【トレーナー解説】犬は家族を順位付けするの?正しいしつけ方を解説
犬の飼い主さんの中には「犬が家族を順位付けしている」「犬をリーダーにさせないためにしつけをしないと」と考えている方もいると思います。しかし、犬は家族を順位付けしているのではなく、自分にとってどんな人かで、好き嫌いのランキングを付けていると考えることはできないでしょうか? 今回はドッグトレーナーの西岡が犬の順位付けについて解説します。
目次
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犬の順位付け、リーダー論とは
犬を飼い始め、しつけ本や飼い方本を読むと、「飼い主は犬のリーダーになること」と書かれていることがあります。これは、犬の祖先がオオカミであるという考えが影響しているものと思われます。「犬もオオカミと同じように群れの中で順位を付ける」という考えから、「犬に主導権を渡さないように、犬のリーダーになることが大切だ」と言われ始めました。そして、犬の行動から飼い主が犬からどう見られているか、犬に順位付けされていないかを見極める行動は何かに注目するようになりました。
しかし、犬の学習の仕方や習性を考えると、必ずしも「順位付けをしているとはいえないのではないか」という意見が出てくるようになり、専門家でも犬の順位付けについては意見が分かれています。
オオカミの順位付け
そこで、オオカミたちは1匹のオオカミをアルファ(群れのトップ)にして、そのアルファについて行くと食事が得られたり危険を回避できたりする事を学びます。また、アルファの下にもベータ(2番目の位)やシグマ(3番目の位)などがあります。
※シグマ以降の位は割愛しますが、順に続きます。
アルファは、獲得した獲物を一番初めに食べることができます。その次がベータ。その後にシグマという形でおこぼれをもらっていくのです。また、アルファから遊びに誘われるとベータやシグマたちは遊びます。ですが、シグマからアルファなど下位のオオカミが上位のオオカミを遊びに誘うと上位のオオカミはそれに応じません。こういったオオカミの群れでの行動が順位付けになります。
オオカミの群れは、アルファが強く怖い存在だから従っているのではなく、アルファについていくと良いことがあるなど損得で動いているのです。
オオカミの順位付けは犬に当てはまる?
犬の祖先がオオカミという見解が広く浸透し、犬の行動をオオカミに当てはめて考えるようになり、「アルファシンドローム」や「リーダー」という考えが生まれました。
アルファシンドロームとは
権勢症候群とも呼ばれるアルファシンドロームとは、犬が家族という群れの中でアルファ(群れのトップ)の立ち位置にいる事で群れの安全を守り、獲得した食べ物を1番に食べて、自分の遊びたい時に遊びを強要する行動と言われています。リーダーという考え方
「人が犬のリーダーになりましょう!」という言葉をよく耳にします。では、果たしてリーダーとはどんな人なのでしょうか?私たちはリーダーという言葉を「代表」「指導者」などといった意味合いで使いますが、オオカミのアルファは、人のリーダーのように他のオオカミに指示を出したり、何かを教えたりするわけではありあません。「アルファの決めた行動に従う」これがオオカミの世界です。
決して、飼い主が犬を服従させ、上下関係をしっかり教えさせて支配する事なのではないのです。オオカミの順位付けでも分かるように、オオカミや犬は損得で行動する動物なので高圧的な態度を取れば犬がリーダーと認めてくれるわけではありません。人と犬も主従関係ではなく、信頼関係を築いて犬の危険を回避してあげられる「頼りになるやつ」にならなくてはなりません。
犬の順位付けと言われる行動の本当の意味とは?
そこで、犬の習性や学習の仕方を考えて見ると「順位付けだと思っていた行動」も違った見え方ができると思います。
犬同士のマウンティング
子犬の頃に兄弟犬たちと遊びの中でマウンティングという行動を取ったりします。犬同士マウンティングする行為は自然なことです。マウンティングをされて嫌だと意思表示する事も大切ですし、マウンティングして相手の反応を読み取る事も大切です。ですが、見知らぬ犬同士がマウンティングしたりされたりする事はトラブルになる場合があります。子犬の頃にマウンティングされない方法や回避する方法などを学んでいない犬にとっては、マウンティングされる事で落ち込んでしまったりします。また、ケンカに発展してしまう場合もあります。
犬同士の力の優劣
犬同士が小競り合いをして、ケンカに発展してしまうことがあります。その時、犬が相手の犬の上に乗り押さえ込むような行動を取ったりします。そうする事でケンカが終了することもありますが、上に乗る行動が全て犬の優劣につながっているかというと違ったりもします。犬同士が遊んでいてもお互いが順番に上に乗ったり下にいたり優劣とは関係なく信頼関係を築いてる場合もあります。テリトリー意識
いつも行く家の近所の散歩コースではトイレの回数が多いのに、知らない場所へ行くとトイレの回数が少ない犬もいます。逆に家のトイレではあまり回数はせず、お外に行くとマーキングをする犬もいます。テリトリー意識があるからマーキングしているようにも感じますが、他の犬との情報交換の意味もあります。尿には、沢山の情報が詰まっています。匂いを嗅ぎ、相手がどんな犬なのかを知って近くに自分の情報を残すのも犬のコミュニケーションのひとつです。
多頭飼いでのそれぞれの立場
犬同士は自然と自分の立ち位置を確保しています。年上の先住犬が食べているものや遊んでいるオモチャを年下の犬が取ってしまう。その時、年上の先住犬に叱られたとします。その行動が反復されると年下の犬は先住犬のものを奪う行動は自分にとって不利なのだと学習していきます。ですが、逆に自分も何かを奪われそうになると虚勢をはる行動を取るようになることもあります。また、年上の犬でも叱らない犬もいます。その時、年下の犬は強がらなくても受け入れてもらえるのだと学習したりします。バランス良く、受け入れられたり拒絶されたりを繰り返して犬は自分の立ち位置を認識していきます。
甘噛みは飼い主を試している?
