犬のイボ|悪性腫瘍の特徴や取り方、治療法を獣医師が解説

犬のイボ|悪性腫瘍の特徴や取り方、治療法を獣医師が解説

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イボは皮膚が盛り上がった「できもの」(腫瘤)のことで、自然に取れるウイルス性の良性腫瘍(乳頭腫)からさまざまあり、悪性腫瘍の可能性もあります。黒かったり大きくなったりするできものには注意が必要です。良性でも食事や歩行に支障がある場合は動物病院でイボ取りを行います。今回は犬のイボについて、獣医師の佐藤が解説します。

犬のイボとは

犬

一般的に「イボ」は皮膚が盛り上がった「できもの」(腫瘤)のことを指し、良性の皮膚腫瘍です。人では「尋常性疣贅」(じんじょうせいゆうぜい)犬では「乳頭腫(パピローマ)と呼ばれます

どちらもパピローマウイルスが原因ですが、それぞれウイルスの型が違うため通常は人と犬など異なる動物種間でうつることはありません。犬のイボは口の中や口の周り、目の周りなど顔でよく見られますが、首や足など体のどこにでも発生します。

色は白やピンクで、形状は発生した場所によって微妙に異なります。多くはザラザラした質感でカリフラワーのような形をしています。イボが乳頭腫であればほとんどは自然治癒し、健康に影響ありません


イボの種類

乳頭腫以外にも一般的に「イボ」と呼ばれる「できもの」を以下の表にまとめました。

病気
良性 / 悪性
発生部位
乳頭腫 良性(扁平上皮癌に悪性化することも) まぶたや口腔内、亀頭部
表皮嚢胞(粉瘤) 良性 皮膚
基底細胞腫瘍 良性(基底細胞癌に悪性化することも) 皮膚
脂肪腫 良性(脂肪肉腫の場合は悪性) 腹部、胸部、足、脇の下などさまざまな部位
皮内角化上皮腫 良性 皮膚
皮膚組織球腫 良性 耳、足などあらゆる部位
ケラチン含有性嚢胞 良性 皮膚
毛包腫瘍(毛包上皮腫) 良性 / 悪性 首、背中、胸部、しっぽなど
皮膚肥満細胞腫 良性 / 悪性 皮膚
皮脂腺腫瘍(皮脂腺過形成、皮脂線上皮腫、皮脂腺腫、皮脂腺癌、マイボーム腺腫、肛門周囲腺腫) 良性 / 悪性 皮膚、まぶた、肛門など
リンパ腫 悪性 首、脇の下、内股などリンパ節
扁平上皮癌 悪性 皮膚、口腔内
メラノーマ(黒色腫) 悪性 皮膚、口腔内
皮膚型リンパ腫 悪性 皮膚

犬にイボができる原因

犬

イボの原因は大きくウイルス性とそれ以外に分けられます。

ウイルス性のイボ

イヌパピローマウイルス(CPV:canis familiaris papillomavirus)に感染することで起こります。他の犬との接触で感染することもありますし、ウイルスは環境中での生存能力が高く、寝具やオモチャを通じて感染することもあります。

ウイルスは皮膚表面にある傷口から侵入し、表皮の最下層にある基底細胞に感染するとその上にある角化細胞を活性化させて増殖します。この増殖によって皮膚が盛り上がり、イボの形となります。感染してからイボができるまで1〜2カ月ほどと言われています。

ウイルス性以外のイボ

犬にイボができる原因のほとんどはウイルス性ですが、「遺伝」「老化」「免疫の異常」「皮膚のトラブル」などの可能性もあります。

イボができやすい犬

イボはどんな犬にもできる可能性がありますが、免疫機能が未熟な子犬や免疫機能が低下したシニア犬(老犬)、免疫抑制剤やステロイドを長期使用している犬、アトピー性皮膚炎など皮膚のバリア機能が低下した犬はウイルスが侵入・感染しやすくなり、イボができやすくなります。

シニア犬(老犬)の場合は非ウイルス性のイボができることがあり、体質によってはイボだらけになってしまうこともあります。老化によるものと考えられますが、明確な原因はわかっていません。

