犬の膵炎とは(症状・原因・治療など)|食事療法や予防法を獣医師が解説

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犬の膵炎は、膵臓に炎症が起こる病気です。急性膵炎ではショックや多臓器不全で死に至ることもあり、入院での集中治療が必要になります。今回は犬の膵炎でみられる症状や考えられる原因、ササミ・豆腐など低脂肪食を用いた治療法や予防法について、目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC顧問獣医師の佐藤が解説します。

病名 膵炎(急性膵炎・慢性膵炎)
症状 下痢や嘔吐、腹痛が見られます。痛い腹部を床から遠ざけようと、前足を伸ばして胸を床につけ、お尻を突き上げる「お祈りポーズ」をすることがあります。
原因 突発性もしくは遺伝性がほとんどで、原因は不明です。肥満や高脂肪な食事が遠因になっている場合があります。
危険度 軽度であれば自然治癒もありますが、重症化すると急速に進行して死に至ります。慢性膵炎で膵臓が壊死した場合は生涯にわたっての治療が必要になります。

犬の膵炎とは

ヨークシャーテリア

膵炎(すいえん)は、膵臓に炎症が起こる病気です。膵臓は食べ物を消化するための消化酵素を分泌する臓器ですが、膵炎になるとその消化酵素が膵臓そのものを消化してしまい炎症が起こります。

アニコム『家庭どうぶつ白書2019』によると膵炎は犬の病気として15番目に多く、年間の診療回数が慢性腎臓病に次いで約7回と多いのも特徴です。突然発症し急性に進行することで入院が必要になることも多く、入院理由では2番目に多い病気です。

膵炎は「急性膵炎」と「慢性膵炎」にわかれ、犬の場合は多くが急性膵炎です。

膵臓の役割

膵臓には大きく二つの機能があり、インスリンなどのホルモンを分泌する「内分泌機能」と消化酵素を分泌する「外分泌機能」にわかれます。内分泌機能の異常として「糖尿病」、外分泌機能の異常として「膵炎」が代表的です。

膵臓で分泌される消化酵素には、タンパク質を分解する「トリプシン」、炭水化物を分解する「アミラーゼ」、脂質を分解する「リパーゼ」などがあります。これらが十二指腸に流れ出て食べ物を消化します。

消化酵素は膵臓自体を消化しないよう膵臓内では機能(活性)しないように分泌され、十二指腸に出た際に別の成分と反応して機能します。しかし、消化酵素が膵臓内で機能してしまうと膵臓が消化され、炎症を起こして「膵炎」となるのです。

急性膵炎

急性膵炎は突然発症して炎症が急速に進行する病気で、強い痛みを伴います。軽度であれば自然治癒することも多くありますが、重症化すると合併症を起こし、ショックや多臓器不全によって死に至ることもあります。

慢性膵炎

慢性膵炎では軽度、もしくは無症状の炎症が長期間にわたって起こります。急性期は急性膵炎と同じ症状を起こしますが、急性膵炎に完治の可能性があるのに対し、慢性膵炎は細胞が壊死して硬くなる線維化が起こり、機能が元に戻ることはありません。

膵臓が壊死して機能が低下すると、「膵外分泌不全」につながります。

膵外分泌不全

シェパード

膵外分泌不全は、膵臓から消化酵素が分泌されず、十二指腸で正常な消化ができなくなってしまった状態を指します。慢性膵炎が原因の一つとされており、シェパードの遺伝性疾患としても知られています。急性膵炎では起こりません。

下痢や消化できない脂肪によって黄色便(脂肪便)が見られ、十分な栄養吸収ができないため体重が減少していきます。草や石を食べたり、食糞をしたりすることもあります。


犬の膵炎の症状

犬のお祈りポーズ

症状で膵炎とわかる特徴的なものはありません。初期症状では、元気が無くなる、嘔吐や下痢、腹痛がみられます。痛い腹部を床から遠ざけようと、前足を伸ばして胸を床につけ、お尻を突き上げる「お祈りポーズ」をすることもあります。

そのほか以下のような症状がみられます。

  • 食欲低下
  • 震え
  • 衰弱
  • 脱水
  • よだれ
  • 黄疸

膵炎の末期症状

重症化すると下痢や嘔吐に血が混じることがあり、ぐったりして呼吸困難になります。併発した病気によっても症状は異なります。慢性膵炎では軽度の下痢や嘔吐がみられますが、急性期になると急性膵炎と同じ症状がみられるようになります。

犬の膵炎の予後・致死率

太った犬

軽度の膵炎であれば自然に治ることもあります。急性膵炎は致死率が高く、慢性膵炎では膵外分泌不全を併発してしまうと機能回復できないため、生涯にわたっての治療が必要になります。

重症化すると肝臓や腎臓など周囲の臓器に炎症が広がってしまうことがあります。全身に血栓ができるDIC(播種性血管内凝固:はしゅせいけっかんないぎょうこ)という状態を併発することもあり、多臓器不全で死に至る可能性が高まります。

