シニア犬(老犬)に多い病気・症状とは?健康診断や準備の必要性を獣医師が解説
犬とともに暮らすにあたって、将来の介護生活まで見据えて知識を持っておくことは非常に大切です。愛犬がより長く、元気に過ごせるように加齢症状を知り、低下していく身体機能を補いながら、生活の質を保つことを心がけましょう。今回はシニア犬(老犬)に多く見られる病気について、ホームズ動物往診所院長で往診専門獣医師の原野が解説します。
シニア犬(老犬)の目安年齢
人では65~74歳の方を前期高齢者、75歳以上の方を後期高齢者といいますが、犬には 「~歳以上を『高齢犬』とする」といった決まりはありません。目安として、いかが人に換算しておおよそ65歳にあたるサイズ別の年齢です。
- 小型犬:12~13歳
- 中型犬:10~12歳
- 大型犬:8~10歳
ただし、加齢速度は体格や犬種による差だけでなく、個体によっても大きく異なります。
まだ若いから健康診断はしなくていいと考えている方も、中高齢に差し掛かる5~6歳(体格問わず)からは1年に1回、高齢になってからは少なくとも1年に2回は動物病院で定期健診を受けることをおすすめします。
シニア犬(老犬)にみられる 加齢症状
散歩に行きたがらない
足の筋力や体力の低下から、若い頃に比べて積極的に歩く距離が短くなります。<対策>
歩きたがらないからといって散歩をやめると「筋力低下」「関節拘縮(関節の動きが制限される)」「骨量低下」を引き起こし、寝たきりへと進行するため、適度な散歩を継続することが大切です。散歩中は視覚や聴覚、嗅覚などの感覚器を用いる刺激に多く触れるため、脳の活性化にもつながります。ただし、重度の関節炎や椎間板ヘルニアなどが原因で歩けない場合もあるので、定期健診は欠かさず行きましょう。
注意点
季節や天候で散歩の時間帯を検討しましょう
高齢になると体温調節機能が低下するため、夏の暑い時間帯や大雨の日の散歩はできる限り避けるようにしてください。
夏は早朝や夕方、冬は昼頃、雨天の場合には室内運動が良いでしょう。表情や呼吸状態、姿勢などに気を配りながら「息切れする」「足がふらつく」「座って動こうとしない」などが見られたら無理せず休ませてあげてください。
距離ではなく、回数を増やす工夫を
現状の散歩コースの途中、何度も疲れるようなら、1回あたりの距離を短くして回数を増やし、急な坂道や段差のない平坦な道を選びましょう。
足腰が弱い子は体型に合ったハーネスや胴着を用いて転倒しないように支えてあげてください。
高齢になると体温調節機能が低下するため、夏の暑い時間帯や大雨の日の散歩はできる限り避けるようにしてください。
夏は早朝や夕方、冬は昼頃、雨天の場合には室内運動が良いでしょう。表情や呼吸状態、姿勢などに気を配りながら「息切れする」「足がふらつく」「座って動こうとしない」などが見られたら無理せず休ませてあげてください。
距離ではなく、回数を増やす工夫を
現状の散歩コースの途中、何度も疲れるようなら、1回あたりの距離を短くして回数を増やし、急な坂道や段差のない平坦な道を選びましょう。
足腰が弱い子は体型に合ったハーネスや胴着を用いて転倒しないように支えてあげてください。
視力が低下する
目の病気や老化により、視力が低下し、目が白く濁ったり、壁にぶつかることがあります。<シニア犬に多い目の疾患>
- 白内障:水晶体とよばれる本来透明なレンズが白く混濁する病気
- 緑内障:眼球内にある水分(眼房水)の排出障害などで眼圧が上昇し、視神経が圧迫され視力が低下する病気
- 核硬化症:水晶体中心部にある水晶体核が硬化し透明度が低下する病気
- 角膜炎・結膜炎:外傷や細菌感染などで生じる目の表面膜の炎症
<対策>
- 柱や家具にはクッション材をつけ、怪我を防ぐ
- 階段口にフェンスなど設置して転落事故を防ぐ
- 段差をなくし、緩やかな傾斜のスロープを設置する
- 活動範囲にある家具や物の位置を調節し、新しいものを置かない
- 散歩コースを変更する場合には、少しずつ数日間掛けて行う
注意点
壁にぶつかって脳震とうを起こしたり、眼球を傷付けたりすることがあるので注意が必要です。
耳が遠くなる
名前を呼んでも反応しないといった加齢による難聴は、耳の中にある感覚細胞(有毛細胞)の減少、聴神経経路の障害などによって起こります。また、外耳炎により生じた耳垢が物理的に耳道を塞いでいることもあります。
注意点
家族が近付くと急に攻撃的になることがあります。
こういった症状は不安からくると考えられるので、背後から急に近付かず、まず遠目から存在に気付いてもらった後でゆっくりと近付きスキンシップをとるようにしてください。
