犬の腸閉塞|症状や原因、治療法を獣医師が解説
腸閉塞とは、さまざまな原因で腸が詰まった状態のことですが、犬で多いのは異物の誤飲・誤食によるものです。元気がなくなり下痢や嘔吐などの症状が見られたのに一定期間経過して自然に便として排出されることもありますが、検査をしなければ手術が必要かどうかは判断できません。閉塞が長時間に及ぶと敗血症や腹膜炎を起こし、死亡する可能性もあります。犬の腸閉塞について、獣医師の佐藤が解説します。
犬の腸閉塞とは
腸閉塞は、さまざまな原因によって腸が部分的または完全に詰まってしまった状態のことで、犬では原因のほとんどが異物の誤飲・誤食です。閉塞は小腸から大腸まで消化管のどこでも起きる可能性があり、食べ物や水が流れなくなることでさまざまな合併症を引き起こします。緊急度が高く、放置すると数日で死に至る可能性があります。
犬の腸閉塞の症状
腸閉塞の犬では以下のような症状が見られる可能性がありますが、誤飲・誤食が目撃されている場合でない限り、ご家庭で以下の症状から腸閉塞を疑うことは難しいでしょう。いずれにしても、以下のような異変が見られる場合は動物病院へ相談されることをお勧めします。
- 嘔吐・げっぷ
- 下痢
- 食欲不振
- うんちの姿勢はするが出ない
- 腹部を触ると痛がる・攻撃的になる
- 何度も鳴く
- お腹が張る・おならが出る
- 水をよく飲む
- 落ち着きがない
- ぐったりしている
犬の腸閉塞の原因
犬が誤飲・誤食してしまう異物は多岐にわたり、飼い主さんが考えもしなかったものを飲み込むこともあります。タバコや人間の薬など、それ自体が中毒物質の場合もありますので誤飲・誤食には十分に注意してください。誤飲・誤食は子犬に多く、好奇心や食欲が強い若い犬ほど起きやすい傾向にあります。
日用品 | 靴下、ひも、リボン、スプーン、爪楊枝、輪ゴム、トイレシート、歯みがきシート、マスク、手袋、ボタン、ネジ、釘、ペットボトルのキャップ、ビニール袋、パチンコ玉、ジョイントマット、ヘアゴム、アイスの棒、電池、乾燥剤、保冷剤、コイン、紙幣、ティッシュなど |
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おもちゃ | ボール、ロープ、ぬいぐるみなど |
食べ物 | 骨、種(梅干しや桃など)、トウモロコシの芯など |
誤飲・誤食の他にも腸がねじれる「腸捻転」や腸が折り重なってしまう「腸重積」、筋膜が薄くなっている部分から腸が飛び出てしまう「鼠径ヘルニア」、手術後の癒着、寄生虫のまん延、アニサキス症、重度の便秘、重度の腸炎などによって腸閉塞が起こる場合もあります。腸にできた腫瘍で閉塞するケースはシニア犬(老犬)でよく見られます。
犬の腸閉塞の治療法
腸閉塞の原因はさまざまあるため、誤飲・誤食があったか問診したり、お腹が張っていないか、触るのを嫌がらないか触診したり、血液検査や必要に応じてX線(レントゲン)検査、超音波検査、内視鏡検査、CT検査などを行って原因を特定します。確定診断が難しく緊急性が高い場合は、実際にお腹を開いて確認する「試験開腹」を行うこともあります。
異物の誤飲・誤食が原因の場合、大きさや形状によっては自然に便として排出されるのを待つ場合もありますが、完全に詰まって動かない場合はすぐに治療を行わないと腸の細胞が壊死したり、腸が破裂したり穴が空いたり(穿孔)して急速に状態が悪化します。
腸の炎症(腹膜炎)が敗血症に進行して細菌の毒素が全身に回ってしまうとショック状態、多臓器不全になって死に至ります。薬の投与などによって異物を出すことはできませんので、できるだけ早く手術で取り出さなければいけません。
外科手術による異物の摘出
異物を摘出する場合、大きさや形状、詰まっている場所(食道から胃まで)によって体を傷つけずに内視鏡で摘出できる場合もあります。腸閉塞が起きている場合は緊急性が高く、開腹手術で「腸切開」もしくは「腸切除・吻合」を行います。腸切開は腸を開いて異物を摘出する手術で、腸切除は腸ごと摘出する手術です。腸は細胞組織が壊死してしまうと回復することがないため、壊死している箇所を切除して問題のない部分をつなぎあわせる吻合手術を行います。当然、切除のほうが犬にとっての負担が大きくなります。切開で済ますためにも早期発見・早期治療が重要です。
腸閉塞はマッサージで治る?
マッサージは便秘による腸閉塞を予防する方法としては有効ですが、腸閉塞になってからは状態を悪化させる危険がありますのでご家庭で行わないようにしてください。特に自然には流れない大きさや尖った形状の異物を無理に流そうとすると腸管を傷つけてしまう可能性があります。病院で検査した後、腸閉塞の原因が異物であることがわかり、自然に流れそうな大きさ・形状の異物であれば排出を促すために獣医師が状況を確認しながらマッサージを行う場合はあります。
犬の腸閉塞の予防法
愛犬の誤飲・誤食は普段から注意されているとは思いますが、犬は予想もしないものを飲み込んでしまうことが少なくありません。飲み込んでしまいそうなおもちゃやおやつを避け、口にしそうなものを放置しないようにして、怪しい行動をしていないか普段から愛犬をよく見るようにしてください。子犬は好奇心や食欲が強く特に注意が必要です。
家の中だけでなく、散歩中も注意が必要です。地面に落ちているものを飲み込んでしまうこともあるため、拾い食いをさせないようにしてください。「待て」や「離せ」などの指示は最低限できるようにしておきましょう。
まとめ
犬の腸閉塞で多いのは異物の誤飲・誤食
犬は想定外のモノを食べることがある
便と一緒に出せない場合は手術が必須
便として一緒に足せない場合は危険な状態で、時間がたつほど悪化します。誤飲・誤食を目撃したり、いつもと違う様子が見られらたらすぐに動物病院へ行くようにしてください。