犬と猫の関節のサプリメントは効果がある? 海外研究から獣医師が解説
犬や猫の薬は動物病院で処方されないと購入できませんが、サプリメントであれば飼い主が購入して愛犬・愛猫に与えることができます。関節のサプリメントとして一般的に配合される「コラーゲン」「コンドロイチン」「グルコサミン」「スーパーエッセ(SAM-e)」「オメガⅢ脂肪酸」の成分が、どのような効果があるのかを獣医師の福地が海外研究をもとに解説します。
意外に多い犬・猫の関節疾患
変形性関節症は関節の痛み、運動する際の機能不全を特徴とする疾患です。関節軟骨成分が変化してしまったり、コラーゲンなどの軟骨を構成する成分が失われたり、炎症や刺激によって新しい骨ができてさらに痛みを増やしてしまうこともあります。
アメリカでは1歳以上の成犬の20%が変形性関節症であると推測されています。猫についての情報は多くありませんが、レントゲンを用いた検査から、1歳以上の猫の約20%が変形性関節症を発症しているといわれています。
ゴールデンレトリーバーなどの大型犬をはじめ、トイプードルやヨークシャーテリア、ポメラニアン、コーギーダックスフンド、シュナウザーなどは関節疾患が多くみられ、若い頃からのケア・予防が大切です。
変形性関節症の治療
変形性関節症の治療目標は以下の3つです。- リスクを減少させること
- 臨床症状を抑えること
- 病気の進行を遅らせること
複数の治療手段が必要で、痛みや骨の変化が激しい場合は消炎鎮痛剤などの薬品も重要な選択肢ですが、栄養学的管理や軟骨保護作用のあるサプリメントの投与なども治療の1つになっています。
関節のサプリメントに使用される成分
関節のサプリメントとして販売されているものには、一般的に「コラーゲン」「コンドロイチン」「グルコサミン」「SAM-e」「オメガⅢ脂肪酸」といった成分が配合されています。それぞれの成分がもたらす効果について、海外研究を参照しながら解説します。
コラーゲン
コラーゲンは軟骨を形成する成分の一つです。アメリカ・マーレイ州立大学のM. D'Altilioらによって関節炎の犬に対して非変性Ⅱ型コラーゲンの効果があるかどうかを確かめる研究が行われていますので紹介します。関節炎と診断された20匹の犬を5匹ずつ、以下の4つのグループに分けて「痛み」「脚を触診したときの痛み」「運動したときの足のひきずり」の程度で評価しました。
- グループ1:サプリなどを何も与えられていないグループ
- グループ2:非変性Ⅱ型コラーゲンを与えられたグループ
- グループ3:グルコサミンとコンドロイチンを与えられたグループ
- グループ4:非変性Ⅱ型コラーゲンとグルコサミンとコンドロイチンを与えられたグループ
グループ1の何も与えられていない群では症状の改善はみられませんでしたが、コラーゲン単体で与えられていた群は投与30日で33%が全体的な痛みが減り、脚触診時の痛みは60日で66%が、運動時の跛行は44%が減りました。
もっとも改善効果があったのは120日投与した時で全体の痛みは62%、触診時の痛みは91%、運動時の跛行は78%で減っていました。
そしてグルコサミン+コンドロイチンのグループ3よりも、コラーゲン+グルコサミン+コンドロイチンのグループ4の方が痛みが57%、触診ときの痛みが53%、運動時の跛行が53%に減ったとのことです。
投与中止期間を設けるといずれのグループも痛みを再発してしまったものの、血液検査では肝臓と腎臓を評価する項目を測っていましたが、いずれのグループも副作用はなかったとのことです。
コラーゲン単独の投与でも副作用がなく痛みを減弱することができることから、治療の補助として役立つことが示唆されています。
コンドロイチン
コンドロイチン硫酸は皮膚や軟骨など動物の体内のさまざまな場所にある物質で、特に軟骨に多く含まれています。コンドロイチン硫酸の効果として、以下の4つが挙げられます。- インターロイキン1という炎症に深く関係する物質の産生を減少させる
- 軟骨や関節の組織の細胞に影響を与える細胞分解活性を阻害する
- ヒスタミンという炎症物質を介した炎症を抑制する
- 軟骨を構成する成分であるグリコサミノグリカンやコラーゲンの生成を促進することで軟骨を保護する作用がある
アメリカ・ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのGrainne McCarthyらは関節炎の犬35匹に対してグルコサミンとコンドロイチン配合サプリメントを与えて、14日後、42日後、70日後に痛みと運動時の体重負荷の状態と関節症の状態について評価し、いずれの項目においても投与後70日までに改善効果が見られたと報告しています。
グルコサミン
グルコサミンはコンドロイチンと併せて使われることの多い成分ですが、近年はその関節保護作用が十分あるのかどうかという議論がなされています。昨年、オランダ・エラスムス大学メディカルセンターロッテルダムのRunhaar Jらによって、経口摂取のグルコサミンは膝と股関節の変形性関節症に効果がないとする論文が発表されました。グルコサミンの効果に関する研究が行われた複数の論文を比較した情報として信頼度の高い手法を用いて評価されたものです。
グルコサミンを経口摂取したグループと、飲んでいないグループで比較した5つの試験で変形性関節症の患者計1625人の結果が分析されました。
グルコサミンを経口摂取した群と摂取していない群を変形性関節症の痛みと運動機能改善に関して3カ月後と24カ月後で評価したところ、グルコサミンを飲んでいないグループと痛みや運動機能の改善に関して結果が変わらないと結論付けられましたためです。
SAM-e(S-アデノシルメチオニン)
