犬が吐く場合の原因や対処法を獣医師が解説
愛犬が吐くと飼い主さんはびっくりしてしまうと思います。白い泡や茶色い未消化のドッグフードを吐いたり、吐物が黄色や透明、血が混じって赤かったりして中には緊急性が高いものもあります。犬の体は人より吐きやすい仕組みになっているためストレスで吐くこともありますが、下痢など消化不良、繰り返す、食欲がない、急に倒れるなど他に症状がある場合は注意が必要です。今回は犬が吐く場合(嘔吐・吐出)の原因や対処法について、獣医師の船田が解説します。
犬が「吐く」とは(嘔吐と吐出の違い)
一般的に「吐く」と呼ばれる行為は、獣医学において「嘔吐」と「吐出」(としゅつ)の二つに区別されます。
嘔吐 | 吐出 | |
---|---|---|
前兆 | よだれ、えづく、口の周りを舐めるなど | なし |
食後、吐くまでの時間 | さまざま | すぐに吐くことが多い |
お腹の動き | あり | なし |
吐物の消化/未消化 | さまざま | 未消化が多い |
吐物を食べる/食べない | 食べない | 食べることが多い |
嘔吐は皆さんもご存じかと思いますが、頭を下げて腹部を大きく上下に動かし、「ゲッゲッ」と音を立てた後に吐き出します。食後しばらくしてから吐き出すことが多く、吐物の内容は消化された、もしくは部分的に消化された食物や胃液などです。
吐出は食べ物が胃に到達する前に逆流し、吐き出される状態のことを言います。吐く前に前兆は見られません。吐物の内容は未消化な食物(食べたまんまの状態)や唾液などです。
本稿では吐出ではなく、嘔吐にスポットをあてて解説します。
犬が嘔吐した場合に考えられる原因・病気と症状
犬が嘔吐した場合に考えられる原因は以下の6点が挙げられます。
- 消化器疾患
- 胆汁嘔吐症候群(逆流性胃炎)
- 内蔵疾患もしくは内分泌疾患
- 中毒
- 感染症
- 環境の変化などのストレス要因
消化器疾患
胃炎、胃腸炎、膵炎、異物、腫瘍、食物アレルギー、腸閉塞、便秘など一番多い原因です。胆汁嘔吐症候群(逆流性胃炎)
いわゆる空腹時の嘔吐です。胃液や白い泡を吐き、朝方に多く見られます。内蔵疾患もしくは内分泌疾患
腎臓病や肝臓病などの内蔵疾患から、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、子宮蓄膿症などを患っている場合に吐くことがあります。中毒
チョコレート中毒や薬剤などによる中毒症状として見られることもあります。感染症
寄生虫やウイルス感染、細菌感染などあらゆる感染症で嘔吐だけではなく、下痢も引き起こすことが多いです。環境の変化などのストレス要因
環境の変化によって下痢になったり、吐いたりすることがあります。例えば、以下のようなストレスがかかった際に引き起こされます。- 引っ越し
- 来客時の興奮
- 留守番の不安
- 雷や花火などへの恐怖症
- トリミングに行った後
- 入院やホテル中のストレス
1日、2日で良くなる場合は心配ありませんが、それをきっかけに腸内細菌叢が乱れてしまい慢性経過をたどる可能性がありますので注意しましょう。
犬の嘔吐で動物病院へ連れていくべき症状
犬が吐くこと自体は珍しいことではありません。吐いたあとにケロッとしている場合や食欲がある場合は様子見で問題ないでしょう。
ただ、嘔吐を1日以上繰り返してしまったり、以下の症状が見られる場合は重篤な病気の可能性があります。すぐにかかりつけの動物病院に連れて行ってください。
- 元気が無く、ぐったりしている
- 熱がある
- ごはんを切り替えた以外で下痢をしている(特に子犬)
- お腹を痛そうにしている
- お腹がいつもより張っている
- 嘔吐や空嘔吐(吐きそうにしているのに吐けない)を繰り返している
- 吐いた物に血が混ざっている、異物が混ざっている
- 吐いた物から便の臭いがする
- 嘔吐以外に他の症状がある(よだれを垂らす、痙攣する、呼吸がおかしい、尿が出ないなど)
また、ネバネバとしたものを吐いた場合は、何度も吐いていたり、脱水を引き起こしている可能性があります。高齢犬の場合は喉につまらせてしまうことがありますので、病院へ行くことをおすすめします。
犬の嘔吐の対処法
犬が嘔吐した場合で、様子を見る場合は以下の対処を検討してください。
吐物の内容、吐いたタイミングを確認する
吐物の内容や吐き戻したタイミングにより、「嘔吐なのか」「吐出なのか」をある程度判断することができます。前述したように、食後しばらくたってからある程度消化された食物や胃液などが出てくるのが嘔吐で、食後すぐに未消化の食物や唾液が出てくるのが吐出です。この二つの判別が、治療の際に役立ちます。
