猫にワクチン接種は必要? 種類や時期、副作用のリスクを獣医師が解説
猫の飼い主さんからワクチン接種について「室内飼いでも必要?」「接種するなら種類が多いほうがいい?」「年に1回打接種すべき?」といった質問をもらうことがあります。結論から言うと、室内飼いの猫も定期的なワクチン接種が必要です。感染リスクが低いですが、ゼロではありません。今回は猫のワクチンについて、バンブーペットクリニック院長の藤間が解説します。
猫のワクチンの種類
同じ動物種で推奨されるワクチンのことは「コアワクチン」と呼び、生活環境やライフスタイルによって必要性が異なるワクチンのことを「ノンコアワクチン」と呼びます。
猫のワクチン接種では3種混合がコアワクチンとなり、環境によって、ノンコアワクチンを含めた4種・5種・7種の混合ワクチンが使用されます。
ワクチン対象の病気
3種混合 | 4種混合 | 5種混合 | 7種混合 | 単独 | |
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猫汎白血球減少症 | |||||
猫カリシウイルス感染症(FC-7) | |||||
猫ウイルス性鼻気管炎 | |||||
猫クラミジア感染症 | |||||
猫白血病ウイルス感染症 | |||||
猫カリシウイルス感染症(FC-28・FC-64) | |||||
猫免疫不全ウイルス感染症 | |||||
狂犬病 |
猫汎白血球減少症(猫パルボ)
猫汎白血球減少症ウイルス(FPV:Feline Panleukopenia virus)を原因とする感染症で、伝染力が非常に強く、致死率も高い病気です。猫カリシウイルス感染症(FC-7)
猫カリシウイルス(FCV:Feline Calicivirus)を原因とする伝染力の強い感染症です。くしゃみや鼻水など風邪のような症状がみられることから、「猫風邪」と呼ばれることもあります。口内炎や口の中の腫瘍など、口腔内の症状が多くみられるのが特徴です。
猫カリシウイルスには種類があり、コアワクチン(3種)ではFC-7という種類のウイルスを予防できますが、ノンコアワクチン(7種)ではFC-28、FC-64という種類も対象となります。
猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペス)
猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1:Feline Herpes virus-1)を原因とする伝染力の強い感染症です。こちらもくしゃみや鼻水、結膜炎など風邪のような症状がみられることから「猫風邪」と呼ばれることもあり、猫カリシウイルス感染症との併発もあります。
「猫汎白血球減少症(猫パルボ)」「猫カリシウイルス感染症(FC-7)」「猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペス)」はどの病気も感染力が高く、多頭飼いの場合は特に注意が必要です。
猫クラミジア感染症
クラミドフィラ・フェリス(Chlamydophila felis)を原因とする感染症です。「結膜炎」や「鼻水」「くしゃみ」「咳(気管支炎)」や「肺炎」などの呼吸器症状など引き起こします。
人獣共通感染症としても知られ、ごくまれに人にも感染し、結膜炎を起こす場合があります。
猫白血病ウイルス感染症
猫白血病ウイルス(FeLV:Feline Leukemia virus)を原因とする感染症です。免疫力が低下するため、発症すると二次的にさまざまな病気を引き起こします。ウイルスを根絶することはできず、予後は良くありません。
猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)
猫の環境によっては猫免疫不全ウイルス(FIV:feline immunodeficiency virus)を原因とする「猫免疫不全ウイルス感染症」についても注意が必要です。猫エイズとも呼ばれますが、ヒトに感染することはありません。猫免疫不全ウイルスにはいくつかのタイプがあり、ワクチンが効かないものもあります。
狂犬病
猫にとっても狂犬病はノンコアワクチンの対象となり得ます。日本にいる限りは必要ありませんが、何らかの理由で海外に行く際、接種が必要になる場合があります。国によって異なりますので、それぞれの検疫状況を確認しましょう。
接種すべきワクチン
感染リスクが高い猫の場合
多頭飼いの猫や、1匹の室内飼いでも、散歩や旅行をしたり、ペットホテルに預けたり、外に出る機会が多い場合はリスクが高いと言えます。そのため、ノンコアワクチンを含めた4種・5種・7種の混合ワクチンの接種を検討しましょう。
感染リスクが低い猫の場合
「1匹だけの室内飼いで、外に行くのは病院に行くときだけ」ということであれば、感染リスクは低いと言えるでしょう。ただし、網戸越しでも野良猫から感染する恐れや、病院に連れて行くことを考えると、リスクはゼロではありません。
感染リスクが低い猫の場合は、3種混合が基本となります。
7種のワクチンが安心?
