野良猫を保護したいときに確認すべき10のこと
野良猫を保護したいと思った時、冷静に確認すべきことがいくつもあります。愛護団体に依頼すれば保護してくれるという簡単な話ではありません。この記事では、野良猫を保護する際に確認すべき重要なポイントについて、捕獲から預かり、ミルクボランティア、譲渡まで個人で猫の保護活動をしている編集部の山本が解説します。
野良猫を保護する前に確認すべき10のこと
確認すべきことを大きく3つに分けて、以下の10項目について詳しく解説します。最初に確認すること | 1. 保護責任について |
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2. 保護に関わる法律 | |
3. どこで猫を保護するか | |
猫の状態・周辺環境 | 4. 耳カットの有無 |
5. 性格や健康状態 | |
6. 餌やりさん、所有者の有無 | |
保護から譲渡まで | 7. 捕獲する方法 |
8. 協力してくれる動物病院探し | |
9. 保護した猫のケア | |
10. 新しい家族の見つけ方 |
1. 保護責任について
最初に考えなければいけないのは「自分が責任を持って保護できるか」という点です。「自分が無理なくできることをする」というのは、保護活動における大原則ですし、逆に「自分が責任を持てない無理な保護はしない」というのも同じく大切な原則です。
自分で保護し、家族に迎える or 里親探しをする場合
残りの注意点を確認して、問題がなければぜひ保護してあげてください。保護団体も自分で迎える or 里親探しをすることを伝えれば、アドバイスをくれたり捕獲器を貸してくれたり、少なからずサポートしてくれると思います。家族に迎える場合は、以下の点を考えておくことも忘れないでください。
- 生活の変化︰結婚や出産などのライフイベント
- 飼育費用︰ごはん代や猫砂、通院・治療費など
- 住居の制約︰ペット可物件に住み続けられるか
- 緊急対応︰病気になった場合、平日でも病院に行けるか
- 家族の理解︰全員の同意を得ているか、アレルギーの心配はないか
- 終生飼養︰猫の一生に責任が持てるか(平均寿命16歳ほど)
- 先住動物との相性︰先住の犬猫や鳥、魚などと同じ家で暮らせるか
誰かに保護をお願いしたい場合
自分は保護できないけど誰かにお願いしたい場合、「保護団体に依頼すれば保護してくれるのでは?」と思うかもしれませんが、多くの保護団体は日々の活動で手一杯になっているため依頼を受けるのは難しいでしょう(余裕ができたら保護したい猫がたくさん控えているのです)。野良猫を保護したいと思った時、まずは
- 自分が責任を持って動けるか
- 経済的・時間的な余裕はあるか
- 里親が見つからない時は自分の家族にできるのか
2. 保護に関わる法律
「狂犬病予防法」によって捕獲する必要がある野良犬と違って、野良猫には「いたら保護しなければいけない」という法律はありません。そのため善意によるボランティアや、「地域猫」のように地域住民が行政や保護団体のサポートを受けてお世話をしている場合があります。野良猫に関わる法律は「動物愛護管理法」で、動物の適正な取り扱いや禁止行為(虐待など)について定めています。野良猫の保護活動を行う際も、怪我をさせたり過度なストレスを与えたりしないように注意するなど、法の趣旨に沿って行動することが求められます。
また、非常にデリケートなのが「所有権」の問題です。飼い主が探している「迷い猫」を自分のペットにしてしまうと遺失物横領、飼い主の許可なく不妊去勢手術を行うと器物損壊(残念ながらペットはモノ扱いです)などの罪に問われる可能性があります。迷い猫の可能性がある場合は警察に届けることをお勧めします。
3. どこで猫を保護するか
保護した野良猫はすぐ家の中で自由にするのではなく、「隔離場所」での「隔離期間」が必要になります。攻撃性が強い子であれば人馴れが必要ですし、懐こい性格の子でも落ち着ける場所を用意してあげることで新しい家がストレスになりにくくなります。また、屋外にいる猫はノミ・ダニがついていたり、疥癬(かいせん)など人間も感染する病気を持っていたりする場合があります。動物病院で健康診断や寄生虫などの対処が終わるまでは、ケージに入れて人の出入りが少ない部屋にいてもらう必要があります。
