犬の断尾はなぜするの? 理由や代表犬種、禁止している国の状況を紹介

日本において、犬の断尾はブリーダーや獣医師により行われています。犬の断尾とは、犬の尻尾の一部もしくはすべてを切断することです。犬だけでなく、羊や牛などの家畜でも、飼養上の都合や衛生的な背景から断尾が行われることがあります。今回は犬の断尾について、行う理由や歴史的背景、国内外のケースについて紹介します。

犬の断尾をする理由

断尾されていないコーギー
断尾されていないコーギー

犬種の伝統を維持するため

コーギードーベルマンなどは、その「犬種らしさ」を維持するために古くから断尾が行われてきました。

犬の品種認定やドッグショーを開催しているケネルクラブでは、一部の犬種において「犬種標準」として断尾を行うことが決められています。

古くから断尾が行われてきた犬種に関しては、犬種の伝統を維持するために、断尾が行われているのです。

尻尾の損傷を防ぐため

尻尾の怪我など、損傷を防ぐために断尾が行われることもあります。使役動物としての闘犬や狩猟犬、牧羊犬では、噛みちぎられたり踏み潰されたりすることを避けるために断尾が行われていました。

家庭動物としては、多くはありませんが「犬同士で遊んでいるときに尻尾を噛む」「尻尾にできた怪我から病原体が感染しする」「ドアに尻尾をはさむ」などのトラブルを防ぐために断尾を行うブリーダーもいます。

糞便による汚染を防ぐため

一般的に、長毛種は尻尾の毛も長い特徴があります。そのため、糞便で肛門周囲が汚染されやすくなり、不衛生を理由に断尾が行われる場合もあります。

特に、外で飼われている犬においては、尻尾に付着した糞便による汚染からウジ虫が湧いたり、皮膚病につながるケースもまれではありません。

生まれつきの変形をなくすため

数としてはとても少ないですが、生まれつき尻尾が曲がっている子犬もいます。

尻尾が多少曲がっていても、犬の生活に大きな支障はありませんが、外観上の問題から子犬の価値下落、市場に出せない子犬の数を減らすために断尾が行われることがあります。

犬の断尾の歴史的背景

犬

犬の断尾の歴史

犬の断尾は、数世紀前より行われており、ヨーロッパでは1700年代から一般的にみられています。トルコ地方の古代アナトリアにおいては、シープドッグ犬が睡眠中に尻尾で自分の鼻が隠れ、嗅覚能力が低下することを恐れて断尾が行われていたという説もあります。

1700年代後半のイギリスでは、愛玩犬(狩猟犬などのワーキングドッグ以外の犬)に対して課税されていたため、税金対策としてワーキングドッグのシンボルである断尾を施すことが一般的に行われていました。

後に愛玩犬に対する徴税制度は無くなりましたが、尻尾の怪我や衛生面を保つため、犬の断尾は続けられていました。特に、狩猟犬においては茂みや雑木に引っかかることを防ぐ目的で断尾が一般化されていたといわれています。

現代の犬の断尾

近年は狩猟犬の数も減り、実用的な理由から断尾を行うケースも減少しています。

現在は実用面ではなく犬種の伝統として、外見的な「犬種らしさ」を保つために断尾が続けられていることが多いです。犬種らしさを保つことで市場価値を高め、買われやすくするというのも断尾が続けられている理由の一つです。

断尾が一般的とされる犬種の尻尾が長い場合、その犬種らしくないことで買われにくくなるケースも少なくありません。現代も断尾が行われるのは、見た目の良さという理由がほとんどです。

断尾をする代表的な犬種

アメリカンコッカースパニエル
アメリカンコッカースパニエル

牧羊犬として活躍していたウェルシュコーギーペンブロークオールドイングリッシュシープドッグ、狩猟犬として活躍していたアメリカンコッカースパニエルイングリッシュコッカースパニエルなどのスパニエル犬種、プードルなどは断尾が行われる犬種として知られています。

ミニチュアシュナウザー
ミニチュアシュナウザー

ミニチュアシュナウザージャックラッセルテリアなどのテリア犬種も、狩猟犬として活躍していた背景から断尾がされてきました。

現在も警察犬として活躍していることが多いドーベルマンも断尾が施されていることがあります。

犬の断尾をする時期

一般的に、断尾は生後3〜4日の子犬に対して行われています。日齢の経過と同時に神経が発達するため、生後間もない時期に無麻酔で断尾が行われています。

しかし、痛みの感知を抑制する神経経路は生後10日齢以上でないと完全に発達していないという研究報告もあり、科学的に生後3〜4日齢に断尾をすることが適切かどうかは不明なままです。

