犬のドライアイ|症状や原因、治療法を獣医師が解説

犬のドライアイ|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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犬のドライアイ(乾性角結膜炎)は涙腺が何らかの理由で十分な量の涙を作れない状態、または涙の成分バランスが崩れることにより起こります。角膜や結膜が十分にうるおわず、乾燥と炎症が生じます。ドライアイは慢性的な疾患で、放置すると視力の低下や角膜の損傷、失明につながる可能性もあります。症状や原因、治療法について、獣医師の佐藤が解説します。

犬のドライアイとは

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犬のドライアイ(乾性角結膜炎)は何らかの理由で涙腺が十分な量の涙を生成できない状態、または涙の成分バランスが崩れた状態を指します。涙が不足すると、眼球の表面をおおう角膜と結膜が乾燥し、それが体の防御反応(炎症性サイトカイン反応)として炎症を引き起こす可能性があります。

涙は眼球の表面をうるおすだけでなく、細菌やウイルスから眼を守る重要な防御機能も果たします。そのため涙が十分に生成されないと目の防御機能が低下し、感染症のリスクが増加します。この状態が長期間続くと、角膜の損傷や視力の低下、さらには失明につながる可能性があります。


涙の役割

涙を生成できないとなぜ問題が起こるのかを知っていただくため、まずは涙の主な役割を解説します。

1. 目の保護 涙は角膜と結膜をうるおすことで眼球とまぶたがこすれるのを防ぎ、目の表面を清潔に保ちます。涙は水分だけでなく油と粘液成分も含み、それらが蒸発を防いだり眼球の表面に留まるのを助けたりしてくれます。
2. 清潔保持 涙は目の表面に付着したゴミを洗い流し、ゴミが目を刺激したり、感染を引き起こしたりするのを防ぎます。
3. 感染防止 涙に含まれるリゾチームという酵素には殺菌作用があり、目の感染を防ぐ役割を果たします。
4. 栄養供給 涙には目を健康に保つために必要なさまざまなビタミンやミネラルが含まれています。
5. 治癒の促進 涙に含まれる成分が細胞の修復を促進し、角膜についた傷の治癒を早めます。

このように、涙は犬の目の健康を維持するために不可欠な機能を持ちます。それが十分に作れないとさまざまな問題が起こります。ドライアイの症状が見られた場合は、できるだけ早く獣医師に相談することが重要です。

涙やけの原因がドライアイの可能性も

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白い被毛の犬でよく見られる目元の変色は「涙やけ」と呼ばれ、涙が何らかの原因で出続けてしまう「流涙症」で起こります。流涙症が起こる原因はさまざまありますが、その一つにドライアイが挙げられます。「ドライなのに涙が出続ける」というのは矛盾しているように感じるかもしれませんが、これには涙の種類が関係しています。

常に目の表面に出ている涙は「基礎分泌の涙」と呼び、何らかの刺激を受けて出る涙は「反射性分泌の涙」と呼びます。私たちも玉ねぎを切っている時や目にゴミが入った時に涙が出てくると思いますが、それが反射性分泌の涙です。この涙は目の表面を保護する機能が弱い一方で、粘性が高く目の障害を修復する機能を持つのが特徴です。

そのためドライアイになると乾燥や炎症などの刺激によって粘性の高い涙が異常に出続け、涙やけの原因になることがあります。ただし、涙やけは涙管の詰まりやアレルギー、酸化した油の摂取などさまざまな原因が考えられるため、何が原因で起きているかはきちんと検査をしないとわかりません。


ドライアイになりやすい犬種

ドライアイはどんな犬でも起こる可能性がありますが、シニア犬(老犬)や遺伝的な素因を持つシーズーやブルドッグ、ボストンテリア、ウェスティ(ウエストハイランドホワイトテリア)、キャバリア、パグ、ヨークシャーテリア、ミニチュアシュナウザーなどの犬種はドライアイのリスクが高いとされています。

犬のドライアイの症状

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ドライアイの症状は多岐にわたりますが、以下のようなものが一般的です。
まばたきの頻度が増えるのは、犬が目の乾燥感を緩和しようとする自然な反応によるものです。炎症が起きると目が赤くなったり目やにが増えたりします。犬は目の不快感や痛みを言葉で伝えることができないため、飼い主さんが異変に気づいてあげることが大切です。


犬のドライアイの原因

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ドライアイは複数の要因により引き起こされます。主な原因としては、免疫系の異常があります。これは体が誤って涙腺を攻撃し、その結果、涙の生成が妨げられるというものです。

特定の薬物、特に硫酸アトロピン緑内障の治療に用いられる薬物で瞳孔を広げる働きがある)や抗ヒスタミン薬(アレルギー症状を緩和するために使用される)などが、涙腺の機能を低下させる副作用を持つこともあります。

加齢に伴い涙腺の自然な機能が低下することもドライアイの一因となります。そのため高齢の犬はドライアイのリスクが増加します。

犬のドライアイの治療法

ドライアイの診断は瞬膜の状態、涙の質、角膜の状態など、目のさまざまな特徴を評価する眼科検査により行われます。例えば「シルマーティアテスト」という検査は涙の産生量を測定するためのもので、ドライアイの診断に役立ちます。

治療法は原因と症状の重症度にもよりますが、典型的なアプローチとしては人工涙液を用いて目をうるおし、抗生物質を使用して細菌感染を防ぎます。免疫抑制剤が使われることもあり、免疫系の過剰反応を抑制することで体が涙腺を攻撃するのを防ぎ涙腺の機能を改善します。

最も極端なケースでは涙腺や涙道の外科手術が必要になることもあります。これらの手術は一般的に最後の手段で、他の治療法が効果を示さない場合に選択されます。

食事療法

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食事療法だけでドライアイを完全に治すことは難しいですが、新鮮な食事から適切な栄養素を摂取することは体の自然治癒力を高めることにつながり、ドライアイの治療を良好なものにしてくれます。

オメガ3脂肪酸(特にEPA)は、体の炎症反応を抑制する効果があり、ドライアイによる炎症を緩和する可能性もあります。また、ビタミンAは視覚の健康を維持するだけでなく、目の表面を保護する粘液膜の健康にも重要な栄養素です。ビタミンAの不足は乾燥や炎症を引き起こす可能性があります。

犬のドライアイの予防法

ドライアイは症状が進行してしまうと視力に影響を及ぼす可能性があるため、早期発見・早期治療が重要です。そのためには定期的な健康診断を欠かさないとともに、日常の生活習慣や食事にも注意を払う必要があります。

健康的な食事は体全体の健康維持はもちろん、目の健康を維持するためにも重要です。特にオメガ3脂肪酸やビタミンAは目の健康に直接関与する栄養素であるため、それらを含む食事を心掛けると良いでしょう。また、愛犬の目の周りを清潔に保つことや、適度な湿度を維持することもドライアイの予防に役立ちます。



まとめ

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ドライアイになると涙不足で角膜が乾燥する
涙腺の機能不全がドライアイの主要な原因
ドライアイは慢性化しやすく視力低下のリスクも
定期的な健康診断でドライアイの早期発見が可能
ドライアイは放置すると視力の低下や角膜に穴が開いてしまう(角膜潰瘍)といった深刻な状態を引き起こす可能性があります。ドライアイによるダメージは早期に発見し適切な治療を行うことで、最小限に抑えることができます。愛犬の目の健康を保つためにも、健康的な生活習慣や栄養バランスの良い食事を心掛けてください。