ケージは部屋に余裕があれば3段が理想ですが、2段でも問題ありません。3段のほうが一番上の段にいる時に余裕を持って一番下のトイレを掃除したり、ごはんや水のお世話ができるのでお薦めです。
3段ケージ
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子猫の場合は柵の間をすり抜けてしまいますので、ワイヤーネットを結束バンドで留めて簡易ケージを自作するといいでしょう。材料は100円均一のお店でそろいますので、1500円ほどで作れると思います。
先住の猫や犬がいる場合はケージがあっても必ず部屋を分けるようにしてください。猫風邪などの病気が感染したり、興味本位で近づき攻撃されて怪我をしたりするリスクがあります。
ここまでが事前に確認すべきことです。「自分が責任を持って保護できそう」「保護する場所も確保できそう」ということであれば、次の項目に進みましょう。
4. 耳カットの有無を確認する
野良猫と言っても猫ごとにさまざまなバックグラウンドを持っています。
- 屋外で生まれ育った猫
- 飼い主さんがいる迷い猫
- 近隣住民に可愛がられている猫
- 地域住民が見守っている地域猫
どんな猫かを知る一つの方法が「耳カットの有無」を見ることです。耳カットは不妊去勢手術の際に、再び捕獲されてしまわないように行われます。特にメス猫はお腹を開けないと不妊手術の有無がわからないので重要です。
猫の耳にカットがある場合、「地域猫」「近隣に保護活動者がいる」「近隣で見守られている」などの可能性が想像できます。いずれにしてもその猫を気にしている近隣の方がいますので、急に保護してしまうとトラブルの原因になります。
5. 猫の性格や健康状態を確認する
保護する猫がどんな性格なのかも事前に確認しておきましょう。以下のポイントを参考にしてください。
- 誰にでも懐く
- 人によって警戒心が変わる
- 他の猫と仲が良い or 悪い
- おやつがあると近づいてくる
- 攻撃的(シャーして逃げる・攻撃してくる)
健康状態も以下のポイントを参考に確認してください。
- 目やに、鼻水の有無(猫風邪などの可能性)
- 脱毛の有無(皮膚病などの可能性)
- 妊娠の有無
6. 餌やりさん、所有者の有無
猫が首輪をしていれば、迷い猫か屋外飼育をしている飼い主がいる可能性が高いことが分かります(猫は屋内飼育しましょう)。しかし、首輪や耳カットがなければ誰かに見守られている猫かどうか外見からは分かりません。その猫と人の関係が分からない状態で保護してしまうと、「私のペットだったのに」と所有権を主張されて後々トラブルになる可能性があります。保護する前に近隣の保護団体や個人の活動者さん、餌やりをされている方に相談しておくことでそういったトラブルを防げます。
実際、筆者の活動する地域でも「お世話している子が急にいなくなった」という話が増えています。「悪意がある連れ去りではないか」と心配して捜索することもありますので、近隣住民とのコミュニケーションを意識していただけるとありがたいです。
ここまでが、保護するか決める前に確認しておきたいことです。保護すると決めても、行動に移す前に確認すべきことがありますので、以下の項目も確認してください。
7. 捕獲する方法
懐いている猫であれば「そのまま家に入ってきた」「大人しくキャリーに入ってくれた」というケースもありますが、生後数カ月以降の野良猫は警戒心が強く簡単には捕まらない子がほとんどです。そこで保護活動者が使うのが「捕獲器」です。おやつなどにおびき寄せられて中に入り、踏み板を踏んでしまうと扉が閉まって出口が塞がれる仕組みになっています。捕獲器はネットで販売されていますが、保護団体や自治体から借りることもできます。
使い方が良くないと自分自身が怪我をしたり(筆者も何度か手を切っています)、猫が怪我をしたりする可能性があります。使い方を教えてもらうためにも、慣れている方に相談することをお勧めします。
筆者は捕獲器を買う前にキャリーを使って捕まえていた時もありました。それほど警戒心が強くない子であれば捕獲器を使わずに捕まえることもできますので、試行錯誤してみてください。ただし、捕獲に失敗すると猫の警戒度が上がって捕まえるのが難しくなります。
