【専門医獣医師解説】犬の鍼灸治療は効果がある?椎間板ヘルニアへの効果や注意点を解説

【専門医獣医師解説】犬の鍼灸治療は効果がある?椎間板ヘルニアへの効果や注意点を解説

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ヒトの医療の中で東洋医療に関する関心が年々高まっています。動物医療に目を向けると、全体的に見ればまだまだ少数ですが、鍼灸や漢方を治療に取り入れている動物病院が増えている傾向にあります。なかでも、鍼灸はインターネットや口コミなどで「愛犬の椎間板ヘルニアが改善した」という情報を見かけることが多いのですが、実際のところはいったいどうなのでしょうか?関心はあっても情報そのものがまだまだ決して多くないところもあり、飼い主さんにとって「謎の多い治療法」という印象を持っている方も多いのではないでしょうか? そこで今回は、犬の鍼灸治療の実際とその有効性、さらには治療期間や費用について、ますだ動物クリニック院長で東洋医療科担当の増田が自身の経験を踏まえて解説していきます。

犬の鍼灸治療とは

仰向けの犬

「鍼灸」と一般に呼ばれるこの治療、正確には「鍼(はり)」と「灸(きゅう)」の二つの治療を合わせた言葉です。

鍼はその字の通り、体の必要な箇所に鍼を刺し、その刺激で不調の改善や治療として利用します。一方、灸は「もぐさ」といわれるヨモギを原材料としたものを体に置き、これに火をつけて熱による体の変化を治療や養生に利用します。

これらの歴史は非常に古く、2000年以上前から中国で使用されてきました。実際に鍼灸が行われた記録は、中国の戦国時代の書物に記されています。

その後日本には6世紀ごろ、朝鮮半島を経由して伝来しました。以後明治時代に西洋医学が普及するまでは鍼灸や漢方による治療が主流となり、松尾芭蕉の『奥の細道』では足三里のというツボにお灸をすえて旅の疲れを癒やす文面が記されています。

動物の鍼灸治療

動物に対する鍼灸も実はかなり古い歴史があります。軍馬や農耕に使用する牛や馬といった大動物に治療を施した記録があり、現代の犬や猫に行う鍼灸はこの大動物の治療論が応用されています。日本をはじめ、本場中国や欧米でも鍼灸が用いられています。

ただ、日本の獣医系大学では鍼灸をはじめとした東洋医学は必須科目ではないため、これらの分野を学ぶ機会は限られています。

多くの場合は独学あるいは獣医鍼灸を個人的に勉強して習得しているのが現状です。国内外いくつか獣医学として鍼灸治療を学べる場が提供されています。

なお、鍼灸治療は動物に鍼を刺すことから獣医療行為であるため、施術できるのは原則獣医師のみとなっています。

犬の鍼灸治療の効果

お灸をする犬

鍼灸治療は基本的に東洋医学にのっとった方法で治療することが多いため「弁証論治(べんしょうろんち)」といわれる東洋医学独特の診断および治療手段を用います。

個々の体質や体の状態を表した「証(しょう)」の状態を判断し、それに合わせて適切なツボを選びます。ツボに鍼を打つほか、お灸を据えます。

鉄道に例えますと、体の中に張り巡らされた「経絡(けいらく)」が線路に当たります。「ツボ」はその線路上のあちこちにある駅のようなものです。

「気」や「血(けつ)」が線路を走る鉄道車両で、鉄道が大事なものを津々浦々まで運ぶのと一緒です。この気や血を滞りなく運行できている状態が健康な状態であり、気や血の流れが悪くなった場合はツボを通じてさまざまな刺激を加えることで改善に導きます。

つまり鍼灸治療は体を「ニュートラルな状態」にすることを得意とする療法といえるのかもしれません。

犬の鍼灸治療で効果が期待できる病気

鍼灸治療は、犬のあらゆる疾患に対して何らかの形で応用可能ですが、得意不得意が存在します。

鍼は鎮痛作用があることが確認されていますので、痛みを取り除くのが得意です。筋肉や関節の痛みに対して鍼灸が利用されるのは犬でも同じです。経絡やツボは神経が分布している部分と似た場所にあることが多いため、神経系の機能低下にもよく応用されます。

具体的には犬の椎間板ヘルニアが挙げられます。椎間板ヘルニアは、犬の背骨と背骨の間にある椎間板が変形して、脊髄という重要な神経を圧迫して下半身の機能が低下する病気です。

変形した椎間板が鍼で元に戻ることはありませんが、病変部周辺の神経組織や血流を改善することで、歩けなかった犬が歩けるようになるケースが多くみられます。また、鍼には血流を改善させる効果もありますので、アンチエイジングや健康増進にも寄与します。

一方で、鍼の施術そのものが困難な場合、例えば極度に興奮している場合は安全に施術を行うことができないため不向きといえます。また腫瘍が存在する場合は、近くに鍼を刺すと腫瘍への血流を促進し拡大してしまうことがあるため適さない条件となります。

犬の鍼灸治療のやり方、手順、流れ

鍼を打つ犬

犬の鍼灸の施術の方法は、術者によってかなり異なるようです。従いまして一般的な例で説明しましょう。

鍼灸治療を行う上で最も重要なのは、施術よりも犬の体の状態をしっかりと診ることです。東洋医学の「四診(ししん)」という診断方法で、問題点を確認して適切な部分に鍼を刺していきます。

鍼は刺してそのままにしておく方法以外に、適度な刺激を与えることを目的に、「捻る」「回転する」「鍼にもぐさをつけてお灸を併用する」「鍼を通じて電気を流す」といった方法をとることがあります。

