犬の不整脈|原因と症状、使用する薬についても循環器認定獣医が解説

致命的な状態になることもある不整脈。愛犬が急に倒れたり、失神してしまった場合、飼い主さんは何ができるでしょうか? 不整脈と聞くと「心臓が悪いの?」と思いがちですが、原因は心臓病以外にも存在します。急に症状が出る場合は必ずどこかに原因が存在します。特に心臓は目に見えない臓器なだけに、分かりづらさがあることは間違いありません。不整脈の原因・種類・症状・薬・ケア方法など致命的になる前に知識を身につけておきましょう。普通に記述すると少し難しいことなどもわかりやすくJVCCグループの白金高輪動物病院顧問獣医師の佐藤貴紀が解説いたします。

犬の不整脈とは

心臓の洞房結節について

不整脈はなぜ起こるのでしょう? 心臓に拍動する指令を出しているのは、洞結節 (洞房結節ともいわれます)という心臓の上部にある特殊な心筋細胞です。洞結節は犬の場合は1分間に100回前後の頻度で電気刺激を発生します。その刺激が心房や心室へと次々に伝えられて心筋が収縮するわけです。 正常な心臓は規則正しく「トン・トン・トン」とリズムよく拍動し収縮していますが、洞結節やそれを 伝える刺激伝導系などに不具合が生じ、拍動のリズムに乱れが生じることがあります。それが「脈の乱れ=不整脈」となって現れるのです。

脈が規則的でも異常に速い場合や遅い場合も不整脈と呼びます。不整脈とは、読んで字の如しで脈が不整ということなのです。不整脈に陥ると、ポンプの役目として拡張と収縮を繰り返してうまく血液を運んでたはずの心臓の機能が損なわれ、血液循環に障害が起こって何かしらの異常につながるという訳なのです。

不整脈の分類

不整脈の種類として2つの分類法があります。1つは「心臓の心拍数(脈拍数)」による分類、もう1つは「心臓のどの場所で異常が起きているか」の分類です。


心拍数(脈拍数)の分類

心拍数の分類にはさらに3つに分かれます。1つ目は心拍数が正常心拍数より極端に遅くなる「徐脈」、2つ目は心拍数が正常心拍数より極端に早くなる「頻脈」、最後はリズムが乱れてしまう「期外収縮」(心臓のあらゆる部分が電気を出し、勝手に動こうとしてしまうためリズムが保てなくなる)に分かれます。

心臓の異常が起きている場所による分類

心臓の上部に当たる部分(左心房や右心房近辺)に異常がある場合を「上室性不整脈」、心臓の下部にある心室付近で出た異常が「心室性不整脈」といいます。施設によっては、「致死性の低い不整脈」「致死性の高い不整脈」などという場合もあります。

不整脈の症状

撫でられている犬 不整脈の症状で一番起こりやすいのは、失神です。愛犬が倒れたり、急に横たわってしまったり、力が入らなくなってしまったりすることです。発作という言い方をする方もいるかもしれません。ただ、失神が起きたから不整脈というわけではなく、不整脈のみに起こる特有の症状というわけでもありません。

そして、他に不整脈の症状として、思いつくものはありませんが、他にあるとすると重症化した心臓で起きている不整脈などには咳など付随した症状が起こる可能性は高いです。

犬の心拍数の正常や脈拍の取り方

ここで、犬の心拍数の正常や脈拍の取り方についてご説明します。ただ、心拍数と脈拍数は同じとは限らないということは知っておいてください。心拍数は心臓の拍動数、脈拍数は動脈の拍動数です。心臓が一回拍動することが、動脈に伝わらなければ拍動しないからです。ですので、不整脈をより正確に判断する場合は、心臓の拍動を感知する必要があります。犬の心拍数は基本安静時に計測することが求められます。少しでも興奮したり、運動すると正常値を上回るので注意が必要です。

犬種や年代によって正常な心拍数は異なりますが、以下の通り教科書に記載されています。

  • 成犬:70~160bpm
  • 超大型犬:60~140bpm
  • トイ犬種:180bpmまで
  • 子犬:220bpmまで
※1分間の心拍数をbpmという単位で表します

脈拍の取り方として、一般的なのは人の場合は手首で計測しますが、犬の場合は股の股関節の部分で脈拍を触知するか、心臓そのものの部分がある胸に手をあて計測するやり方があります。できれば、聴診器があればより正確に計測できるでしょう。1分間の回数を数えていると、間違えやすかったり、頻脈であれば数えることが困難な場合もあるため15秒の心拍数を4倍して求める方法が利用されています。




