犬の股関節形成不全|好発犬種や診断・治療・予防法を獣医師が解説

犬の股関節形成不全|好発犬種や診断・治療・予防法を獣医師が解説

大事な家族である愛犬とのお散歩中、「歩き方がなんか……変?」と感じたことはありませんか? 特に大型犬でよく見られるケースですが、そう感じたことがあれば、ひょっとしたら股関節形成不全の可能性があるかもしれません。今回は犬の股関節形成不全の好発犬種や、原因、症状、検査、予防法、治療法まで淀川中央動物病院の獣医師で外科主任の高野が解説します。

犬の股関節形成不全とは

犬の正常な股関節は、骨盤側の寛骨臼(かんこつきゅう)と大腿骨側の大腿骨頭(こっとう)がしっかりと連結した球状関節を形成しています。股関節形成不全では、股関節の発育異常によってこの連結が緩み、不安定になっています。関節炎や形成異常の原因にもなります。

股関節形成不全の好発犬種

ジャーマンシェパードロットワイラーゴールデンレトリーバーラブラドールレトリーバーなどのレトリバー種、セントバーナード等々の大型犬で多く見られます。特に成長期の5~12カ月齢で発症することが多いです。

芝生でおすわりをするラブラドールレトリーバー

犬の股関節形成不全の症状

通常は両側性に発生し、成長期に起立困難・運動不耐性などの症状を示します。オーナーさまが気付きやすい行動の変化としては、主に以下の三つが挙げられます。
  • 両後肢の跛行(はこう:小幅な歩行)
  • 階段の昇り降り、ジャンプがしにくい
  • 両後肢を同時に運ぶうさぎ飛び歩行

犬の股関節形成不全の診断

犬の股関節形成不全では、跛行を主訴に来院されることが多く見られ、以下の検査を行うことで診断を確定します。

1. 歩様検査

歩様検査は股関節形成不全の診断にとても重要です。股関節形成不全に特徴的な歩様は、「Monroe walk」(モンローウォーク)と呼ばれる腰を左右に揺れ動かして歩く歩様です。

股関節形成不全の動物は後肢を地面に着く際に股関節の緩みにより痛みを感じ、体重を反対側に移動させてその痛みを軽減させようとします。しかし、両側性に痛みを示すことが多いため、左右交互に重心を移動させます。その結果、腰を左右に動かす歩様を示すようになるのです。

2. 触診

股関節形成不全の場合、股関節の伸展(しんてん)時に痛みを表すことが多く、以下のような異常が見られます。
  • 可動域(関節が動く範囲)の減少
  • 骨盤周囲の筋委縮

3. レントゲン検査

後肢を左右対称に伸展させて、股関節の観察を行います。股関節のゆるみや変形性関節症を評価していきます(鎮静が必要な場合もあります)。評価の仕方の一例として、実際のレントゲン画像(正常)を見てみましょう。

犬の正常な股関節のレントゲン画像

それぞれ後述しますが、「ノルベルグアングル」や「大腿骨頭被覆面積比」を使って評価していきます。

ノルベルグアングル

ノルベルグアングルとは、両側の大腿骨頭中心を結ぶ線(a)と大腿骨頭中心から寛骨臼頭側縁へ伸ばした線(b)を引き、これらがなす角度のことです。105度以上であれば正常と診断します。

犬のノルベルグアングルの説明

大腿骨頭被覆面積比

大腿骨頭被覆面積比(PC:percentage coverage of the femoral head)とは、大腿骨頭を大腿骨頭の円孤に一致した円と考え、「寛骨臼に覆われている大腿骨頭骨頭面積(a)÷大腿骨頭総面積(b)×100」という計算式で導き出します。50%以上であれば正常と診断します。

犬の大腿骨頭被覆面積比の説明

モーガンライン(Morgan’s Line)

モーガンラインは、尾側の関節包(かんせつほう)付着部の骨棘(こつきょく)が、不透過性の線状陰影として検出されます(初期の変形性関節症所見)。

犬のモーガンライン(Morgan’s Line)の説明

臨床症状を伴う股関節形成不全の正確な診断は、年齢、品種、病歴、身体検査所見、X線検査所見によって行います。類似した臨床症状を示す整形学的疾患が多くあるため、情報を集めてしっかり鑑別する必要があります。必ずしも臨床症状と検査結果が一致しないということを心得ておく必要があります。



犬の股関節形成不全の原因

犬の股関節形成不全の原因には不明な部分が多いものの、遺伝的要素は確認されています。また、過剰な栄養摂取による急速な体重増加と成長によって、支持軟骨組織の発育不均衡が起こることも因子の一つとなります。


犬の股関節形成不全の治療

犬の股関節形成不全は、症状によって治療が大きく異なります。保存療法もしくは内科、外科的療法があり、症状が軽度な場合、まずは安静です。運動制限や食事管理などによる疼痛の軽減や症状の改善は、関節包の線維性増殖によって関節包が強化されることで関節包の捻挫を予防します。安静と併用して、消炎剤・鎮痛剤で痛みをコントロールする場合もあります。

外科的療法

成熟した犬や内科療法に反応しない場合は、外科療法が適応になることがあります。若齢犬では、最大限の効果を得るために早期に骨盤の骨切り術を行うか判断する必要があります。外科的療法としては、以下の三つが挙げられます。
  • 大腿骨頭切除術(大腿骨の先端を切除し、骨盤と大腿骨が直接接触しないようにします)
  • 三点骨盤骨切り術(骨盤の3カ所を切り、大腿骨頭が外れにくい角度に調節します)
  • 股関節全置換術(人工関節に置き換えます)

外科手術後の理学療法

術後の絶対安静による不動化は、筋力の低下・筋萎縮・耐久力の低下を引き起こします。以前は絶対安静が推奨されていましたが、最近ではできるだけ早期にリハビリを開始する必要があると言われています。

外科手術後のリハビリは、患者さんの状態を理解し個別にプログラムを組んで早期に開始します。寒冷療法や接地・負重の誘導を始め、徐々に股関節伸展ストレッチ、四肢で起立・歩行する再教育をしていきます。しかしここで大切なことは、痛みがあった頃の記憶があり、トラウマになってしまっている子もいるということです。少しずつ様子を見ながら行う必要があります。

犬の股関節形成不全の予防

砂浜にいる黒い大型犬

股関節形成不全の予防としては、若齢期の栄養管理が大切です。成長に合わせたフードを与え、栄養の摂りすぎによる肥満を防ぐことも大切です。骨の病気と言ってカルシウムの与えすぎはよくありません。成長段階に合わせたフードではカルシウムの量もしっかり計算されて入っているため、カルシウム不足にあることはありません。

運動管理も必要です。痛みが出るようなら無理な運動を避けます。ただし筋肉の退縮も避けなければならないので、適度な運動やリハビリを行いましょう。自宅に迎え入れるときは、親犬に股関節形成異常がないか確認することも、一生世話をしていくことを考えると大切なことだと思います。


歩き方がおかしいと感じたら動物病院へ

大切な家族と一緒に散歩する時、歩き方がおかしいと感じたとき、「股関節かな?」と一瞬でも頭に浮かべてください。特に大型犬で重要です。おかしいと感じたときは、すぐにかかりつけ医を受診しましょう。歩様検査・身体検査・レントゲン検査を行い、診断してもらうことが大切です。痛みがあるときは、安静や場合によっては内服を併用し、コントロールしていきます。それでも、改善がなければ、外科的療法を選択するか獣医師と相談しましょう。
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