犬の脳炎(髄膜炎)|症状や原因、治療法を獣医師が解説

犬の脳炎(髄膜炎)|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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犬の脳炎は感染性もしくは非感染性の病気で、同じ発作を起こすてんかんとは異なり炎症を伴います。脳炎になると痛みや息が荒いといった症状が見られ、血液検査やMRI/CT検査などで診断しますが多くは原因不明です。早期に治療を行わないと急速に悪化して最期を迎える可能性もあり、薬が効いて治ったように見えても再発が少なくありません。犬の脳炎について、獣医師の佐藤が解説します。

犬の脳炎とは

横たわる犬

脳炎は脳の炎症性疾患で、原因から大きく「感染性」と「非感染性」に分けることができます。多くは原因不明の非感染性で起こるため根本的な治療ができない場合が少なくありません。しかし脳炎は急速に進行する可能性があり、対症療法にはなってしまいますが適切にケアしないと数日で最期を迎えてしまう可能性もあります。

似た病気として「髄膜炎」がありますが、脳炎が脳自体の炎症であるのに対し、髄膜炎は脳を覆っている髄膜が炎症を起こす病気です。両方を合わせて「髄膜脳炎」と呼ぶ場合もあります。

脳炎の種類

脳炎は感染性と非感染性に分かれますが、別の脳疾患によって起こる「二次性」の脳炎の場合もあります。感染性では細菌やウイルス、寄生虫などが原因となり、非感染性では自己免疫の異常が主な原因となります。

分類
原因
感染性 細菌感染
ウイルス感染
寄生虫感染
真菌感染
非感染性 髄膜脳脊髄炎(MUO) 壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎、NME) 原因不明(自己免疫の異常、遺伝性、小麦過敏症など)
肉芽腫性髄膜脳炎(GME)
壊死性白質脳炎(NLE)
ステロイド反応性髄膜炎(SRMA)
好酸球性脳脊髄炎(EosME)
特発性振戦症候群
二次性 脳腫瘍、脳梗塞、脳の損傷など


脳炎になりやすい犬種

脳炎はどの犬種や年齢でもなる可能性がありますが、非感染性で遺伝性の場合は若齢のパグやマルチーズ、チワワ、シーズー、フレンチブルドッグ、ヨークシャーテリアやウェストハイランドホワイトテリアなどのテリア種、プードルで多く見られます。

犬の脳炎の症状

犬

脳炎を発症すると初期症状として「発作」「視力の低下・失明」「運動量の低下」などが見られ、他にも以下のような症状が単一もしくは総合的に見られるようになります。

  • 震え
  • 痙攣
  • 発熱(高熱)
  • 痛み
  • 麻痺
  • 頭の傾き(斜頸)
  • バランス感覚の欠如(物にぶつかる、つまづくなど)
  • ぐるぐる回る
  • 息が荒い・不規則な呼吸
  • 左右の瞳孔異常

これらの症状は脳炎に限らずさまざまな病気で見られます。いずれにしても何かしら問題が起きている可能性がありますので、早めに動物病院へ行くようにしてください。

脳炎とてんかんの違い

てんかんは慢性的(24時間以上あけて2回以上)に発作や痙攣を引き起こす脳の病気で、原因によって「特発性てんかん」「構造的てんかん」の2種類に分けられます。脳炎によって起こるのが「構造的てんかん」です。似た発作として「反応性発作」(非てんかん性発作、誘発性発作)もあります。

特発性てんかんは原因不明で(遺伝性を含む)、「脳の構造」に異常がないのに「脳の機能」に異常が起きて発作が起こります。構造的てんかんは脳炎や血管障害(脳梗塞、脳出血など)の後遺症、水頭症など脳に病気があって発作が起こります。そのため基本的には「脳炎と構造的てんかん」「脳腫瘍と構造的てんかん」のように、何かしらの脳の病気と一緒に診断されます(※原因になった病気が治ったのに発作だけ残ってしまう場合もあります)

反応性発作は「脳に異常がない」のに低血糖や肝臓・腎臓の病気、中毒症状などがきっかけになって発作が起こります。脳以外の問題で起こるため、「てんかん発作」とは区別されます。