車が近付いても気付きづらいので、道路付近を散歩する場合には、決してリードは伸ばさないよう注意してください。
こういった症状は不安からくると考えられるので、背後から急に近付かず、まず遠目から存在に気付いてもらった後でゆっくりと近付きスキンシップをとるようにしてください。
車が近付いても気付きづらいので、道路付近を散歩する場合には、決してリードは伸ばさないよう注意してください。
粗相する
シニア犬(老犬)の失禁は「排尿排泄に関わる尿道括約筋や肛門括約筋の筋力低下」「雄犬あれば前立腺肥大」「避妊雌ではホルモンバランスの異常」などが原因で生じます。<対策>
至る所に失禁するようになると、掃除が大変です。さらにそれが毎日となると大きな負担になります。そんな時はオムツが有効です。嫌がってオムツを着けてくれない犬には、徐々に装着時間を増やして慣らしてあげましょう。
注意点
オムツはこまめに変える
オムツを長時間着けっぱなしにしておくと皮膚炎(オムツかぶれ)を起こすので、汚れたら小まめに変えるようにしてあげてください。
陰部付近の毛は、糞尿が付着するようならカットしてあげた方が衛生的です。
尿のチェックを忘れない
シニア犬(老犬)は膀胱炎にもなりやすいため、以下の症状があれば、動物病院に連れて行きましょう。
排泄物チェックも忘れずに
消化管の運動機能や消化液の分泌能力が低下し、消化不良や便秘にもなりやすいので「排泄量は十分か」「便が緩くないか」なども注意して観察するようにしましょう。
オムツを長時間着けっぱなしにしておくと皮膚炎(オムツかぶれ)を起こすので、汚れたら小まめに変えるようにしてあげてください。
陰部付近の毛は、糞尿が付着するようならカットしてあげた方が衛生的です。
尿のチェックを忘れない
シニア犬(老犬)は膀胱炎にもなりやすいため、以下の症状があれば、動物病院に連れて行きましょう。
- 血尿
- 尿が白く濁っている
- 若い頃に比べて臭いがキツイ
- 尿の回数が多い
排泄物チェックも忘れずに
消化管の運動機能や消化液の分泌能力が低下し、消化不良や便秘にもなりやすいので「排泄量は十分か」「便が緩くないか」なども注意して観察するようにしましょう。
脱毛・白髪が生える・毛艶が悪くなる
加齢による「脱毛」「毛色の変化」は、毛母細胞や毛包色素細胞の減少によって生じます。毛艶がなくなることは毛穴から分泌される皮脂の減少によるものです。「内分泌疾患」や「環境変化によるストレス」「栄養不足」でも生じるため、検査・診断が必要です。
<対策>
- 犬用保湿グッズで、皮膚をケアする
- 定期的なブラッシングで血行を良くしてあげる
注意点
加齢によるものですので、本人が気にしていなければ、過剰に気にする必要はありません。かえって保湿しすぎたり過剰にブラッシングすることで愛犬のストレスにつながる可能性があります。
脱毛の場合、脱毛部位の皮膚が荒れていないか確認し、荒れている場合、皮膚病の恐れがあるため動物病院へ連れて行きましょう。
脱毛の場合、脱毛部位の皮膚が荒れていないか確認し、荒れている場合、皮膚病の恐れがあるため動物病院へ連れて行きましょう。
口臭が気になる
犬の口腔疾患は若齢期からも非常に多いですが、高齢になると免疫力が低下するため治りが悪く、食欲不振や誤嚥性肺炎を起こすリスクがあります。<対策>
自宅でできる口腔ケアとして、歯磨きが有効です。嫌がってやらせてくれない犬も多いかと思いますが、犬用の歯磨き粉を舐めさせることから始めて、好んで舐めてくれるようなら、歯ブラシを歯に当てることに慣らしてください。
歯磨きでは、特に奥歯に歯垢が付着しやすいので、前の歯から慣らして時間をかけて奥歯も磨けるようにしましょう。
注意点
人と同様に強過ぎる力で磨くと歯肉を傷付けるので、適当な力を心掛けてください。
無理矢理行おうとすると本気で噛まれますので、無理せず継続することを心掛けましょう。
口腔疾患は若齢でも非常に多いので「高齢になる前から口腔ケアを習慣化しておく」「重度の歯肉炎や歯石付着があるようなら若いうちに治療しておく」ことをおすすめします。
無理矢理行おうとすると本気で噛まれますので、無理せず継続することを心掛けましょう。
口腔疾患は若齢でも非常に多いので「高齢になる前から口腔ケアを習慣化しておく」「重度の歯肉炎や歯石付着があるようなら若いうちに治療しておく」ことをおすすめします。
食後に呼吸が荒くなったり咳をする
食事を飲み込み、胃に運ぶ機能の低下(咳嗽反射や嘔吐反射低下、嚥下筋の筋力低下)などによって、肺に異物や口腔内細菌が入ることで、誤嚥性肺炎を生じている可能性があります。シニア犬(老犬)は治癒力が弱いため誤嚥性肺炎は命に関わります。
<対策>
- 食事を台の上に置き、飲み込みやすくさせる
