に女の子のほうが乳腺炎になりやすいですが、まれに男の子でもなることが報告されています。乳腺炎の母犬の母乳はNG
万が一、授乳中の母犬が乳腺炎になった場合は、乳汁には細菌が含まれる可能性が高く、子犬がその母乳を飲ませることはあまり望ましくありません。犬の乳腺炎と乳腺腫瘍の違い
乳腺が目立つと、乳腺腫瘍と勘違いしやすいですが、熱感や発赤などは乳腺炎の特徴ともいえるかもしれません。
ただし、硬結など伴う場合、判断が難しくなり、精密な検査が必要な場合があります。その際は早めに受診するよう心がけましょう。
犬の乳腺炎の原因
主に乳腺が発達している時期の細菌感染が原因です。
また、授乳時に子犬のとがった歯が、母犬の乳頭を傷つけ、その小さな傷から細菌感染が起こって乳腺炎へと進行することがあります。
そのため、新生仔がいる授乳中の女の子の乳腺部分に異常がみられる場合、飼い主さんは乳頭部分に傷がないか、まずチェックをしてみることも大切です。
犬の乳腺炎の治療法
病院での処置
細菌感染が考えられる場合、抗生剤での治療がメインとなります。授乳中の子犬がいる場合、使用できる抗生剤の種類は限られてしまうので注意が必要です。悪化して膿瘍になったり、壊死すると外科的切除や膿を出す処置が必要となります。この場合、麻酔をかけた状態での処置になるため、費用も通常よりもかかる可能性が高くなるでしょう。
自宅でのケア
まず、犬の痛みや熱感による負担を軽減してあげるために、炎症を起こしている乳腺の部分を冷やすことは効果的といえるでしょう。ただし、その際に傷口からの感染による乳腺炎の場合、保冷剤やその周りをくるむタオルなどはしっかりときれいなものを使用することが大切です。
犬の乳腺炎の予防方法
一度乳腺炎になった犬は、その後の妊娠や発情時にも繰り返す可能性が高いため、一番の予防方法は避妊手術を行うことだといえるでしょう。
そのほか、自宅での腹部の定期的なチェックや、動物病院での定期的な健康診断を受けると安心です。
まとめ
乳腺炎は発情期などのホルモン推移が正常でない時期に起こりやすい
主に女の子の病気ですが、男の子でもなり得ます
母犬が乳腺炎に罹患したら、子犬に母乳を飲ませることは危険が伴います
避妊・去勢手術を行うことで、罹患可能性を下げられます
乳腺炎は一見、命に危険が及ぶ可能性の低そうな病気に感じますが、罹患すると痛みや熱っぽさなど犬への負担も大きく、もし授乳している犬であれば、その病気のせいで子犬たちが命を落としてしまう危険が潜んでいます。
定期的な健康診断や避妊・去勢手術で、予防できるよう心がけましょう。
参考文献
- 犬と猫の治療ガイド2015(インターズー)
Spcial Thanks:獣医師として、女性として、 両立を頑張っているあなたと【女性獣医師ネットワーク】
女性獣医師は、獣医師全体の約半数を占めます。しかし、勤務の過酷さから家庭との両立は難しく、家庭のために臨床から離れた方、逆に仕事のために家庭を持つことをためらう方、さらに、そうした先輩の姿に将来の不安を感じる若い方も少なくありません。そこで、女性獣医師の活躍・活動の場を求め、セミナーや求人の情報などを共有するネットワーク作りを考えています。
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