正常な状態でも心拍数が上がる場合

ボール遊び中の犬

正常な状態でも心拍数が上がることがあるため、その理解も深めておきましょう。

興奮、運動後

生理的な現象です。犬は興奮時に心拍数が上がります。個体差はありますが、心拍数が200回を超えることも少なくありません。抱っこしたときに興奮をしていれば間違いないでしょう。最近では白衣高血圧と同様に、動物病院に来た場合に心拍や血圧が上がるといわれています。

痛みがある

何かしらの痛みにより、心拍数が上昇しいつもより心臓がドキドキしている可能性が考えられます。この場合、他の症状と組み合わせて確認が必要です。

熱がある

感染症や炎症、熱中症などにより発熱が見られた場合には心拍数が上昇し、ドキドキしているように感じます。また、抱っこした際に心臓の拍動が強く感じるので心臓病ではないかと言われることがあります。

極端に痩せている

胸壁と言われる胸の部分に筋肉や脂肪がないと、心臓の鼓動を大きく感じることがあります。

洞不整脈(呼吸性不整脈)

洞不整脈

※上が洞調律といって正常な脈拍、下が洞不整脈です


とても重要なのが洞不整脈(呼吸性不整脈)です。人では異常とされている不整脈が犬の場合は生理的に発生する(いわば正常のことがある)といわれています。特殊なケースですので、こちらでご紹介します。不整脈と付いているから病気とは限らないということになります。上述した通り通常は「トン・トン・トン」と一定の割合でリズムよく拍動することが正常とお話ししました。

しかし今回は「トン・トン……トントントン」とリズムが一定でない脈が抱っこした際などに触知されることや、病院でも聴診をした際に聞かれることがあります。これは呼吸周期に伴って脈が早くなったり、遅くなったりするといわれています。比較的多く出現する不整脈です。ただ、上部気道疾患でもこのような脈が聞かれることがあるので、注意しましょう。

犬の不整脈の原因

原因として、人では遺伝や体質、ストレス、睡眠不足、喫煙、カフェイン摂取などが挙げられます。犬の場合はというと、確かに遺伝や体質の可能性は考慮されますが、そのほか生活習慣で上記に挙げられる原因というよりは、心臓病や全身性疾患による不整脈が多く報告されています。そして、不整脈の種類によっても原因はさまざまといえるでしょう。大きく分類した種類別に原因を紹介します。

脈が正常より遅い徐脈の原因

徐脈

脈が正常より遅い徐脈の原因としては以下の5つが主な原因です。

  1. 迷走神経の刺激
  2. 甲状腺機能低下症などの代謝性疾患
  3. 薬剤による副作用
  4. 心臓疾患(遺伝、後天性)
  5. 洞不全症候群

1. 迷走神経の刺激

迷走神経反射ともいわれます。迷走神経は副交感神経と深く関係しているため似た働きがあります。迷走神経が主に支配している器官を、以下に挙げてみましょう。

  • 感覚神経として:外耳道、咽頭、食道を支配
  • 運動神経として:嚥下や反回神経(発生や呼吸)を支配
  • 副交感神経として:内臓(心臓、胃、腸など)の運動を支配

このように分布している神経が、何かしらの原因(激しい痛みや炎症など)で刺激を受けることで心拍数の減少につながります。

2. 甲状腺機能低下症などの代謝性疾患

甲状腺から出るホルモンは血液の流れに乗って全身の細胞に働きかけ、新陳代謝を良くし、骨や神経などに関わり生きていく上で欠かせないホルモンなのです。このホルモンが欠けることで心拍数が減少することがわかっています。

3. 薬剤による副作用

ジゴキシンなどの強心薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬や麻酔薬によって心拍数の減少につながります。

4. 心臓疾患(遺伝、後天性)

さまざまな心臓疾患により、洞房結節が影響を受け心拍数が遅くなります。

5. 洞不全症候群

洞機能不全症候群Ⅲ型

※洞機能不全症候群Ⅲ型


洞不全症候群は、洞房結節の機能障害により脈が遅くなったり止まったりしてしまう状態を指します。重症化すると脈が遅くなったり、早くなったりすることもあります。洞房結節がどういった機能障害を起こしているかによって、3つのタイプに分類されます。
  • Ⅰ群:恒常的な洞徐脈
  • Ⅱ群:洞ブロックまたは洞停止
  • Ⅲ群:徐脈に上室頻脈性不整脈が併発するもの

