猫の免疫力を高める方法や低下する理由などについて獣医師が解説
免疫とは何でしょうか。「よく分からない」「難しそう」と思われる方が多いのではないでしょうか? 私も実は「難しそう」と感じる1人です。しかし免疫のことを知ると、「感染症やがんから、ペットを守る」「アレルギーを起こしにくくする」「ペットに元気でいてもらう」といった愛猫に良いことがあるのです。今回は猫の免疫を高める方法・食事や、低下してしまう原因などをなないろ動物病院院長の土居が説明させていただきます。
猫の免疫とは
免疫とは、簡単にいうと「体に悪く、自分とは違うもの」を追い出す働きです。具体的には「病原体(※)」と「がん細胞」を追い出します。
免疫は毎日以下のような仕事をして、病原体やがん細胞を追い出しています。
- 体に病原体が入って来ないようにする
- 体に病原体が入ったら、集中攻撃する
- 体の中にがん細胞が出来たら、がん細胞を破壊する
もし免疫がない場合、ちょっとした風邪でも、命を落とすほど危険な状態になります。また、免疫が下がると「感染症(※)」「がん」「アレルギー」にかかりやすくなってしまいます。
※病原体:ウイルス・細菌・寄生虫など「うつるもの」のこと
※感染症:病原体が体に入って増える状態のこと
猫の免疫異常で起こるアレルギーとは
アレルギーは、免疫の異常から起こる状態です。本来なら無害なものに、過剰に攻撃をしてしまいます。その結果、体に害がある状態になります。
アレルギーの中でも、重大なアナフィラキシーショックは命に関わります。例えば、蜂に刺された場合などです。蜂の毒が一度体に入ると、2回目に蜂に刺された時にアナフィラキシーショックで死んでしまうことがあります。
アレルギーの病気には以下のものがあります。
- アトピー性皮膚炎
- 食物アレルギー
- ノミアレルギー
- その他のアレルギー(ほこり、花粉、カビ、他)
食物アレルギー
食べ物に対してアレルギー反応が起こり、痒みや下痢などが起こります。アトピー性皮膚炎
遺伝が関係している、痒みがある皮膚炎です。犬と違い、猫の場合は原因や診断の基準がまだはっきり分かっていません。ノミアレルギー
ノミが寄生した時に、痒みをおこす皮膚炎です。ノミの唾液にアレルギー反応が起こることで起こります。その他のアレルギー(ほこり、花粉、カビ、他)
ノミや食べ物以外が原因となっている、痒みがある皮膚炎です。まだ詳しいことが分かっていません。猫の免疫異常で起こる病気について
体を守る力が弱ることで、病原体が体の中に入り、増えていきます。また自分の細胞を、「自分のものでない」と判断し、攻撃をする免疫異常の病気も起こります。その中で気をつけたい病気は以下などがあります。
- 猫エイズ
- 猫白血病
- 炎症性腸疾患(IBD)
猫エイズ
猫エイズウイルスに感染することでこの病気になります。免疫力が低下し、体を守る力が弱っていきます。猫白血病
猫白血病ウイルスに感染することで、この病気になります。免疫力が低下し、体を守る力が弱っていきます。炎症性腸疾患(IBD)
原因ははっきり分かっていませんが、免疫の異常が疑われています。腸が荒れて腸炎や下痢が起こります。猫の免疫が下がってしまう要因
免疫が下がってしまう要因としては以下などが挙げられます。
- 加齢
- 栄養や腸内バランスが崩れる
- 病気や薬の副作用
- ストレス
- 運動不足・冷え
- 空気の乾燥
- 環境汚染
- その他
加齢
年をとると、免疫細胞を作る能力が落ちます。栄養バランスが崩れた食事
免疫細胞を作るためには材料が必要です。具体的には、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどが材料となります。栄養バランスが崩れると、免疫細胞を作る材料が不足します。また、腸内環境も崩れます。食べ物には、有害な病原体がついていることがあります。腸内環境が崩れると、腸の働きが落ちて、病原体が体の中に侵入することを防げなくなります。
病気や薬の副作用
病気になったり、免疫を押さえる薬を使ったときには、免疫が充分に働けなくなります。ストレス
ストレスを受けると、脳からストレスに関係したホルモンが出て、免疫細胞の働きを低下させます。運動不足・冷え
免疫細胞は血液に含まれています。運動不足・冷えなどで血液の流れが悪くなると免疫細胞を、体の色々な場所に届けにくくなります。空気の乾燥