犬は、相手がどこまでなら許してもらえるのかと試してくることはあります。甘噛みをどこまでなら、どのくらいの力加減なら許してもらえるのか試してくることもあります。犬同士がプロレスごっこのような遊びをしている時にお互い甘噛みをして力加減を確認しています。人への甘噛みも同じで、遊びの一環として甘噛みがあります。楽しくなりすぎてエスカレートしてしまうとつい強くなってしまう事もあるでしょう。その時は、遊びを終わらせてクールダウンする時間を作ってみるのも良いでしょう。甘噛みをするからと言って、下位に見られているとは限りません。
散歩の引っ張りは犬がリーダーと勘違いしている?
散歩中、リードを引っ張る行為も犬が上位にいるからとは言えません。早く楽しい目的地に行きたいから引っ張ってしまう場合もあります。もしくは、排泄したくて我慢しきれず急いでいるのかもしれません。急に引っ張るのは、怖い音や苦手なことから逃げたいからかもしれません。ですから、リードを引っ張る行為全てが順位付けとは言い切れません。しかし、リードを引っ張る行為は犬の首や身体に負担がかかり危険な事もあります。なので、リードを引っ張らなくても大丈夫だと犬に伝える必要があります。リードを張らずに歩く行動は、犬にとって得なんだと教えてあげましょう。
物をくわえて放さないのは人を下位に見ている?
今までの経験上、自分にとって大切なものを奪われる事が多い犬はどうしたら奪われないのか考えます。その時、唸ってみたり咥えて離さない行動を取ってみたら奪われなかったといった経験があるのかもしれません。咥えたものを離すことが良い事なのだと学習するとこのような行動は取らなくなるでしょう。
人へのマウンティングは?
人へマウンティングする犬もいます。先ほども述べましたが、マウンティングは遊びやコミュニケーションの一環とも考えられます。しかし、この行為が常習化してしまうと良くないので、別の遊びを提案してあげて回避してあげると良いでしょう。ぬいぐるみなどへのマウンティングも同じく繰り返してしまうと癖になってしまうので、ぬいぐるみを取り上げて別の遊びを一緒にしてあげると良いでしょう。
犬の順位付けと好きな人ランキングの違い
これまで「うちの犬は主人を下に見ている」など上下関係があると思われてきました。しかし、犬は誰にどのような行動を取ったら得なのか、損するのかと考えて行動をしています。
「お父さんよりお母さんの方が好き」という犬の行動とオオカミの順位付けはイコールではありません。お母さんの方が自分にとって得なことが多い、お父さんとお母さんならお母さんの方が良いと犬が考えて行動しているのです。
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犬の順位付けで主従関係を正しく築くには
犬と人は主従関係ではなく信頼関係で成り立っているのが理想的なのではないでしょうか? 自分が会社員だとします。一人は高圧的で厳しく、力で従わせようとする上司。もう一人は、部下である自分の主張を理解してくれて仕事ができると必ず評価してくれる上司。どちらのタイプの上司と一緒に働きたいと思いますか?犬にとって、飼い主さんが自分を理解し褒めてくれる、一緒にいれば安心できる存在。それが「犬のリーダー」ではないでしょうか。
犬の順位付けを理解して愛犬の行動をよく見てみましょう!
オオカミの順位付けと犬の行動をしっかり理解して、どんな「犬のリーダー」になるべきなのかを家族で話し合ってみるのも良いかもしれませんね。全ての問題行動と呼ばれる犬の行動を順位付けによるものだと断定するのではなく、なぜ犬がそのような行動を取らざるを得ないのかをしっかり理解して向き合ってもらえたらと思います。
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