<吐く以外の症状を判断する>
吐く以外にどのような症状があるかを判断します。緊急性があるものは、「食欲が無い」「元気が無い」といった場合です。この場合はすぐに病院へ行ってください。<便を持参して病院へ>
嘔吐だけでなく、下痢や軟便も引き起こしている場合は、糞便検査も必要となりますので、動物病院を受診する際は便も一緒に持参しましょう。食事を変更する
食事を流動食や缶詰など消化の良いものに変えたり、ドライフードでも種類を変えたりしてみることで吐き気が止まる場合があります。また、タイプの違うごはんに切り替えると腸内細菌が変わるため、お腹がびっくりして一定期間慣れずに嘔吐や下痢になる場合があります。少しずつ従来のごはんと混ぜながら切り替えてあげましょう。<下痢をしている場合は食事を1回抜く>
下痢をしている場合、子犬でないのであれば食事を1回抜いてみましょう。その後はいつもの食事をすぐに通常量与えるのではなく、1回の量を少なくして回数を多くし(少量頻回)、固形状のものではなく、柔らかくしたり(またはふやかすか)、流動食にしたりして与えた方がお腹への負担が軽減されると思います。
<朝方か空腹時に吐くようなら食事の回数を増やす>
朝方もしくは空腹時に胃液や白い泡を吐く場合は逆流性胃炎が考えられるため、まずは食事の回数を増やしてみましょう。犬の嘔吐・吐出でよくある質問
犬の嘔吐・吐出は飼い主さんが目にしやすいため、質問も多く頂きます。そこで、よくある質問についてお答えします。
Q. 犬が嘔吐物を食べるのは問題ない?
犬は一気にごはんを飲み込んで、消化しきれず吐いたり、お水を一気に飲み過ぎたはずみで吐くたりすることがあります。嘔吐したものを食べてしまっても問題はありませんが、頻繁に吐くようなら食事が体に合っていない可能性や、何か病気が隠れている可能性がありますので、動物病院で診てもらうようにしてください。
Q. 朝方に黄色い液や白い泡を吐くのは大丈夫?
犬が朝方に黄色い液や白い泡を吐くことがあります。大半は、他に症状がなく、元気で食欲もあります。これは夜間の空腹が原因で起こる胆汁嘔吐症候群(逆流性胃炎)である可能性があります。胃十二指腸反射によって、黄色の胆汁を含む十二指腸液が胃内へ逆流し、胃の粘膜が刺激されることで引き起こされると考えられています。朝方に限らず、夜ごはんを食べる前(夕方)に吐くこともあります。
予防として、空腹時間を短くするために、一日量は変えないで、ごはんの回数を増やすことで大半は症状がなくなります。例えば、毎回朝方に吐くようなら寝る前にごはんを与えたり、夕方に吐くようならお昼にごはんを与えてあげればいいです。
また乳製品は胃の粘膜を保護する作用があるので、乳製品にアレルギーがなければ、寝る前、お昼にヨーグルトを少し与えてもいいかと思われます。空腹対策をしても嘔吐が続くようなら動物病院で診てもらった方がいいでしょう。
Q. 草を食べてよく嘔吐するのですが……
お散歩中に草を食べて嘔吐することは、多くの犬で見られます。なぜ草を食べるのか実際のところははっきりとした理由は分かっていません。「胸やけがするので草を食べることによってその刺激で、胃の中にとどまっている食べ物や余分な胃酸を吐き出そうとしている」「繊維質を草から摂取している」「特別な栄養素を摂ろうとしている」など、さまざまな見解があります。
しかし、草が胃炎の原因になったり、除草剤(農薬)が付着していたり、犬猫の糞尿に汚染されていたりする可能性がありますので、なるべく食べさせない方がいいかと思われます。食事を変えてみると、草を食べなくなることもあります。
Q. 乗り物酔いがひどくて……
犬も乗り物酔いをして流涎、嘔吐などの症状が見られる場合があります。成長期に見られることが多く、人と同様に大人になったら自然に症状が出なくなることがあります。予防法として、- 満腹および過度な空腹の状態で乗せないようにする。
- 乗る1時間前までに酔い止めのお薬を飲んでおく。
- 乗るとパニックを起こしたり、過剰に興奮したりする犬には、乗る1時間前までに不安を和らげたり、眠くなったりすするお薬を飲んでおく。
などが挙げられます。犬の性格、症状によってお薬の種類や量が異なりますので、かかりつけの動物病院で相談してください。
Q. 何も吐かず、えずいている