空気が乾燥すると、眼・鼻・口が渇き、病原体の侵入を防ぐ働きが下がります。また、ウイルスは乾燥を好むので、ウイルスにとって快適な環境になります。環境汚染
環境汚染物質は、体の中で活性酸素という有害な物質を増やします。活性酸素は体の細胞を傷つけることで、免疫の力を低下させます。その他
ワクチンを射っていない仔猫は、「母猫から譲り受けた免疫力の効果」が切れた後に無防備になります。家の外に出ない猫でも、飼い主さんが病気のウイルスを家に運んでしまうこともあります。猫の免疫力を高める方法
免疫力が下がる理由を踏まえた上で飼い主さんができることについてお話していきたいと思います。大まかに以下の8点が挙げられます。
- 栄養バランスの良い食事
- 腸内環境を整える
- ワクチン、駆虫など感染症の予防をする
- 病気を早く見つけ、早く治療する
- 飼い主さん自身がストレスの少ない生活をする
- 適度な運動、温度
- 適切な湿度
- 添加物、化学物質を少なくする
1.栄養バランスの良い食事
人もそうですが、栄養バランスの良い食事で免疫力の向上を期待できます。具体的には以下の3点になります。- 水分を含んだ食事をとり入れる
- サプリメントで栄養補給をする
- 質の良いフードを与える
ドライフードだけを与えていると身体の中の水分が少なくなりやすいです。猫は脱水になっていても、喉があまり乾きません。
缶詰やレトルトパウチなどのウエットフードに小さじ1杯程度の水を混ぜて、日頃から与えましょう(ドライフードがふやけると嫌がる子が多いので、ドライフードとは別に与えてください)。野菜や肉、魚の茹で汁をスープとして与えることもお勧めです。
注意点
*ネギ類は与えてはいけません。*急に食事内容を変えるとお腹を壊しやすいです。少しずつ切り変えてください。
*健康上の理由で食事の内容を制限している場合は、かかりつけの動物病院の先生にご相談してください。
2.動物用の整腸剤を与える
整腸剤を頼ってみるのも免疫力向上につながる可能性があります。また、「酵素」「ヨーグルト」「サプリメント」はいまだに獣医師でも見解が分かれていますので、一概に良い悪いとは断言ができません。3.ワクチン、駆虫など感染症の予防をする
健康状態が良い時に、ワクチン、ノミ・マダニ駆虫、お腹の虫下しなど感染症の予防をしましょう。4.日頃から健康チェックをする
元気・食欲はあるか、水を飲む量・排泄の量・体重に変わりはないかなどは日頃からチェックしていただき、年1~2回は動物病院で定期健診を受けましょう。5.飼い主さん自身が規則正しい生活を心がけ、ストレスを少なくする
飼い主さん自身が規則正しい生活を心がけ、穏やかな気持ちで愛猫と接するようにしましょう。6.適度な運動、温度
猫の種類、年齢、体調、性格によって理想の運動内容は変わってきます。体温を上げ、血行が良くなると、体中に酸素や栄養素が行き渡りやすくなり、免疫力が高まります(暑い季節は熱中症に注意してください)。7.適切な湿度
乾燥した季節には、洗濯物の部屋干し、加湿器などで湿度を40~60%に保ちましょう。8.添加物、化学物質を少なくする
良質な水を与える(水道水をそのまま与えるのは避け、浄水した水や天然水を与えましょう)。また、洗濯洗剤なども香りつきのものは避けましょう。愛猫に合った対応を
以上、免疫力について、低下する理由や向上させる方法を主にお話させていただきました。しかし、免疫力が低下するのも向上させるのも、猫の種類・年齢・体質などにより変わってきます。
上記すべてに配慮しても、その子に合っていない場合は効果があまり期待できないかもしれません。個別の方法については、かかりつけの動物病院の先生にご相談してみてください。
Spcial Thanks:獣医師として、女性として、 両立を頑張っているあなたと【女性獣医師ネットワーク】
女性獣医師は、獣医師全体の約半数を占めます。しかし、勤務の過酷さから家庭との両立は難しく、家庭のために臨床から離れた方、逆に仕事のために家庭を持つことをためらう方、さらに、そうした先輩の姿に将来の不安を感じる若い方も少なくありません。そこで、女性獣医師の活躍・活動の場を求め、セミナーや求人の情報などを共有するネットワーク作りを考えています。
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