あると役立つ捕獲グッズ
捕獲できて何とか家のケージに移すことができても、警戒心・攻撃性が強い子だとそこから病院に連れ出すことが難しくなります。間違ってケージから逃げてしまうと家の中で大暴れしたり、物陰に隠れて出てこなくなったりします。人が寝静まった夜しか出てこない「家庭内野良」になると人馴れも進まず少し厄介な状況です。そこで必須とも言えるグッズが「大きい洗濯ネット」です。棒のようなものでケージの外から覆うようにかけたり、バスタオルで包んでから洗濯ネットをかけたりすることで捕まえることができます。特にバスタオルで全身を包む方法は人も猫も怪我をしにくくなるためお薦めです。
どうしても捕まえられない場合は、猫用の捕獲網を使うといいでしょう。大暴れする猫には高い練度が求められますが、筆者はケージから飛び出したところでサッと網を出して捕まえたこともあります(その子も今は里親さんの家で幸せに暮らしています)。
動物捕獲網「CATch(キャッチ)」
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8. 協力してくれる動物病院探し
猫を捕まえることができたら動物病院に連れて行き、感染症がないかの確認、ノミ・ダニや寄生虫の駆除をする必要があります。ただし、感染症のリスクから野良猫を診てくれない動物病院もありますので、事前に相談しておきましょう。野良猫は家庭の猫よりも攻撃性が高く、慣れていない動物病院だと先生や看護師さんに怪我をさせたり、猫に余計なストレスがかかったりすることもあります。ベストなのは、野良猫の扱いに慣れている動物病院で診てもらうことです。地域の保護活動者さんや自治体に相談すると、協力的な動物病院を教えてもらえるかもしれません。
9. 保護した猫のケア
保護された野良猫は、新しい環境に対する警戒心からさまざまな反応を示すことがあります。以下は、保護活動を行ってきた筆者の経験も踏まえた保護猫のよくある反応とその対応方法です。
保護猫の典型的な反応
- シャーと威嚇する
- 噛みつく
- 引っ掻く
- 食事や水を拒否する
- 鳴き続ける
- ケージからの脱走や家の破壊
- 体調不調(血尿、膀胱炎など)
元野良の猫がすぐに人馴れすることはまれで、通常は半年から数年の期間を要することが多いです。ごはんを食べてトイレもできるようになれば、それ以上の期待は控えるようにしましょう。時間とともに、猫も人に慣れてくるものです。
食事を拒否する場合
ハンガーストライキが何日も続くと、低血糖のリスクが出てくるため注意が必要です。「ちゅーる」などの嗜好性の高い食品で食欲を促進させることができます。部屋の明るさを調整したり、ケージを毛布で覆うことで、猫の緊張を和らげる効果も期待できます。鳴き続ける場合
基本的には人間が我慢しましょう。ただし、夜間の鳴き声は近隣の迷惑となる可能性があるため注意が必要です。「フェリウェイ」などの商品を試してみることで、一部の猫には効果があるかもしれません。フェリウェイ
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猫を人に慣れさせる方法
猫が人馴れするスピードは個体差がありますが、効果的な行動、逆効果となる行動には以下のようなものがあります。効果的な行動
- 人が猫のペースに合わせる
- 攻撃された場合も冷静に対応する
- 「ちゅーる」を手であげ、徐々に距離を縮める
- 猫が落ち着いてからケージを出られるようにする
- 猫が怯えない範囲で声をかける
逆効果の行動
- 人のペースで猫に近づいてしまう
- 猫の威嚇に恐れている態度を見せてしまう
- 人の出入りが多い場所にケージを設置する
- 馴れていないのにケージから出してしまう
筆者の経験では、攻撃的な猫も時間をかけけば人に馴れることができると感じています(100%ではありません)。特にうまくいく里親さんには、「今日はシャーしなかった!」「手についたちゅーるを舐めてくれた!」といった小さな進歩を前向きに捉える点が共通していました。
逆に、引っ掻かれて怖くなってしまった方はその後も仲良く出来ずじまいでした(トライアル中だったため、中止になりました)。元野良猫との付き合いは長期戦の覚悟が必要です。一緒に過ごす日々を楽しんで、猫との関係を築いていきましょう。
