犬の湿疹|考えられる原因や種類ごとの対処法を獣医師が解説
犬の湿疹は皮膚にできる発疹のうち痒みやヒリヒリ感を伴う可逆的な炎症のことで、脱毛やフケ、化膿を伴うことが少なくありません。飲み薬や塗り薬、シャンプーなどで痒みをコントロールして悪化を防ぎます。何かしらのアレルギーが原因であることが多く、赤いできものがあっても痒がらない場合とは区別されます。今回は犬の湿疹について、獣医師の佐藤が解説します。
犬の湿疹とは
犬の湿疹(しっしん)は、皮膚にできる発疹(ほっしん)のうち痒みやヒリヒリ感を伴う炎症のことで、皮膚炎とも呼ばれます。一般的に湿疹と呼ばれるできものは「原発疹(げんぱつしん)」の一種で、原発疹が悪化したものは「続発疹(ぞくはつしん)」と呼ばれます。
原発疹は主に「丘疹(きゅうしん)」「水疱(すいほう)」「膿胞(のうほう)」「紅斑(こうはん)」の4つがあります。それらが悪化して赤くただれると「びらん」や「潰瘍」、「痂皮(かひ、いわゆるかさぶた)」といった続発疹になります。
発疹の種類 | 主な症状 | |
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原発疹 | 丘疹 | 皮膚が赤く盛り上がった状態で、いわゆる「赤いできもの」 |
水疱 | 皮膚に水分が溜まって水ぶくれになっているもの | |
膿胞 | 水疱に膿が溜まって黄色く濁っているもの | |
紅斑 | 皮膚に盛り上がりはなく、色だけ赤く変化したもの | |
続発疹 | びらん | 赤くただれた状態で、深くなると「潰瘍」 |
痂皮 | いわゆる「かさぶた」 |
犬はしばしば自分で掻いたり、舐めたり、噛んだりして悪化させてしまうことから、飼い主さんが気づいたときには皮膚が赤くただれたり、脱毛や化膿が見られたりすることが少なくありません。そういった急に悪化した状態で現れた湿疹のことは「急性湿疹」もしくは「ホットスポット」と呼ばれることもあります。
犬の湿疹の症状
湿疹の症状は、まず皮膚の強い痒みですが、犬が「痒い」と飼い主さんに訴えてくることはありませんので、愛犬の行動の変化や、皮膚や被毛の変化で湿疹に気づくことになります。湿疹の犬で見られる主な症状は以下の通りです。
行動の変化 | 皮膚を何度も手や足で掻く、舐める、噛む |
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家具や床などに体をこすりつける | |
足で掻いている時に痛がる、鳴く | |
触られるのを嫌がる、もしくは触ると後肢が過剰に掻く行為をする | |
皮膚の変化 | 痒み |
赤み | |
出血 | |
脱毛 | |
膿 | |
フケ | |
傷や腫れ | |
被毛の変化 | 滲み出した体液による湿りや変色 |
出血による変色 |
湿疹ができやすい犬種や季節
湿疹はどの犬種でも起こりますが、皮膚がしわしわになっているブルドッグやパグ、シャーペイ、マスティフなどは皮膚環境が悪化しやすいため湿疹が起きやすい犬種です。湿度が上がると蒸れて細菌が増殖しやすくなることから、梅雨や夏は湿疹が起きやすい季節です。また、アトピー性皮膚炎の好発犬種であるラブラドールレトリバーやウエストハイランドホワイトテリア、ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリアも湿疹が起きやすい犬種と言えます。
※参照:Miller, W.H., et al. 2013. pp. 365-388. Muller and Kirk’s Small animal Dermatology 7th ed, Elsevier, St Louis.
犬の湿疹の原因
犬の湿疹として考えられる原因や症状、治療法を以下にまとめました。
膿皮症 | 症状 | 免疫力や皮膚のバリア機能の低下によって細菌感染が起こり、湿疹や皮膚の赤み、脱毛、フケなどが見られる。 |
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治療法 | 抗生物質の投与やシャンプー療法など。 | |
アトピー性皮膚炎 | 症状 | アレルギー反応によって痒みや発疹、皮膚の赤み、脱毛が起こり、犬が舐めたり噛んだりすることで二次感染を起こしやすい。 |
治療法 | 抗ヒスタミン剤やステロイド、免疫抑制剤、インターフェロン、減感作療法、シャンプー療法などで痒みをコントロールしつつ、アレルゲンを除去していく。 | |
細菌以外の感染症(ウイルス、真菌) | 症状 | 皮膚糸状菌症やマラセチア皮膚炎などにより痒みや発疹、皮膚の赤み、脱毛、フケなどが起こり、犬が舐めたり噛んだりすることで二次感染を起こしやすい。 |
治療法 | 原因ごとに抗生物質や抗真菌薬の投与、シャンプー療法など。 | |
寄生虫感染(ノミ、ダニ) | 症状 | ノミアレルギーや疥癬(ヒゼンダニ症)などにより痒みや発疹、皮膚の赤み、脱毛、フケなどが起こり、犬が舐めたり噛んだりすることで二次感染を起こしやすい。 |
治療法 | 原因ごとに駆虫薬や抗ヒスタミン剤、ステロイドの投与、シャンプー療法など。 | |
食事性アレルギー | 症状 | 痒みや皮膚の赤み、下痢、嘔吐などが起こる。 |
治療法 | 食事の変更、除去食試験によるアレルゲンの特定など。ステロイドなど飲み薬、塗り薬で痒みをコントロールする。 | |
接触性アレルギー性皮膚炎 | 症状 | シャンプー剤や薬剤などの化学物質、植物(花粉など)、プラスチックなどの接触により、痒みや皮膚の赤みなどが起こる。 |
治療法 | アレルゲンを除去し、抗ヒスタミン剤やステロイドなど飲み薬、塗り薬で痒みをコントロールする。 |
犬の湿疹の治療法
犬の湿疹は、感染症やアレルギー、刺激物との接触など原因を突き止めてそれを取り除くことが根本的な解決になりますので前項を参考にしてください。ただし、痒みをコントロールするなど犬の生活の質を高め、患部を悪化させないための基本的な対処は変わりません。
1. 患部を清潔に保つ
犬が痒いところ、傷になっているところを気にして掻いたり舐めたりして悪化させてしまう場合は、エリザベスカラーを使用します。患部を清潔に保つため周辺の毛をカットし、体液などで汚れている場合は水で流して消毒を行います。かさぶたができてからも被毛は短い状態を保ち、蒸れて細菌が繁殖しないようにします。薬用シャンプーも有効です。2. 痒みやヒリヒリ感を抑える
強い痒みやヒリヒリ感が犬のストレスになっている場合は、薬剤としては、ステロイドやオクラシチニブなどの内服薬、ステロイドや抗生剤が含有している外用薬を使用します。寄生虫が原因の場合は、薬では痒みなどが治らないので、原因除去を早急に行う必要があります。そのほか、原因により減感作療法やインターフェロン、免疫抑制剤を使用します。薬用シャンプーは痒み止めの効果も期待できます。3. 生活環境を改善する
原因にもよりますが、アレルギーが原因であれば食事を変更したり、刺激物を遠ざけたり、部屋の換気や掃除をしたりすることでアレルゲンを減らし、症状を抑えることにつながります。明確な原因がわからないことも多く、獣医師と相談しながら治療や生活環境の改善を進めます。まとめ
湿疹は痒みやヒリヒリ感を伴う皮膚の炎症
痒みから自傷して二次感染が起こりやすい
痒みをコントロールしつつ原因を取り除く
皮膚や被毛の衛生環境を保つことが大切