- 愛犬にとって食べやすいフード(大きさ・硬さ)に変える
注意点
ひどい場合は呼吸困難になり、舌や歯肉が青白くなるチアノーゼを引き起こします。
その場合は、早急な処置が必要になりますので、誤嚥性肺炎を生じさせている恐れがある場合は、重症化する前に動物病院へ連れていきましょう。
その場合は、早急な処置が必要になりますので、誤嚥性肺炎を生じさせている恐れがある場合は、重症化する前に動物病院へ連れていきましょう。
認知症
高齢になると脳の障害や萎縮などにより、記憶力低下を含め複数の認知機能が低下します。<症状>
- しつけた行動ができなくなる
- 排泄場所を間違える
- 昼夜逆転する
- 狭いところに入りたがる
- 同じ場所をぐるぐる回る
- 遠吠え(吠え続ける)・夜鳴き
<対策>
排泄場所を間違える トイレに行きたそうなタイミングを見計らって、トイレの場所まで連れて行きましょう。ただし、トイレのタイミングを見計らうには、食事などの活動時間を規則正しくする必要があります。昼夜逆転する 日中はできるだけ起こして日光浴をさせる。
同じ場所をぐるぐる回る 同じ場所をぐるぐる回り、壁にぶつかったり転倒するようなら、円形サークルを設置するのも一つの手です。
遠吠え・夜鳴き 遠吠えは、排泄や空腹、痛みなどが原因であればそれを取り除いてあげる。特定の原因が見つからず、あまりに吠えがひどい場合には、薬物療法が効くこともあるのでかかりつけの動物病院にてご相談ください。
注意点
適度に遊ばせる
好きな遊びや散歩なども、脳機能の維持に役立つのでできれば継続してください。
飼い主自身のケアも忘れない
度重なる問題行動は介護する家族にとっても心身的な負担となることが少なくありません。
すべて1人で介護しようとせずに、疲れ切る前に、近所の動物病院やペットシッターに相談・預けるなどして、たまには手を抜くことも上手に認知症の動物と付き合っていく上で非常に大事です。
好きな遊びや散歩なども、脳機能の維持に役立つのでできれば継続してください。
飼い主自身のケアも忘れない
度重なる問題行動は介護する家族にとっても心身的な負担となることが少なくありません。
すべて1人で介護しようとせずに、疲れ切る前に、近所の動物病院やペットシッターに相談・預けるなどして、たまには手を抜くことも上手に認知症の動物と付き合っていく上で非常に大事です。
シニア犬(老犬)の注意点
シニア犬(老犬)の加齢症状や病気以外にも、老犬の特徴を踏まえ、飼い主さんに特に気を付けてほしい点を紹介します。
脱水を起こしやすい
老犬は脱水症状を起こしやすくなり、脱水があると「元気消失」「呼吸が早く・荒くなる」「発熱」などの症状が見られます。重度の脱水だと昏睡状態になるので注意が必要です。さらに嘔吐や下痢があると水分が急激に失われるので頻回にみられるようならすぐに動物病院に連れていってあげてください。
脱水では皮膚が乾燥し滑らかさを失って硬くなり皮膚のバリア機能が低下するため、皮膚炎を容易に起こします。寝たきりの子では褥瘡(床ずれ)の原因にもなります。
体温調節機能が低下する
「暑い」もしくは「寒い」環境では老犬が快適に過ごせるように環境整備してあげる必要があります。<暑さ対策>
- 冷房を使用する(設定温度に注意)
- 日中は日陰で風通しの良い場所でも過ごせるようにする
- 家にいる時や散歩中はいつでも新鮮な水を飲めるようにしておく
<寒さ対策>
- 日中は日当たりの良い場所で過ごせるようにする
- 寝床に毛布を入れる
- 暖房器具を使用する
- 加湿器などを用いて湿度を50〜60%程度に保つようにする
感染症にかかりやすい
免疫機能に関わる臓器である骨髄や胸腺の機能が低下するため、細菌やウイルスなどに対する感染リスクが高まり「口内炎」「肺炎」「胃腸炎」「膀胱炎」「皮膚炎」などが生じやすくなります。<対策>
- 栄養バランスのとれた十分な食事を摂る
- 体や生活環境を清潔を保つ
- 口腔内は歯磨き、陰部は汚れていればぬるま湯とガーゼなどで優しく拭く
まとめ
シニア犬になると、加齢症状が出るようになります
加齢症状に合わせた対策を心がけましょう
高齢に差し掛かったら少なくとも1年に2回は定期健診を
若齢のうちから将来を危惧してバリアフリーにする必要はまったくありませんが、高齢に近付き加齢症状がみられるようになったら、少しずつ先回りして準備することが大切です。
シニア犬(老犬)はここで述べたような加齢症状と合わせて複数の疾患を持っている場合も多く、それらが絡み合うため症状や経過が個体ごとに大きく異なります。
加齢症状が複合して病的経過をたどることもあるので、高齢に差し掛かったら少なくとも1年に2回は定期健診を受けるようにしましょう。