鍼は痛くないのかとよくお尋ねを受けますが、鍼の太さを注射針と比較すると非常に細いのがよくわかると思います。

注射針と鍼灸用鍼
写真上:注射針(23G:径0.63mm 針長16mm)、下:鍼灸用鍼(2番1寸:径0.20mm 針長30mm)

1回の施術時間は20分~60分が平均で、これを週に数回から1カ月に1回のペースで行います。特に治療初期は施術の間隔を短くし、効果的な治療を行います。

例えば椎間板ヘルニアの場合、筆者はおおよそ1カ月以内に歩けるところまで導けるかを念頭に置いています。病院によっては、特に治療初期は入院して集中的に施術を行う場合もあります。

犬の鍼灸治療の場合、症状が改善しても「養生」を必要とするケースが多くあります。改善後も定期的な鍼灸治療を行うことで再発予防につながります。

犬の鍼灸治療の料金

鍼灸治療に関連する料金はなかなかわかりづらいところがありますよね。これも病院によってさまざまです。

1回の施術に対する料金は3000~1万円と幅広いです。施術に要する時間や施術範囲、使用する鍼の本数などによって細かく料金が異なる場合があります。

鍼灸治療はアニコム損害保険やアイペット損害保険といった一部の会社で保険対象となっていますが、条件として病気やケガの治療を目的とするものに限ります。

治療内容や診療施設によって料金に大きな差がありますので、まず動物病院にご相談されるとよいでしょう。また、鍼灸治療は予約制となっているところが多くありますので、そちらも併せてお問い合わせください。

犬の鍼灸治療と併用される治療法

鍼を打つ犬

鍼灸治療と既存の治療方法との相性が悪いということはありません。実際に筆者は鍼灸と合わせて抗生物質や循環器の薬を処方することがありますし、漢方薬を併用することもあります。

既存の西洋医療と東洋医療は水と油の関係のように思われることがありますが、実際はそうではありません。それぞれの長所を際立たせ、また短所を補い合うことが可能です。

一般に鎮痛剤(痛み止め)は消化器に負担がかかります。飲み薬や注射以外に鍼灸を用いることによって鎮痛剤を使う期間を短縮したり、用量を減らすことも期待できます。

犬の鍼灸治療のよくある質問

当院でよくある鍼灸に関連するご質問をいくつか取り上げてみました。

Q. 鍼灸を行う上で副作用はありますか? A. 大きな副作用はありませんが、施術後に血流が変化することによって疲労感が出る場合があります。

Q. 病気以外の場合、鍼灸は有効ですか? A. 東洋医学では「未病」という、何となく調子が冴えない状態にも効果を示します。ただし、その場合は保険診療対象外となります。

Q. かかりつけの病院と鍼灸治療は併用できますか? A. 原則併用は可能ですが、主治医の先生の方針や考え方もありますので、かかりつけの先生にご相談されるのがよいと思います。

Q. 鍼灸治療は、症状が改善しても続けるべきなのでしょうか? A. 筆者の個人的な見解ですが、椎間板ヘルニアの治療で改善した後、鍼灸治療を継続した例とそうでない例とでは再発率に差が生じました。養生の意味を含めて健康維持のために鍼灸を活用していただくとよいと思います。

犬の鍼灸は病気の治療だけでなく健康維持にも

鍼を打つ犬

犬の鍼灸治療は一般の方にとってまだまだわからないことが多く不安に感じることがあるかと思います。また、東洋医療に比較的よくみられるケースですが、施術者によってその内容が大きく異なりますので、金額や治療期間に開きが生じてしまいがちです。

ただ、鍼灸治療の効果は人間や大動物に行った歴史を含めると非常に長く、実績に基づいた治療であるといえます。

不調に対する治療だけでなく、健康維持や病気になる前の対策として、あるいは現在治療中の病気やケガの補助として、鍼灸治療の可能性はまだまだ大きなものを秘めているのではないでしょうか。

犬の健康にはごはんも大事

PETOKOTO FOODS

犬の食べ物は「エサ」と呼ばれていた時代から、家族の「ごはん」と呼ぶ時代へ変わりました。

私たちと同じように、犬も栄養バランスの良いごはんを食べることで健康を維持することができます。ごはん選びをする際は、以下の2点を気を付けていただくといいでしょう。

1. 総合栄養食を適量与える

犬が必要とする栄養は人間と同じではありません。そこで生まれたのが「総合栄養食」と呼ばれるごはんです。

おやつなど「一般食」や「副食」と呼ばれるごはんだけ食べていると体を壊してしまいますので、「総合栄養食」のごはんを選ぶようにしましょう。

総合栄養食を食べていても与える量が少なければ痩せてしまいますし、多ければ太ってしまいます。パッケージに書かれた食事量は目安ですので、ボディ・コンディション・スコアで「3」の「理想体型」を維持できる量を与えるようにしてください。


2. 添加物の少ない新鮮なごはんを選ぶ

犬のごはんと聞いて「カリカリ」と呼ばれる茶色い豆粒を想像される方も多いと思いますが、正しくは「ドライフード」と呼ばれる加工食品です。

保存しやすく食いつきも良いことから犬のごはんとして一般的になりましたが、高温加熱によって食材本来の栄養が失われ、添加物も多く含まれることから見直しが進んでいます。

そこで生まれたのが素材本来の旨味や香りが楽しめ、余計な添加物も入っていない「フレッシュフード」と呼ばれる新鮮なごはんです。

ペトコトフーズもその一つで、子犬からシニア犬(老犬)まで毎日のごはんにすることができます。もちろん総合栄養食です。

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引用文献