【ペットの防災:被災編】被災したらペットはどうなる?過去の災害から学ぶトラブル事例
当たり前だった日常を奪う地震や洪水、噴火といった自然災害。被災したときに怖いのは自分と大事なペットを守れるかどうかではないでしょうか?本稿では、過去の災害で起こったペットの被災状況や課題などを紹介します。過去の課題を生かして、ご自身にあった備えの参考になれば幸いです。
過去の災害におけるペットの被災状況や課題
地震や洪水、噴火などの自然災害は「今は大丈夫だろう」と油断している時に起こり、当たり前だった日常を奪うものです。
これまでに発生した災害ではどのような被害や課題があり、教訓・対策としてその後の災害に生かされてきたのでしょうか。
三原山噴火(1986年)
伊豆大島にある三原山で1986年に発生した噴火は、200年ぶりともいわれる大噴火でした。約1万人の全島民が島外に避難することになりましたが、そのような緊急事態において動物への対応は避難を含め後回しになってしまいました。
飼い主は動物と一緒に避難することが許可されず、やむを得ずペットを置いて避難しました。そのため「放置されてしまった動物を救ってほしい」という声が多く挙がりましたが、一時帰島の際も飼い主はペットを避難所に連れ出すことが許可されず、ペットは島に取り残されました。
都の職員や消防職員が島に出向いて給餌・給水も行いましたが、人手不足などにより十分に対応することはできず、生命力の弱い動物は次々と死んでしまったと記録されています。
当時は「同行避難」や「同伴避難」という考え方、そしてそれに対応するシステムは構築されていませんでした。当時の「ペットの避難」に関する状況は、現在と大きく異なっていたことがうかがえます。
出典:日本動物福祉協会『JAWSレポート10号』
雲仙普賢岳噴火災害(1991年)
雲仙普賢岳噴火災害では大規模な火砕流が発生し、43人の死者と行方不明者が出ました。火山活動の活発化により周辺地域の住民の方々は避難を余儀なくされました。この際、避難対象区域内に多数のペットが取り残されてしまい大きな問題になりました。それを受けて、長崎県島原保健所からペットと暮らす避難住民に伝えられた項目は以下の通りでした。
- 避難する場合は、安全な場所で飼育管理を行える親戚や知人にペットの飼育管理を依頼すること
- 自力で飼育管理者を探せない場合は、動物病院等で預かるので保健所に連絡すること
- 緊急の避難でやむを得ない場合は、動物の首輪に飼育者の連絡先を記入した名札を着けたうえで放すこと
これらのことから、雲仙普賢岳災害の際にも「同行避難」や「同伴避難」といった考えに基づいた避難は行われていなかったことがうかがえます。
自己申告や聞き取り調査などをもとに飼い主の家に取り残されたペットや離れ離れになったペットと飼い主をマッチングする作業が行われましたが、困難を極めたと記録されています。
出典:長崎県島原保健所『雲仙普賢岳災害活動記録』
阪神・淡路大震災(1995年)
1995年1月17日に発生した大地震は神戸と洲本で震度6を観測したほか、豊岡、彦根、京都で震度5、大阪、姫路、和歌山などで震度4を観測するなど、東北から九州にかけて広い範囲で地震を感じ取れるほどの大きさでした。この災害による人的被害は、死者6434名、行方不明者3名、負傷者43,792名という極めて深刻な被害をもたらし、ペットも飼い主とはぐれたり負傷したり死亡したりするなど、推定9300頭のペット(犬が4300頭、猫が5000頭)が被災しました。
初期の被災地ではペットに与えるごはんもなければ、負傷動物を手当てする術もなく、飼い主と別れた動物を探す余裕もありませんでした。
当時、避難所に避難した飼い主の多くは迷わず、初めから同行避難してきた記録があります。また、避難所の約8割で動物を飼育できていたとのことから、過去の災害を経て「同行避難」や「同伴避難」の考えが生まれてきたタイミングといえるでしょう。
ただしペットをめぐるトラブルが多発し、避難所の対策本部の責任者の判断でペットと暮らす人たちを全員、避難生活45日目に避難所から退去させることになった事例が一例ありました。
強制退去は一例ですが、避難所でのペットをめぐるトラブルは多発し、ペットのための防災準備や避難所でのペットとの暮らし方に関する啓発や指導の重要性が浮き彫りになりました。
出典:阪神・淡路大震災教訓情報資料集【04】動物愛護対策
『阪神・淡路大震災 -長田保健所救援活動の記録-』神戸市長田保健所(1995/9),p.67
東日本大震災(2011年)
各地に未曽有の被害をもたらした東日本大震災では、災害時におけるペットの避難や動物の管理が大きな課題として浮き彫りになりました。震災発生時に飼い主が家にいなかったり、一緒に避難できなかったりしたことで多くのペットが家に取り残され、建物の倒壊や津波に巻き込まれて犠牲になってしまいました。
福島第一原発事故という特異な事象も重なり、ペットの野良犬・野良猫化や家畜の野生化も問題になりました。
飼い主とペットが一緒に行動できた場合においても、ペットの受け入れ体制が整っていない避難所が多く、避難する場所やペットのための物資、避難者同士の相互理解、そして避難後にどう飼育していくかなど、さまざまな問題・トラブルが発生しました。