S-アデノシルメチオニン(以下SAM-e)は、アミノ酸の一種で肝機能を高める作用があり、肝障害がある際の補助的な治療に用いられてきた成分です。近年では、変形性関節症にも痛みの軽減と運動機能制限の改善があるという報告がなされています。なぜ効果があるかははっきりと解明されていませんが、動物を使った研究では軟骨の産生を増加させていることがわかっています。
アメリカ・メリーランド大学のSoeken KLらによって変形性関節症に対して、以下の3つのグループに分けて効果と副作用を検討した11個の研究を分析した報告が発表されました。
- SAM-eが使われた人
- 非ステロイド性消炎剤が使われた人
- 何も与えられなかった人
薬品である非ステロイド性消炎剤と比較すると運動機能の改善は同程度と分析でき、副作用の報告はわずかであったとのことです。
痛みの軽減に関しては薬品である非ステロイド性消炎剤の方が良いとの結果でしたが、何も投与されなかった人と比べると痛みの軽減と運動機能の改善には一定の効果があったとのことです。
オメガⅢ脂肪酸
オメガⅢ脂肪酸を摂取することによって、炎症を起こす作用のある物質の発生に関連するアラキドン酸という物質がオメガⅢ脂肪酸に置き換わることで抗炎症作用を発揮します。獣医領域においても変形性関節症を発症した高齢猫にオメガⅢ脂肪酸を加えた食餌をしたところ、軟骨保護効果があったとする報告があります。
まとめ
関節疾患は意外と多い
若い頃からのケア・予防が大事
予防の選択肢の1つとしてサプリメントがある
サプリメントの成分によって効果が期待できない可能性がある
気になることがあれば獣医師に相談を
今回取り上げた成分は、いずれも薬品ではなくサプリメントとして扱われています。変形性関節症にかかった犬・猫の治療の一つとしてはもちろん、普段からできる予防の一つとしても取り入れても良いかもしれません。
動物病院では、関節疾患の子や気管が悪い子に対してコンドロイチンやオメガⅢ脂肪酸入りのサプリメントを処方することがあります。薬とは違うので、すべての子で効果が出るわけではありませんが、「よく動くようになりました」という感想をいただくことも多いです。
本格的に痛みが強い子には非ステロイド性消炎剤と併用することも多いです。「サプリだけに頼る」「薬はあまり使わない」とは考えず、さまざまな選択肢があることを知っていただき、楽しいペットライフを送る一助になれば幸いです。
サプリメントは由来原材料や加工過程の影響により効果が弱くなることもあります。サプリメントを始める際は信用できるメーカーや、かかりつけの先生に相談して開始してみることをお勧めします。
引用・参考文献
- コラーゲン
- 調査期間:投与開始後30日、60日、120日での痛みと運動機能の評価、投与中止後30日での痛みと運動機能の評価
- 調査方法:関節炎の犬を治療されていないグループ、非変性Ⅱ型コラーゲン与えられたグループ、グルコサミンとコンドロイチン与えられたグループ、非変性Ⅱ型コラーゲンとグルコサミンとコンドロイチン与えられたグループの4群に分けて痛みと運動機能を評価
- 対象:関節炎の犬20匹
- 詳細:『Therapeutic Efficacy and Safety of Undenatured Type II Collagen Singly or in Combination with Glucosamine and Chondroitin in Arthritic Dogs』
- コンドロイチン
- 調査期間:グルコサミンとコンドロチン投与後14日、42日、70日目
- 調査方法:関節炎の犬に対してコンドロイチンとNSAIDs(消炎鎮痛剤)であるカルプロフェンを与えて痛みと運動時の体重負荷の状態と変形性関節症の状態を評価
- 対象者:変形性関節症の犬35匹
- 詳細:『Randomised double-blind, positive-controlled trial to assess the efficacy of glucosamine/chondroitin sulfate for the treatment of dogs with osteoarthritis』
- グルコサミン
- 調査期間:グルコサミン投与開始3カ月と24カ月で痛みと運動機能改善について評価
- 調査方法:対照群とグルコサミンを経口摂取した群に分けて痛みと運動機能改善について評価した5文献
- 対象者:5文献で実験対象となった1625人
- 詳細:『Subgroup analyses of the effectiveness of oral glucosamine for knee and hip osteoarthritis: a systematic review and individual patient data meta-analysis from the OA trial bank』
- SAM-e
- 調査期間:1966年から2000年までに発行された関節や整形外科に関する複数の雑誌において"S-Adenosylmethionine"、"Ademetionine"、"S-adenosyl-L-methionine"、"Adenosyl-l-methionine"、"Smyr"、"Gumbaral"、"Sammy"、"SAM-e'の語を入力し文献を選定
- 調査方法:各文献において対象者を対照群、SAM-e投与群、NSAIDs(消炎鎮痛剤)投与群でランダム化比較試験を行なっている11の文献について結果を統計学的に評価
- 対象者:11の文献で実験対象となっている1740人
- オメガⅢ脂肪酸
- 『小動物の臨床栄養学 第5版』:岩崎利郎、辻本元監訳
第2稿:2020年5月12日 公開
初稿:2019年1月19日 公開
初稿:2019年1月19日 公開