犬にも汗腺がある?犬の体温調節方法などを獣医師が解説
犬は暑さが苦手な動物です。暑いとき、私たち人間は全身に汗をかいて体温調節をしますが、犬は汗をかくのではなく、口を大きく開けてハアハアする「パンティング」という呼吸法で体温調節をしています。とはいえ、汗腺がないわけではありません。犬を含む哺乳類の汗腺には、「アポクリン腺」と「エクリン腺」の2種類があり、それぞれ役割があります。今回は犬の汗腺について、獣医師の真下が解説します。
犬の汗腺の役割
哺乳類の汗腺の模式図
アポクリン腺
アポクリン腺は毛包につながっており、その汗は皮脂と共に毛穴から皮膚表面に出てくるので、白っぽく、すこしべたついています。この汗には体温調節の働きはあまりなく、犬では個体識別や異性にアピールするためのフェロモンに似た、社会的、性的コミュニケーションツールとして機能しています。
エクリン腺
エクリン腺からの汗はほとんどが水でサラサラしています。僅かにアンモニアを含むため、ほのかに臭います。アポクリン腺と違って毛包を経由することなく、皮膚表面に直接分泌され、体温調節機能を担っています。人間は全身にあるエクリン腺で体温調節しますが、犬は体表にアポクリン腺があり、エクリン腺はほぼ肉球周辺にしかないため、これによる体温調節は期待できません。
犬の体温調節法
前述の通り、暑いとき犬は「パンティング」という呼吸で体温調節をしています。
口の粘膜や舌から唾液を蒸発させて、その気化熱を利用して熱を下げているのですが、何しろ面積が少ないので、これはあまり効率の良い方法とはいえません。
あとは毛の薄いお腹部分をひんやりした場所に寝そべってくっつけることで熱を逃がす程度です。つまり犬は一般的に、熱中症のリスクが高く、暑い環境は苦手なのです。
犬の汗腺からの体臭について
アポクリン腺からの汗は、出た時点では臭いはほぼ無いのですが、汗に含まれるタンパク質や酪酸などが皮膚の常在菌に分解されることで、時間と共に独特の臭いに変わってきます。
また、皮脂が酸化し、雑菌が増えることによっても臭いが増加します。これらが、私たちが「犬臭い」と感じる一因となっています。これに加えて「口臭」「耳垢」「肛門腺の臭い」なども加わって、その犬独自の臭いとなります。
ある程度の犬臭さは自然なものなので、あって当然ですが、あまりに被毛がベトベトしていて体臭がキツい場合は、「脂漏症」という皮脂が多く分泌される体質であったり、細菌やダニ、酵母菌による毛包炎や皮膚炎を起こしていたりすることもありますので、一度動物病院に相談しておくと安心です。
皮膚に何かトラブルがあった場合はまずその治療を行い、皮膚に問題が無い場合は、普通にシャンプーで洗ってあげることで、体臭はある程度緩和されるでしょう。
犬の汗腺から汗が多い場合に考えられる病気
まれではありますが、アポクリン腺からの汗の分泌が多すぎる「多汗症」という症状があります。
これは体質で、シュナウザーやポメラニアン、ヨークシャーテリアに起こりやすいといわれており、若いころから症状が現れます。多量の汗により、被毛がサラサラではなく束になってしまいます。
犬の皮膚表面は通常弱酸性ですが、多量の汗によってphがアルカリ性に傾くことで常在菌が増えやすくなり、菌のバランスが崩れ、二次的に皮膚炎や湿疹が起こりやすくなります。
皮膚のphを整え、皮膚炎を予防するために、お風呂に入れてあげるとよいでしょう。多汗症の汗はほとんどが水分なので、皮膚のべたつきはぬるま湯だけでもとれやすいですが、実際はそれに伴って皮膚炎や湿疹ができていることも多いので、その際には、ph調整作用と抗菌作用のある乳酸エチル配合のシャンプーなどがおすすめです。
多汗症は一つの体質なので、沐浴・シャンプーなどである程度緩和されることもありますが、完治は難しいです。シャンプーやストレス対策などで上手くつきあっていくことが大切です。
まとめ
犬の汗腺は、体温調節として機能していない
犬の体温調節は「パンティング」という呼吸で行っている
犬の体臭や汗が気になる場合はシャンプーをしましょう
緊張すると、私たちが手に汗をかくように、犬も肉球に汗をかきます。程度はさまざまですが、診察台に足跡がくっきりつく犬もいます。愛犬の肉球がしっとりしていたら、緊張しているのかもしれません。
また、汗の仕組みからも、犬が体温を下げにくく、暑さが苦手というのがお分かりいただけたと思います。熱中症には人一倍気をつけてあげましょう。
参考文献
- 清水 宏「新しい皮膚科学」第2版,中山書店,2011.
- 伊從 慶太「犬のスキンケアパーフェクトガイド」2018