「わからないから全部打てば安心」と考える飼い主さんがいるかもしれませんが、それはおすすめしません。ワクチンを接種することで感染リスクを下げることができる一方で、ワクチン接種自体にもリスクがあるためです。
ただ、コアワクチンは接種するリスクより予防効果のほうが期待できますので、リスクがあるからワクチンは打たないという話にはなりません。
猫のワクチン接種の時期・方法
成猫の場合、ワクチン接種に決められた時期はありませんので1年に1回、もしくは3年に1回など、獣医師に相談の上、任意の時期に接種しましょう。
帰省中にペットホテルに預けるなど、感染リスクが高くなる時期がわかっている場合は、近い時期に打つようにすると予防に効果的です。
子猫の場合
子猫の場合、母乳から受け継いだ免疫力(移行抗体)があるので、生後数週間はワクチン接種をしてもその効果が得られません。どのような方針で打つかは、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
老猫の場合
病気の治療中や体調が良くないなど、ワクチン接種に不安がある場合はかかりつけの獣医師に相談してください。副反応やストレスによる体調悪化の恐れがありますので、感染リスクを考えて総合的に判断します。
猫のワクチン接種の方法
ワクチン接種の時間帯
ワクチンは体調悪化のリスクを考えて午前中に接種しましょう。午後に打ってからワクチンアレルギーが出た場合、動物病院が閉まっている恐れがあるためです。
ワクチン接種位置
注射をする位置は猫の背中や肩甲骨のあたりが多いですが、最近では太ももや後ろ足、場合によってはしっぽに注射することもあります。これは「猫注射部位肉腫」という注射した場所ががん化する症例が知られるようになったからです。
背中や肩甲骨のあたりで細胞ががん化した場合に切除治療が難しくなるため、比較的容易な足やしっぽが選ばれるようになってきました。
猫のワクチン接種の注意点
激しい運動やシャンプーを避ける
ワクチン接種から2、3日は、激しい運動やシャンプーを避けるようにしてください。そのほか、接種後2、3週間は効果が完全になっていない場合があるため、感染リスクがある場所に連れて行くのは避けましょう。
ワクチンの副反応(副作用)・アレルギー
ワクチンは一時的に軽い感染状態にして免疫力をつけるため、猫によっては体調が悪くなったり、場合によってはアナフィラキシーショックを起こすこともあります。そのほか、ワクチン接種の副反応として以下のような症状が見られる場合があります。
- 下痢
- 嘔吐
- 顔の腫れ
- 体のかゆみ
- 呼吸の異常
- 体温低下
- 貧血
- 震え
- 流涎(よだれ)
ワクチン接種後は油断せず、異常はないかよく観察しましょう。
アナフィラキシーショックの場合は、直後に反応が見られます。
まとめ
1匹のみの室内飼いの場合は、感染リスクが低いため、3種混合が基本です
感染リスクの高い猫はノンコアワクチンを含めた混合ワクチンの接種を検討しましょう
ワクチン接種は午前中に行いましょう
ワクチン接種後、異常が見られれば、早急に動物病院へ
ワクチン接種については調査・研究が発展途上の部分もあり、いろいろな情報がある中で飼い主さんが迷うことも少なくないと思います。
基本的には、愛猫の感染リスクが高いか低いかを考え、体調など、何か迷う場合はかかりつけの獣医師に相談しながら接種のタイミングを決めるようにしてください。
参考文献
- 『Is Chlamydophila felis a significant zoonotic pathogen?』(Australian Veterinary Journal)