脈が正常より早い頻脈の原因

頻脈

大きく分けて考えられる原因としては以下の5つです。

  • 興奮や疼痛、発熱:生理的な現象
  • ショック状態や貧血、低酸素症:酸素が少ないため心拍数を増やし補填
  • 心不全:心臓が悪いと血液循環が悪いため、心拍数を早くして補填
  • 敗血症などの全身性疾患:発熱などを伴っていること、生命維持に伴い血圧を上げるため心拍数が上昇
  • 薬剤:交感神経作動薬や迷走神経抑制剤の作用により心拍数が上昇

リズムが乱れる期外収縮

心室性期外収縮

期外収縮は上室性と心室性に分けて紹介します。上室性期外収縮は、心機能が正常な場合でも認められることがあるものの、多くは心房拡大をきたしている場合や、慢性房室弁疾患(僧帽弁閉鎖不全症)、心筋症、容量負荷を生じる先天性心疾患(動脈管開在症や心室中隔欠損など)を有していたり、非心臓疾患(甲状腺機能亢進症、敗血症、血管肉腫などの腫瘍、麻酔などの薬剤)などが挙げられます。

心室性期外収縮では、心臓病による悪化で心不全になった場合をはじめ、先天性心疾患、慢性房室弁疾患、心筋症、心筋炎、感染性心内膜炎、心筋梗塞、心臓腫瘍などが挙げられ、特にボクサーによる不整脈源性右室心筋症、ドーベルマンの拡張型心筋症、シェパードの遺伝性心室頻脈性疾患ではよく見受けられます。また、非心臓性として自律神経の不均衡、低酸素、貧血、敗血症、播種性血管内凝固、胃拡張胃捻転症候群、膵炎などの炎症性疾患、甲状腺疾患、麻酔薬などの心臓毒性を有する薬剤で報告されています。

犬の不整脈の検査

不整脈の検査には主に「心電図検査」(ECG)と「ホルター心電図検査」の2通りがあります。それぞれについて紹介していきます。

心電図検査(ECG)

正常心電図

心電図とは体表面に電極をおき、心臓の電気的な活動を記録したものです。主に5つの波で構成されたPQRSTといった波形を1つと考え、一定のリズムや形状を見ることで心拍数、不整脈を診断します。

ホルター心電図検査

24〜72時間、犬の体に心電計を設置し不整脈の有無を調べます。失神などの症状と不整脈が合致するかどうか、飼い主さんには症状の日時などを記録してもらいます。

犬の不整脈の治療法

不整脈の治療は基礎疾患、いわゆる原因を治療することが重要とされています。そして、治療対象に症状があれば施すことになります。また、突然死のリスクがあるとされる不整脈には早急に治療を施します。リスクが高い主な不整脈は人でも心室頻拍、心室細動、房室ブロックとされ、犬でも同様と言えます。そのほかにも、心房細動、洞不全症候群、上室・心室性期外収縮もリスクが高い不整脈です。

徐脈性不整脈で使用される薬は、アトロピン、イソプロテレノール、テオフィリン、シロスタゾールなどがあります。単純に心拍数が上がりやすくなる薬ではありますが、効果が見られない場合はペースメーカーということになります。ペースメーカーとは、心臓へ機械を設置し電気を一定間隔で発生させる治療です。

頻脈性不整脈には、さまざまな不整脈が混合することもあり診断がとても重要といえます。使用される薬剤は、カルシウム拮抗薬のジルチアゼムや、β遮断薬のアテノロールやカルベジロールなどが一般的です。ほかにはエスモロール、プロプラノロール、ソタロールなども使用されます。

期外収縮には、プロカインアミド、メキシレチン、リドカイン、アミオダロンが使用されますが、使用するタイミングなどかなりの経験が必要といえます。

犬の不整脈の予防法

元気そうな犬

加齢に伴い、徐脈などが見られることがわかっています。関連疾患としては、甲状腺機能低下症などや、犬では少ないとされる冠動脈の異常などが関連しているケース、さらには血圧、心臓の筋肉の疲労などさまざま考えられます。予防法として見てみると、心臓への栄養素(サプリメント)などをとることが重要と言えるでしょう。

また、肥満や高血圧などが起こらないように日々の食生活、さらにはストレスなどをかけない生活環境も整えることが重要です。上述しましたが、基礎疾患が主な原因のことも多いため、早期発見・早期治療を試みて早めの対処が望ましいでしょう。

日頃からの健康管理を

不整脈は、突然死にもつながる怖い病気です。治療しなければ1回の症状発現が取り返しの付かないことになる可能性もあります。目に見えない病気だからこそ、今一度愛犬の心臓を確認してあげてください。

第3稿:2019年1月17日 公開
第2稿:2017年9月10日 公開
初稿:2016年7月15日 公開
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