犬の断尾の2つの方法

ヨークシャーテリア

1. 外科的切断

外科的に尻尾を切断する方法です。ハサミなどの手術器具、また去勢に使われる器具(ハサミに似た形状をしているもの)を用いて、外科的に断尾を行うことが多いです。

2. 壊死を促す切断

締め付けの強い輪ゴムを尻尾につけて、尻尾への血流を遮断させ、壊死をもたらすことにより断尾を行う方法です。

輪ゴムを、生後2〜5日の子犬の尻尾に取り付けることにより、約3日後に尻尾が脱落します。輪ゴムを装着する断尾用の特別な器具も流通しています。

犬の断尾のデメリット

犬

痛みを伴う

断尾は一般的に無麻酔で行われるため、断尾には痛みを伴うことが大きく懸念されています。

ある研究報告では、50匹の子犬を対象に断尾を行ったところ、全匹が断尾の施術中に鳴き、もがくような行動が観察されたと記載されています。このことから、例え日齢の浅い子犬であっても、断尾による痛みを感じるということが考えられています。

断尾の際に生じる瞬間的な痛みだけでなく、施術後の慢性的な障害も懸念されています。断尾後、尻尾や骨盤の筋肉に萎縮や変性がみられたとの報告もあります。

その結果、便失禁や骨盤隔膜の損傷から会陰ヘルニアを生じるリスクが高まります。また、断尾が一般的な犬種においては、後天的な尿失禁が慢性的にみられるとの研究報告もあります。

断尾に関連する健康損害リスクに関する研究は数が少ないため、断尾と健康被害・痛みの相関性は明らかになっていません。

感染症

断尾は痛みだけでなく、感染を伴うリスクも生じます。ある研究報告によると、断尾後のトラブルで一番多かったものは、感染や化膿で、調査対象の4割近くを占めていたという結果があります。

断尾後は、傷口を清潔に保ち、病原体の侵入を防ぐ必要があります。特に、子犬の場合は免疫力が成犬に比べて低いので、より感染が生じるリスクも高まります。

断尾後は感染に対する予防のため、抗生物質を投与することも多いです。物理的な感染予防としては、流水で洗い流すなど、傷口を清潔に保つことが大切です。

世界で見た犬の断尾の状況

犬

動物福祉の観点により断尾に対して否定的な国もあり、中には禁止している国もあります。地域ごとに、主要な国における断尾の状況について紹介します。

ヨーロッパにおける犬の断尾

ヨーロッパでは断尾を禁止している国が多くあります。イギリスでは2006年に断尾が禁止とされましたが、狩猟犬のテリアやスパニエルに対しては例外とされます。

イギリスのように一部の犬種で断尾が認められている国として、ドイツ、デンマーク、オーストリアなどがあります。一方で断尾が禁止されていない国は、フランス、ポルトガル、ハンガリーなどが挙げられます。

ボスニアでは、断尾は獣医師よる施術でないと認められないという制約があります。禁止している国は多いですが、同じヨーロッパでも国ごとに断尾に対する制約は異なります。

アジアにおける犬の断尾

アジア地域は、欧米に比べて断尾を禁止している国が少ないです。日本でも法律による断尾の制約が無いため、ブリーダーや獣医師により一般的に行われています。

しかし、動物福祉の観点から徐々に断尾をしない犬種も増えてきています。韓国、中国やシンガポールなど、他のアジア地域においても断尾を禁止しているアジア地域の国はほとんどありません。

今後は、ヨーロッパなどの状況を踏まえ、断尾に対する制限・禁止を設ける国が増えていくと考えられます。

アメリカにおける犬の断尾

アメリカにおいて断尾は禁止されていません。アメリカンケネルクラブ(AKC)では、一部犬種のスタンダードとして断尾されていることが条件であると決められています。

狩猟犬など古くから断尾が行われていた犬種の伝統を守るため、現在も断尾が続けられていることが背景にあります。しかし、アメリカにおいても動物福祉の観点から断尾を禁止する動きが出始めています。

まとめ

犬の後ろ姿

断尾は伝統・衛生面から行われることが多い
断尾することで痛みや感染症のリスクがある
動物福祉の観点から断尾を禁止する動きも

コーギーミニチュアシュナウザープードルなど日本でもよく見かける犬種の尻尾が短い理由は、生後間も無く断尾が行われているということを知らない方もいるのではないでしょうか。

日本では、断尾を禁止する法律・制約はありませんが、ヨーロッパにおいては、動物福祉の観点から断尾を禁止する国が多くあります。今後も断尾に制約を設ける国が増えていくのは間違いないでしょう。


引用文献

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