熊本地震(2016年)
東日本大震災での事例を受けて、環境省は2013年に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を発表し、2018年に改訂しました。動物愛護や飼い主の心のケアなどの観点からペットの同行避難が推奨されました。
東日本大震災で得られた課題を教訓として制度や意識の改善はあったものの、避難所の居心地の悪さからペットと共に車中泊で避難し、エコノミークラス症候群を発症するケースが相次ぎました。
ただ「避難所にペットが入ることを認める」というだけでなく、人とペットが共に過ごすために何が必要なのかという問いが課題として残りました。
被災時に起こったペットに関する問題
被災状況によっては日常が日常でなくなり、不便な生活が始まります。ただ、災害を経験したことがないと、具体的に想像することは難しいでしょう。
以下は過去の災害で、実際にあったペットに関する問題です。
災害時の問題
- 家屋の倒壊や倒れた家具によりペットが逃げられず死亡した
- 床一面にガラスが飛散し、人もペットも足に怪我を負った
- 外飼い猫のため、被災当日から自宅に戻らず同行避難できなかった
- ペットの受入れ可能な避難所がどこにあるのかわからなかった
避難先での問題
- 避難してしばらく、人の支援物資はあるが、ペットフードの支援はなかった
- 避難所で犬が吠えて迷惑をかけるため、やむを得ず車中での避難になった
- 糞の放置や毛の飛散などが原因で他の避難者とトラブルとなった
- 救援物資のペットフードを食べなくて困った
- 避難所にペットとともに避難したが、特定食(治療食等)の入手に苦労した
- 犬がケージに慣れていないため、過度なストレスを与えてしまった
- 犬がペットシーツに排尿・排便せず、苦労した
- 他人や他の場所、他の動物に慣れないため、どこにも預けることができず苦労した
- 予防接種をしていないペットが多くいたので感染が心配だった
過去に起こった問題を知った上で、自身・愛犬(愛猫)にあった防災対策を心がけましょう。
被災時にペットを守る準備
グッズ
災害へ備えることは、ペットたちのストレスを最小限に抑えるだけでなく、災害時でもペットの健康や安全を守ることにつながります。定期的にペット用防災グッズの点検や補充を行い、災害への備えを万全にしましょう。
必需品 | ペットの非常食 | 5日分以上 |
---|---|---|
ペット用の水 | 5日分以上 | |
フードボウル | 1点 | |
薬・療法食 | 5日分以上 | |
リード・ハーネス | 1つずつ | |
ペット用キャリー | 1点 | |
ペット用トイレグッズ | 5日分以上 | |
ビニール袋・マナーポーチ | 1点ずつ | |
防災手帳 | 1点 | |
迷子札 | 1点 | |
ペットの写真 | 1枚 | |
あると役立つもの | 布類 | 1枚以上 |
靴 | 1点 | |
お気に入りのおもちゃ | 1点以上 | |
ボディシートや水のいらないシャンプー | 1点以上 | |
アルミシート | 1枚以上 | |
ガムテープ | 1点以上 |
\ペトコトおすすめの非常食/
ペトコトフーズの非常食は、栄養学の専門獣医師が作ったレシピをもとに、国産食材を使った人も食べられる品質の犬の総合栄養食。
冷凍庫が使えない停電時や避難所でもご利用いただけるように、常温で2年間保存ができるレトルトタイプを開発。水分量の多いウェットタイプのため、飲み水が不足しがちな避難生活の環境下でも効率よく水分補給が可能です。
PETOKOTO FOODSでは、常温で2年間保存できる犬用の非常食も用意しています。まだ準備できていなければご検討ください。
犬用非常食を購入する
しつけ・トレーニング
被災時に大切なのは「必要以上のストレスを与えないこと」「安心できる環境を与えてあげること」です。想定される事態への耐性をつけておくことで、必要以上のストレスを回避することができます。
犬猫共通 | クレートの中で落ち着いて過ごせる「クレートトレーニング」 |
---|---|
犬 | 人や環境に慣れさせる |
犬 | 名前を呼んだら戻ってくる「呼び戻し」 |
猫 | リードやハーネスに慣れさせる |
「クレートトレーニング」と「呼び戻し」のトレーニング方法は、以下の関連記事をご覧ください。
その他
その他にも以下の8点をしておくと、有事の際に役立ちます。- 家具を固定する
- ワクチン接種や寄生虫予防をしておく
- 不妊・去勢手術を行っておく
- マイクロチップを入れる
- 避難所の所在地を確認する
- 避難所までのルートを確認する
- 預かってくれる人がいるか確認する
- 避難訓練に参加してみる
ペットと人が共有できる非常食の知識
地震や洪水など災害が発生して自由な食料調達ができなくなった場合、一時的に人とペットが食事を共有することを検討しなければいけないかもしれません。しかし、犬や猫が食べてはいけない食材など注意点もあります。
災害時はどれだけ準備をしても想定外のことが起こるもの。非常食だけでなく、知識も備えておくことで家族の命が守れるようなります。
人はペットフードを食べても大丈夫?