吐きたそうにはするものの、何も出てこない嘔吐(空嘔吐)が認められることがあります。よく犬が「えずいている」「吐き気がある」と来院されることがありますが、何かしら内容物が出た後にえずいてるようであれば、前述した消化器疾患や消化器症状を引き起こす消化器疾患以外の病気が考えられます。消化器疾患ではなく、呼吸器疾患であることもあります。興奮した時、お散歩中にリードを引っ張った時、食事中やお水を飲んでる最中などにえずくと飼い主さんがおっしゃることが多いです。
身体検査で、頚部(首)気管を軽く圧迫すると、「カッ、カッ、カッー」と吐きたそうにするものの、何も出てこない空嘔吐が誘発されることがあります。
大半は気管虚脱であることが多いですが、犬が咳込んでえずいていると、気管支の病気、肺の病気、心臓の病気であることがあるので注意が必要です。
大型犬・超大型犬で胸の深い犬種(グレートデーンやアイリッシュセッター、ジャーマンシェパード、ワイマラナー、セントバーナード、ドーベルマン・ピンシャーなど)が行ったり来たり歩き回って落ち着きがなく、頻繁に嘔吐いたり(空嘔吐)、流涎、お腹を痛そうに伸びをしたり、お腹が膨れていると「胃拡張捻転症候群」(胃が膨れてねじれてしまう疾患)の可能性があります。
緊急性を要するのですぐに動物病院に連れて行ってください。小型犬でも発症する可能性があるので注意が必要です。
原因は解明されていませんが危険因子として、「1日1回の多量な食事」「食物の早食い」「水や食物を摂取した直後の激しい運動」「加齢」「ストレス」「臆病な性格」「荒い気性」「体重過小」などが挙げられます。
Q. なんでもかんでも口にして吐く
一般的に食べ物以外のものを摂取してしまうことを、「異物食い」または「異食症」「異嗜症」(いししょう)と呼びます。なんでもかんでも食べるというよりは、ある特定の素材に過剰な執着を示す場合が多いようです。こうした問題行動が生じる原因は、はっきりとは特定されていませんが、子犬の時は好奇心からの行動であることが多くあります。
自分の、またはほかの動物のうんちを食べたり(食糞)、おもちゃ、ティッシュペーパー、ペットシーツ、布製品(タオル、靴下、ストッキングなど)、お散歩中に石ころなどを食べてしまったりして来院されることが多いです。
成犬になっても異食症が目立つようであれば、何か病気が隠れている可能性もあります。消化器疾患、貧血、肝疾患、寄生虫感染、内分泌疾患などがあって食欲が異常に増していることで、異物を食べてしまっている可能性もあります。
飼い主の関心を引くため、または分離不安や常同障害を含むストレスが関与する疾患や、不安障害の症状の一つとして現れることも多いです。
普段外来でよく見る症状として、例えば、
- 食欲は異常にあるが食べても太らない、むしろやせている
- お腹がギュルギュルいってごはんを食べず、半日様子を見ると食べ始めるが嘔吐、軟便、下痢、粘膜便をすることが時々ある
- お散歩中何回も絞り出すかのように排便をして、最後の方の便がゆるいまたは下痢をする
- 目の周りの毛が薄く赤い、耳・趾間部が赤い、皮膚をかゆがっている
などの症状が認められれば消化器疾患、食物アレルギー性疾患であることが多いのでかかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。
食事を変えてみたり、お腹のサプリメントを服用することでお腹の調子が良くなり、糞食、異食症が改善することがあります。
いつもと違う犬の嘔吐が見られたら病院へ
犬は人と違って吐くことが多い動物です。ただの食べ過ぎや空腹が原因で吐いていることもあれば、病気で吐いていることもあり、原因はさまざまです。
いつもと違う症状や気になることがあったら、早めに動物病院に行って相談しましょう。その際、いつ吐いているのか、吐く前の状況、吐いた内容物、吐いた後の様子などがわかれば、早期診断に役に立つと思います。
参考文献
- 佐藤貴紀『犬の急病対応マニュアル』鉄人社
- 『犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている』インターズー
- 『SA Medicine 98号』「特集 症候シリーズ 嘔吐①」インターズー
- 『SA Medicine 102号』「特集 症候シリーズ 嘔吐②・吐出・嚥下障害」インターズー
- 長谷川篤彦,辻本元監訳『スモールアニマル・インターナルメディスン 第3版 上巻』インターズー
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