犬の脳炎の原因

フレブル

脳炎の原因は感染性と非感染性、そして二次性に分かれますが、最も多いのは非感染性です。

感染性脳炎の原因

感染性脳炎の原因は、細菌感染・ウイルス感染、寄生虫感染、真菌感染の4つが考えられます。地域によって原因となる細菌やウイルスなどの生息状況が異なります。

細菌感染

口や鼻(副鼻腔炎)、耳の炎症、尿路感染、敗血症、感染性心内膜炎、外傷などで増えた細菌が血液によって脳に運ばれ、脳炎につながります。

ウイルス感染

特に多いのは犬ジステンパーウイルスで、他にパルボウイルスやイヌヘルペスウイルス、イヌアデノウイルスなどが血液によって脳に運ばれ、脳炎につながります。

寄生虫感染

マダニが吸血する際に感染するボレリア菌によるライム病や微生物(リケッチア)によるエーリキア症、ダニが吸血する際に感染するフラビウイルスなどのダニ媒介性疾患、トキソプラズマ症などによって脳炎が起こります。

真菌感染

クリプトコッカスという真菌(カビ)によって起こるクリプトコッカス症が重症化すると脳炎につながる場合があります。

非感染性(特発性)脳炎の原因

感染性ではない原因不明の脳炎を特発性脳炎と呼びます。原因不明ではありますが、自己免疫の異常や遺伝性などが関係していると考えられています。小麦過敏症の可能性を指摘する研究もありますので、原因がわからない場合は小麦を使っていない食事への切り替えも選択肢になります。



二次性

厳密には感染性脳炎も二次性ですが、脳腫瘍や脳梗塞、脳の損傷によって脳炎が起きる場合もあります。

犬の脳炎の診断・治療法

黒柴

脳炎の診断は問診から始まり、血液検査や尿検査、神経学的検査、X線(レントゲン)検査、MRI/CT検査、脳脊髄液(CSF)検査などを行います。

問診では症状がいつから現れ、どれくらいの頻度で起きているのか、他に異変はないか、最近お出かけをしてダニに噛まれていないかなどをお聞きします。発作がある場合は、その様子を動画で撮影していただけると診断をスムーズに行うことができます。

MRI/CT検査では脳の炎症をチェックし、腫瘍などの問題が起きていないかを確認します。MRI/CT検査と脳脊髄液検査は実施するために全身麻酔をかけますので同時に行うのが一般的です。確定診断のためには脳生検が必要になりますが、リスクが高く行われることは多くありません。

脳炎の治療法

脳炎の治療法は炎症の原因によって異なります。

感染性脳炎の治療法

感染性脳炎は感染症がかなり進行したタイミングで起こります。抗生物質や抗真菌剤を用いて原因になっている感染症を治療することが脳炎の治療になりますが、治療が難しいケースもあります。対症療法としてステロイドを使って炎症を抑えたり、発作を起こしている場合は抗けいれん薬を使用したりします。

多くの感染症は予防できます。愛犬に長生きしてもらうためにも、定期的な予防接種やノミ・マダニ駆除薬の使用は怠らないようにしましょう。


非感染性脳炎の治療法

髄膜脳脊髄炎(MUO)は原因不明のため根本的な治療法はありません。ステロイドや免疫抑制剤を用いて炎症を軽減させたり、抗けいれん薬で発作をコントロールする対症療法が中心になります。薬が効いて治ったように見えても再発することが多く、多くのケースで継続的な投薬が必要になります。

脳炎の犬のケア

犬

脳炎の症状は犬によって大きく異なり、状態の変化にも対応していかなければいけません。まずは愛犬の様子を日常的に観察して、変化があればかかりつけの獣医師に報告してください。ストレスを少なくするため、外から入ってくる音や光が強い刺激にならないような落ち着いた環境の部屋を用意することも大切です。

発作がある場合は、起きた際に怪我をしないようクッション性の高いマットを床に敷いたり、壁に貼ったり、ぶつかって危ないものを置かないようにしましょう。筋力の低下(筋萎縮)が見られる場合は血流を増やすために手足のマッサージが有効です。獣医師の指示に従って行ってください。

日常的な活動が難しくなってきたら栄養不足や脱水、床ずれに注意してください。トイレを失敗する場合はおむつを利用するなど、生活の質を上げるためのケアが必要になってきます。獣医師に相談しながら状況に応じたケアをしてあげてください。


まとめ

犬
脳炎は脳に炎症が起こる病気
発作や失明、斜頸などが見られる
原因不明の場合が多く対症療法が中心になる
脳炎は脳に炎症が起こる病気で、感染性または非感染性に分類されますが、多くは非感染性です。発作や足のふらつき、失明、斜頸、息が荒くなるといった症状が見られますが、それらはてんかんなどでも見られるため、検査を行って診断します。急速に悪化することも多く、早期に治療を始めることが重要です。