結論からいうと食べられます。人がペットフードを食べて直ちに健康に影響が出る可能性は低いと考えられます。ただし、ドッグフードもキャットフードも法律上は「雑貨」で、「食品」として扱われていません。人が食べることは想定されていませんので、あくまで「非常時の話」という点はご理解ください。
ペットは人のごはんを食べても大丈夫?
「チョコレート」や「ニンニク」「タマネギ」といった犬や猫が食べると中毒症状を引き起こす可能性がある食べ物は絶対に与えてはいけません。また人用の加工食品もNG。中毒物質が入っていなかったとしても、犬猫にとって過剰な塩分、糖分、脂質、添加物の摂取につながる可能性があります。
犬猫が食べてもいい食材は以下の関連記事で一覧にしていますので、参考にしてください。
東京都の災害時におけるペットの救護対策
災害時のペットの救護対策は各自治体によって異なります。
東京都ではどのような取り組みを行っているのか、東京都福祉保健局(環境保健衛生課 動物管理担当)の担当者にお話を聞きました。
Q. 避難が必要になったとき、ペットはどうすればいい?
-
可能な限りで同行避難(=ペットを連れて避難すること)を推奨しています。
ただし、避難所運営に関する具体的なルールは各市区町村や避難所ごとに定めることになりますので、ペット受け入れ可否や避難所内でのスペース利用などについては事前にお住まいの市区町村に問い合わせていただければと思います。
なお、ペットの受け入れを行っている避難所であっても、アレルギーや鳴き声、臭いなどの関係で、飼い主とペットが同じスペースに避難する同伴避難は難しいかもしれません。
Q. 犬や猫以外のペットは一緒に避難できる?
-
どのペットも等しく大切な命です。犬や猫が多いので、どうしてもペットの災害対策は犬や猫を中心としたものになってしまいますが「犬や猫でないから避難できない」ということは絶対にありません。
ただし、ペットの種類によっては、避難所での受け入れができない場合があります。例えば、特殊な環境やフードなどが必要な動物、ストレスに弱い動物、特定動物(動物愛護管理法により飼養に許可が必要な動物)など「避難所で飼育できない」と考えられる動物の受け入れは難しいと考えられますので、このような動物を飼う場合は、万一のときの預かり先を事前に確保しておく必要があります。
Q. 災害時、ペットとはぐれてしまったり、ペットが逃げてしまった場合は?
-
東京都は、災害時に関係団体等と協力して「動物救援本部」を設置し、負傷したり放し飼いとなってしまった動物の保護などを行うことになります。
災害時に限りませんが、仮にペットとはぐれてしまった場合でも、すぐに遠くまで行ってしまうということは少ないはずです。まずは近くの避難所や近隣住民の方々に連絡・確認をしてください。
迷子札やマイクロチップを付けていると、より確実にペットと飼い主を結び付けることができるので、事前に準備しておいてください。特に犬は、狂犬病予防法により、鑑札や注射済票の装着が義務付けられています。
鑑札に記載された登録番号から飼い主が分かりますので、平常時から首輪などに必ず付けておくようにしてください。
また、ペットの写真を持っていると見た目など特徴に関する情報を伝えやすくなりますので、念のため用意しておくことも大切です。
Q. 都民がペットの救護対策で事前にすべきことは?
-
まずは「備えること」をしてほしいです。
ペットと避難できる避難所を確認し、ペットのために必要な防災用品(フード・水、常備薬・療法食、ペット手帳(健康の記録)、トイレ用品、首輪・リード、ケージなど)をすぐ持ち出せる場所にまとめて用意し、ペットが避難所でも他の人や動物に迷惑をかけることがないようにしつけをするなど、対策を十分に取っておいてください。
災害時には、ペットに関する物資はしばらくの間手に入らないことが想定されます。
ペットにとって「いつも使っているもの」が一番ですので、飼い主が責任を持って備えをしていただければと思います。
まとめ
過去の災害を経て、避難所でのペットの受け入れや生活環境は改善されていますがトラブルはつきものです。
ペットを守るためになるべくトラブルが起こらぬよう、日頃から災害に対して準備をしておきましょう。