犬のイボの危険性

犬

犬のイボのほとんどを占める乳頭腫は基本的に良性で、皮膚の免疫機能がウイルスを攻撃するため1〜2カ月で自然治癒して取れます。ただし、口にできるイボ(口腔乳頭腫)は悪性化して「扁平上皮癌」(へんぺいじょうひがん)に進行する可能性があります。

また、イボのような「できもの」「しこり」はイボではなく悪性腫瘍の可能性もあります。飼い主さんが見た目で良性だと判断すると悪性腫瘍を見過ごしてしまう可能性があり注意が必要です。「できもの」や「しこり」をよく観察し、以下のような特徴が見られる場合は獣医師に相談してください。

  • 色が白やピンクではなく黒や紫
  • 大きさが1cm以上
  • 次第に大きくなる
  • 形が大きく変化する
  • 3カ月たっても治らない・取れない

悪性腫瘍が疑わしい場合、病院では針でサンプルを採取し、顕微鏡で観察する「病理組織検査」を行います。「できもの」や「しこり」ができる悪性腫瘍には「リンパ腫」「肥満細胞腫」「軟部組織肉腫」「乳腺腫瘍」などがあり、口腔内では「扁平上皮癌」や「メラノーマ(悪性黒色腫)」などがあります。


乳腺腫瘍

メスの犬や高齢の犬、小型犬に発症しやすい病気で、悪性の乳腺腫瘍を「乳がん」と言います。悪性の確率は約50%で、リンパ節から胸やお腹へと転移することで命に関わります。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。


メラノーマ(悪性黒色腫)

口にできた黒いできものは「メラノーマ」(悪性黒色腫)という口腔腫瘍の可能性があります。歯肉に発生することが多く、口唇や頬粘膜、まれに舌に発生することもあります。見た目では悪性か判断できないため、早期に診断することが重要です。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。


犬のイボの治療法

犬

乳頭腫や組織球種など自然治癒するものや、表皮嚢胞など二次感染を伴うものなどイボにより治療が異なりますので、診断をした後に、適切な治療を心がけることです。糸で縛ってイボ取りをしようとする飼い主さんもいるようですが、悪性腫瘍を見逃す可能性や失敗して別の問題を起こす可能性がありますのでお勧めしません。

口の中や周りにできたイボや足にできたイボは食事や歩行の障害になることがありますので、抗ウイルス剤の投与や切除手術を行う場合があります。具体的には、以下のようなケースが想定されます。

  • 口の中で数が多い・大きい・場所が悪いなど食事に支障がある
  • 足にできて歩行に支障がある
  • 出血や二次感染などの症状が見られる
  • 免疫抑制剤を使用しているため治りが遅い

外科手術ではメスやレーザーを使った切除、凍結による細胞破壊などが行われます。凍結療法によるイボ取りは麻酔を使用しない場合は5000〜2万円が目安になりますが、イボの場所によっては麻酔が必要な場合もあります。

免疫機能を高める

自然治癒は皮膚の免疫機能によるものですので、ご家庭では免疫力を高めてあげることを意識してください。具体的にはブラッシングやシャンプーで被毛や皮膚を清潔に保ったり、ストレスのない環境を整えたり、新鮮な栄養が摂れるごはんを食べさせてあげたりすることが大切です。

犬のイボを予防する方法

パピローマウイルスは環境中での生存能力が高く、ウイルスとの接触を防ぐこと自体は難しいでしょう。ただし、病気や治療薬によって免疫機能や皮膚のバリア機能が低下している犬は感染しやすい状態です。ドッグランのような他の犬と接触しやすい場所は避けましょう。

また、普段から免疫力を高めておくことはパピローマウイルスに限らず、その他のウイルスや細菌などの感染予防につながります。

まとめ

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犬のイボはさまざまな種類がある
皮膚疾患やシニア犬(老犬)にできやすい
悪性が疑われる場合は動物病院へ
普段から免疫力を高めることが大切
犬のイボは見た目で判断すると悪性の「できもの」や「しこり」を見逃す可能性がありますので、よく観察して疑わしい場合は動物病院で検査してもらうことをお勧めします。いずれにしても、日頃から免疫力を高めることを意識した生活が大切です。