犬の種類で子どもの喘息リスクが異なる!? 海外研究を獣医師が解説
これからお子さんが生まれる家庭や、すでにお子さんがいらっしゃる家庭にとって動物を飼うかどうかは一度は悩むことではないでしょうか。思いやりや命の大切さを学ぶ上で犬や猫を飼うことの意義はわかっていても、アレルギーや喘息の原因にならないかどうか心配されている方も多いかと思います。近年、幼少期に動物を飼うことで逆に喘息などの疾患の罹患リスクを下げるという報告も出てきており、動物を飼うことの情緒的なメリット以外の利点も発見されつつあります。今回は、「1歳未満の赤ちゃんの時に犬を飼うことで喘息のリスクが下がる」という研究報告を獣医師の福地がご紹介します。
そもそも喘息とは
気管支喘息は、ハウスダストやペットのフケ、カビなどのアレルギーによって空気の通り道である気道で炎症が続き、発作的に気道が狭くなることを繰り返す病気です。日本では子供の8〜14%が罹患しているといわれています。原因物質が特定できないこともあります。雌犬の方が喘息を起こしにくい?
スウェーデン・ウプサラ大学のトーブ・フォール(Tove Fall)准教授ら研究チームは、子ども時代にどのような特徴の犬を飼うと喘息の罹患リスクが下がるのか調査しました。その結果、雌犬を飼っている家庭の子どもの方が雄犬を飼っている家庭の子どもよりも喘息の罹患率が低いことが明らかになったのです(オッズ比0.84)。
その理由として研究チームは、雄犬の前立腺組織で主要な犬アレルゲンの一つである「Can f 5」が分泌され、尿中に排泄されるためではないかと考察しています。なお、スウェーデンでは去勢されている犬が少ないらしく、去勢犬での比較はできなかったとのことです。
それでは雄犬を飼っていると喘息になりやすいのでしょうか? 研究チームによると雄犬を飼っている家庭と全く犬を飼っていない家庭での喘息の発生率に統計的な差はなく、雄犬を飼っても飼わなくても喘息の発生率は変わらないと述べています。
調査はスウェーデン国内において2001年1月1日から2004年12月31日までの間に出生登録された子どもうち、生後1年の間に犬を飼っていた家庭の3585人が対象になりました。犬の品種や体格、性別に分け、子どもたちが6歳の時までに喘息を発症した発生率が関連したかどうかについて解析が行われました。
多頭飼いの方が喘息罹患率を下げるかも!
研究チームは、犬を1匹だけ飼っている家庭と2匹以上飼っている家庭での喘息発生率も比較しています。その結果、犬を2匹以上飼っている家庭の子どもは1匹飼っている家庭の子どもに比べて21%も喘息の罹患リスクを下げることが明らかになりました。
また、犬種別で関連を調べたところオールドイングリッシュシープドッグなどの牧羊犬種や牧牛犬種(キャトルドッグ)に分類される犬種が喘息罹患率を低下させました。
また、レトリーバーやフラッシングドッグなどの犬種(イングリッシュスプリンガースパニエル、ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーなど)とトイ・コンパニオン犬種(プードル、マルチーズ、チワワなど)を比較すると、トイ・コンパニオン犬種の方が29%喘息リスクが増加することが示されました。
ただ、単純にトイ・コンパニオン犬種は喘息リスクが高いということではなさそうです。研究チームはその理由について、シープドッグなどは屋外で過ごす時間が長く、トイ・コンパニオン犬種はもともと喘息のアレルゲンの多い都市部の家庭で飼われることが多いのも理由の一つではないかと考察しています。
犬も含めた家族が快適に暮らせるように
今回の研究では、「犬を飼うことが喘息のリスクを下げる」ということからさらに深掘りして、「どのような特徴の犬がより喘息のリスクを下げるのか」という調査により、「雄犬より雌犬」「1匹より多頭飼い」ということが確認されました。品種に関しては犬種によって飼われる場所が都市部や郊外、屋内で過ごす時間なども大幅に変わりますので、今後さらなる検討が必要かと考えます。
ただ、性別によってアレルゲンの産生量に差があり、喘息のリスクも変わるというのには驚きました。今後動物を迎えることを検討している皆さんは、どのような特徴の犬をお迎えするかの参考になれば幸いです。
調査概要
- 調査期間:2001年〜2004年
- 対象者:生後1年以内に犬を飼っている家庭の子供2万3585人
- 調査方法:ロジスティック回帰分析を用いて犬種、犬の数、犬の性別による幼児の喘息との関連を検索
- 詳細:『Dog characteristics and future risk of asthma in children growing up with dogs』
参考文献
- 「気管支ぜんそく」(日本呼吸器学会)
- 「世界の犬 : 9G 愛玩犬」(ジャパンケネルクラブ)