10. 新しい家族の見つけ方
保護した猫に新しい家族を見つける場合の探し方と譲渡までのプロセスについて詳しく解説します。家族候補を探す方法
1. 知人や知人の紹介で里親を探す
まず、身近な知り合いに猫を迎えてくれる人がいないか聞いてみましょう。筆者はペトコトの社員に何匹も譲渡しています(笑)。知人からの紹介も同様で、身元が分かっている人のほうが安心して猫を任せられます。2. 保護団体の譲渡会に参加させてもらう
猫の保護団体は個人で活動をしている方々の集まりであることが少なくありません。譲渡会(里親会)に参加させてもらうことで、多くの里親希望者と出会うことができます。筆者も地元の譲渡会で里親さんを見つけることがあります。譲渡会の様子(2016年)
3. 里親募集サイトで探す(非推奨)
個人で利用できる里親募集サイトもありますが、知らない人同士のやり取りはトラブルのリスクがあるためお勧めしません。ただ、他に方法がない場合もあるでしょう。応募してくる人の中には、虐待目的で探している人や自分のキャパシティを超えて迎えようとする人(「アニマルホーダー」と呼びます)などもいます。やり取りの中で金銭トラブルに発展する場合もあります。相手の身元や家族構成、飼育環境をしっかりと把握して、信頼できる人かを確かめましょう。
譲渡の一般的なプロセス
応募があってから正式譲渡までの一般的な流れを紹介します。1. 書類審査
応募者の年齢や住環境(ペット可物件かどうか)、先住動物の有無などを詳細に確認します。60歳以上の方の場合は最後まで猫のお世話ができるかを考慮して判断します。確認すべき基本項目は、保護犬猫のマッチングサイト「OMUSUBI」の会員プロフィールが参考になると思います。2. お見合い
猫と会ったことがない方から里親希望の応募が会った際は、家で直接会ってもらう機会を設けます。知らない人より身元が分かっている人のほうが安心して呼べると思います。タイミングが合えば家ではなく譲渡会に来てもらってお見合いするパターンもあります。お見合いでは猫に会って応募の気持ちを確かめてもらうのはもちろん、書類審査で気になったことを直接本人から確認したり、トライアルに進むにあたって必要なものの準備を伝えたりします。
なお、譲渡会に来た方から応募と書類審査があった際は、お見合いを飛ばしてトライアルに進むことが一般的です。
3.トライアル
トライアルでは、猫と希望者との最終的な相性を確認します。期間は2週間程度から、猫が新しい環境に慣れるまで長期にわたることもあります。トライアルでは希望者の家まで猫を連れて行くため、トライアルを「お届け」と呼ぶこともあります。希望者の家では、中に上がらせてもらって準備に不足はないか、脱走リスクはないか、適切な飼育環境が維持できるかなどをチェックします。猫の飼育が難しいと判断した場合は、トライアルに進ませない場合もあります。トライアルが始まり、何らかの問題で中止したくても猫を戻してもらえないトラブルもありますので、お届けの際の判断はとても重要です。
トライアル中は、LINEなどを使って猫の様子を定期的に報告してもらいます。これは猫の状態を確認するだけでなく、希望者がしっかりコミュニケーションを取れる信頼できる人かを確認するためでもあります。
4. 正式譲渡
トライアルが問題なければ、猫の所有権を新しい家族に移して正式譲渡になります。これらは一般的な流れですが、保護団体や活動者によって細かい部分に違いがあります。残念ながらトラブルを経験して厳しくなった項目もあると思います。そういった知見を参考にしてトラブルを避けるためにも、保護団体や地域の活動者さんに相談することを強く推奨します。
まとめ
自分が責任を持って保護できるかを確認する
近隣に見守っている人がいないかを確認する
保護団体や地域の活動者さんに相談する
譲渡する際は信頼できる希望者か見極める
しかし、保護活動にのめり込み過ぎて自身の生活や健康を犠牲にしてしまうケースもあります。初めに紹介した「自分のペースで、無理なく活動する」という原則を常に心に留めて、一人ひとりができる保護をしましょう。
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