犬の膵炎の原因

太った犬

人の膵炎ではアルコールや胆石が主な原因ですが、犬の場合は明らかになっていません。ほとんどが特発性ですが、ミニチュアシュナウザーやヨークシャーテリアは遺伝的に脂肪代謝異常を起こしやすく、膵炎の好発犬種として知られています。

環境要因として脂質に関係があると考えられており、以下の条件に当てはまる犬は注意が必要です。

  • 日常的に高脂肪食を食べている
  • ごはんを好きなだけ食べている
  • 人の食べ物を食べている
  • ゴミ箱の残飯をする
  • 肥満
  • いろいろな食事を食べている

糖尿病やクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、甲状腺機能低下症といった内分泌疾患を患っている犬は高中性脂肪血症を併発して発生確率が高くなると考えられています。他のリスク要因として、高カルシウム血症、薬剤なども含まれます。

犬の膵炎の診断方法

抱えられた犬

膵炎に特異的な症状は無いため、飼い主さんがご家庭で判断することはできません。

問診から状態や既往歴を伺い、膵炎を疑う臨床症状がある場合は腹部触診を行ないます。膵炎の可能性があると判断した場合は血液検査や画像診断を行ないます。

血液検査

血液検査ではトリプシンの濃度を調べるTLIやリパーゼ(膵リパーゼ)の濃度を調べるPLIなどがあります。TLIは膵炎で特異的に上昇するものの正常化も早いため、PLIと併用することで信頼性が高まります。最近では院内で確定診断ができるスナップや外注検査を行います。

PLIは信頼性が高いとされていますが膵臓以外の炎症疾患の可能性もあり、急性・慢性の区別もつかないため、必ず画像診断を行ないます。また、慢性で膵臓が壊死している場合はPLIが正常値と出る場合もあります。

画像診断

画像診断では腹部超音波検査(エコー検査)で炎症の状態を確認しますが、事前にレントゲン検査(X線検査)を行うことで腸閉塞など膵炎以外の可能性を除外します。

CT検査では重症度を確認することができますが、全身麻酔のリスクがあります。重症度の変化は体内の炎症反応を調べるCRPを継続して調べることで確認しますが、急性膵炎の場合に限ります。

犬の膵炎の治療方法

柴犬

犬の膵炎は原因が特定できないため直接的な治療法はなく、対症療法が中心になります。軽症であれば自宅で食事療法にできますが、急激に悪化する場合もあるため飼い主さんは注意が必要です。

急性膵炎では死亡率が高く、入院して集中治療を行います。炎症を抑える薬剤などを使用することが多いです。

治療は「輸液」「痛み(疼痛)の管理」「栄養補給」が基本になります。状態に応じて吐き気止め(制吐剤)や感染症対策の抗生物質を使用します。嘔吐や下痢で脱水がある場合は輸液点滴で水分を補い膵臓の血流を確保します。

慢性膵炎の場合も対症療法を行ないます。膵外分泌不全を起こしている場合は副次的にビタミンB12の吸収ができなくなるため皮下点滴で補います。

食事療法

嘔吐がある場合は12〜24時間の絶飲絶食を行ないます。食欲がない場合は痛み止めや吐き気止めで改善を促し、低脂肪の療法食を与えて早期に食事療法を始めます。絶食が長期になる場合はチューブを用いた経管栄養法を行ないます。

食事療法をする際、手作り食は栄養バランスが難しいためオススメしません。獣医師の指示に従って療法食や低脂肪な食材が使われた総合栄養食を与えるようにしてください。低脂肪な食材としては以下が挙げられます。

  • 鶏のササミ
  • 白身魚
  • 豆腐


膵炎の治療費

治療費は病院ごとに異なります。平均値としてアニコム『家庭どうぶつ白書2019』を参考にすると、診療回数の平均が7回で、年間の診療費は平均20万3186円です。高額治療が平均を上げますので、中央値で見ると5万6700円となっています。ただ、重症度によってかなり差がありますので参考値としてください。

犬の膵炎の予防方法

BCS
BCS(ボディコンディションスコア)

犬の膵炎は突発性もしくは遺伝性であることがほとんどで、原因がわからないため確実な予防方法はありません。しかし、リスクを減らすために肥満にならないようなバランスの良い食事と適度な運動を行うことが大切です。

特に高脂肪の食事は避けるようにしてください。すでに肥満になっている場合は早急にダイエットをしましょう。肥満かどうかはBCS(ボディコンディションスコア)という指標で飼い主さんが判断することもできます。犬の4分の1は肥満というデータもありますので、注意してください。


まとめ

太った犬
急性膵炎は突然発症して急速に進行する危険な病気
慢性膵炎は気づきにくく、膵臓は壊死すると回復しない
原因は不明だが肥満や高脂肪食がリスクを高める
直接的な予防法はなく、日々の食事管理が大切
犬の急性膵炎は急速に悪化して死に至る場合がある危険な病気です。症状は下痢や嘔吐など判別しにくく、慢性膵炎の場合は無症状の場合もあるため早期の発見が重要です。食事管理に気をつけ、定期的に血液検査を含む健康診断を行うようにしてください。


参考文献